冨樫義博『レベルE』なぜ少年漫画らしからぬ作風に? 奇妙でダークなSF漫画の先見性

 環境汚染への問題視は明らかだ。「ムコ探し編」では、地球の遺伝子を傷つける因子として異星人の王女が登場するわけだが、そのSF的存在が無くとも「出したクソは他人まかせ」な地球人が自らの首をしめつづけるのだ、と突きつけるように現実とつながる問題が提起されている。

『HUNTER×HUNTER(22)』

 自然環境への視点、それを損なわせる人類への疑念は、冨樫義博の作家性とも言える。『レベルE』の初期にあたる「食人鬼編」では食の倫理まで揺さぶっているし、『HUNTER×HUNTER』の「キメラ=アント編」では、人類は果たして外来生物の侵略から護られるべき存在か、壮大な問いかけが垣間見られる。元々、山形県新庄市で育った冨樫義博は、川や洞窟で遊ぶアウトドアな子ども時代を過ごしたという。『UZEN』におけるインタビューでは、建設省への意見も求められた際、故郷の思い出の中心は自然だからこそ、なるべく自然環境や昔ながらの佇まいを残しつつ整備していってほしい、とコメントしている。彼の価値観の基盤を形成する「裏側の汚い部分」への着目にしても、ドブのそばに咲いた紫陽花をスケッチしていた中学生時代が根底にあるようだ。『レベルE』が連載を終えた1997年には、ちょうど気候変動枠組条約である京都議定書が採択されているが、それから20余年経った2020年、環境にまつわる問題は拡大しつづけている。

 「少年漫画」らしからぬ『レベルE』だが、ある種ポジティブな学びも与えてくれる。地球と違って宇宙外交が進んでいるドグラ星の軍隊員は、当然のように「さまざまな星人の生態」に詳しい。しかしながら、いざ対面してみると「本で読むのと実際見るのは大違い」だと発覚するパターンが散見され、「ムコ探し編」でも「(そういうことは)宇宙生物学ではよくあることです」と語られる。これこそ、皮肉として機能しつつ、読者をワクワクさせもする魅力的な部分だ。ゆえに、非なる王道として始まった『レベルE』は、「探究のロマンチシズム」を与える面において「少年漫画」の王道たる一面も持っているのではないか。もちろん、作中その心意気が発揮されることによって、地球人自体を滅ぼす純愛が成立してしまうのなら、不条理でしかないのだが……。

■辰巳JUNK
平成生まれ。おもにアメリカ周辺の音楽、映画、ドラマ、セレブレティを扱うポップカルチャー・ウォッチャー。著書に『アメリカン・セレブリティーズ』(スモール出版)
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