創作をめぐる対話、葛藤……『タイムパラドクスゴーストライター』は何を描こうとしたのか?

 『タイムパラドクスゴーストライター』(集英社、以下『タイパラ』)が第2巻で完結した。市真ケンジ(原作)と伊達恒大(作画)が、『週刊少年ジャンプ』で連載していた本作は、漫画家志望の青年・佐々木哲平が、未来から送られてきた2030年の少年ジャンプに連載されていた漫画『ホワイトナイト』を自分の作品としてジャンプで連載してしまうことから始まる。

 大場つぐみ(原作)と小畑健(作画)が手掛けた『バクマン。』(集英社)があったとはいえ、ジャンプでは珍しい漫画家が主人公の漫画だったため、第一話は良くも悪くも話題となった。中でも、佐々木の行為は盗作ではないか? という批判が多く、だからこそ、物語の行方が注目されていたのだが、残念ながら物語は唐突に終わってしまった。

 おそらく不人気ゆえの打ち切りだろうが、物語としては綺麗にまとまっており、加筆された後日談を読むと、これはこれで良かったのではないかと思う。

 以下、ネタバレあり。

 第1巻のラスト。未来の『ホワイトナイト』の作者であるアイノイツキが連載中に逝去したことが明らかになる。アイノイツキとは、佐々木のアシスタントをしている漫画家志望の少女・藍野伊月のことだ。

 本来なら彼女が描くはずだった『ホワイトナイト』を自分が描いていることに佐々木は罪悪感を抱いていた。だからこそ、佐々木は、少しでも漫画を良くしようと努力してきたのだが、ここで物語は急展開し、漫画で藍野に勝たないと、彼女が死んでしまうことが明らかになる。

 佐々木は、『ホワイトナイト』の続きを自分自身の手で続けることに。一方、藍野は漫画家としてデビューし、連載漫画『ANIMA』をスタートする。『ANIMA』は、第1話で『ホワイトナイト』を抜き、人気投票第1位となる。その後、藍野は漫画を描くことに神経をすり減らし、過労で命を落とす……。

 おそらく『タイパラ』は、佐々木が藍野を助けるために同じ時間を何度も繰り返すタイムリープモノのSF漫画となる予定だったのだろう。これは藍野を助けるために未来のジャンプを佐々木に送っていた「人の『想像する力』が生んだ幽霊」とのやりとりから伺い知れる。

 最終的に物語は、「時の止まった世界」で佐々木が、何度も書き直した末に藍野が面白いと思える漫画を描き挙げることで勝利し、藍野の死なない世界線を作ることで結末を向かえるのだが、では佐々木は、どんな漫画を描くことで藍野に勝ったのか?

 物語冒頭、佐々木は、担当編集者の菊瀬から「個性がない」「空っぽ」だと否定される。この意見をねじ伏せたのが、未来の『ホワイトナイト』第一話を読み切り用に書き直したネームだったが、興味深いのは、藍野は『ホワイトナイト』を「透明な傑作」と評し、佐々木を同類だと思っていたことだ。

 藍野は漫画に個性(作家性)が出るほど「合う人・合わない人が出てくる」と考え、もしも全人類が楽しめる究極の漫画を作れるのだとしたら「無個性」でかつ「世界で一番面白い」漫画だと考えている。だからこそ、自分の個性を消そうとしていた。

 佐々木が「無個性」で「空っぽ」であることは「漫画家として才能がない」こととイコールだったが、藍野は、無個性で空っぽ(=透明)であることこそが「面白い漫画」を描くのに必要だと考えていた。凡人の佐々木と天才の藍野の物語に見えた本作だったが、実は2人の本質は同じだったと『タイパラ』は描いた。そして最終的に佐々木と藍野は、漫画を描く際に抑圧していた個性を開放し「漫画を描くことの楽しさ」を思い出すことで、漫画家として(あるいは、人間として)救われる。

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