映画ファンが思わず語り合いたくなる? 『映画大好きポンポさん』には仕掛けがいっぱい

『映画大好きフランちゃん』『映画大好きカーナちゃん』

 さらにシリーズ第3弾『映画大好きフランちゃん』は、『2』のストーリーをフランの視点にして、あらためてスター誕生の経緯を綴っている。第4弾『映画大好きカーナちゃん』は、フランの演劇学校の後輩のカーナ・スワンソンが、科学考証家との出会いを経て、SF映画の主役をやり切る様子が描かれている。一作ごとに登場人物が増え、映画の都ニャリウッドで生きる、映画隊好きな人々の群像ドラマのようになってきた。どこまで人の輪が広がってもOK。このまま、ネバー・エンディング・ストーリーなシリーズになることを祈っている。

 また、一連の作品のクライマックスは、かならず見開きカラーになっている。パートカラー映画ならぬ、パートカラー漫画というべきか。面白い工夫であり、視覚的な効果抜群だ。

 ところで本シリーズは、当然といえば当然なのだが、やたらと映画ネタが多い。たとえば主要人物の紹介には、必ず好きな映画が3本挙げられている。ポンポさんは『セッション』『デス・プルーフ in グラインドハウス』『フランケンウィニー』。ポンポさんと仲のいい人気若手女優のミスティアは『カミーユ・クローデル』『アデネの恋の物語』『プロンテ姉妹』。ジーン・フィニは『スティング』『ファイト・クラブ』『タクシードライバー』。ポンポさんの片腕である職業監督のコルベットは『魔女っこ姉妹ヨヨとネネ』『宇宙ショーへようこそ』『アリーテ姫』。きりがないのでこれくらいにしておくが、各人の好きな映画を見るだけで、キャラクターのイメージが強化されるのだ。ジーンの好きな映画など、いかにもな出来上がった映画狂のセレクトでニヤニヤしてしまう。

 しかも映画ファンならば、いろいろ妄想できるのが嬉しいところ。フランの初主演作『ランチ・ワゴン』のタイトルは、ミュージカル映画の傑作『バンド・ワゴン』を、もじっているのだろうか。ナタリー・ウッドワードは、ナタリー・ウッドが元ネタに決まっているけど、ジョアン・ウッドワード(『テキサスの五人の仲間』の快演が忘れられない)も意識しているのか。こんな感じで映画や俳優のことを、あれこれ話したくなるのだ。それもまた本シリーズの、楽しみ方なのである。

■細谷正充
1963年、埼玉県生まれ。文芸評論家。歴史時代小説、ミステリーなどのエンターテインメント作品を中心に、書評、解説を数多く執筆している。アンソロジーの編者としての著書も多い。主な編著書に『歴史・時代小説の快楽 読まなきゃ死ねない全100作ガイド』『井伊の赤備え 徳川四天王筆頭史譚』『名刀伝』『名刀伝(二)』『名城伝』などがある。

■書籍情報
『映画大好きポンポさん』(1〜2)『映画大好きフランちゃん』『映画大好きカーナちゃん』(すベてジーンピクシブシリーズ)
著者:杉谷庄吾【人間プラモ】
出版社:KADOKAWA

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