AI手塚治虫『ぱいどん』はコンテンツ産業にとってどんな意義があった? クリエイターがAIに求めたこと
「手塚治虫的」であることから離れればもっと活用法は広がる
『ぱいどん』のプロジェクトが扱っていたのは、機械(道具)と人間がいかに共同作業をするか、得意分野を分担するかという普遍的な問題の最新型だ。道具を作る側の科学者や技術者は整った「それっぽいもの」を好むが、道具を使う側のクリエイターは「どう転ぶかわからないもの」を好む。この違いを「作る側」に認識させたことに意義がある。
これまでAI研究者やAI技術を利用したサービスの開発者は「馴染む」「違和感を抱かせない」こと、日常生活や仕事に「溶け込む」ことを重視してきた。ところがそういうものと創作アシストAIとでは、異なるアウトプットを目的に作られなければいけない。それをAI技術の研究開発サイドに認識させたことが重要な成果だ。
したがって、この先のことを考えると、実は「手塚治虫に近づける」という点が本当に必要かどうかは微妙なところだ。特定の存在に近づけることを目的としなければ、キャラクターやプロットの自動生成はもっといろいろな利用法が考えられるからだ。「らしさ」をゴールにすると、似ているか似ていないか、本物にどれだけ近づけたかが評価基準になってしまう。しかしむしろ「らしさ」ではなく「おもしろさ」を主たる目的にしたほうがエンタメ産業への貢献度は上がるはずだ。
この気づきを踏まえての、マンガ創作に対するAI利用の次の成果が待たれる。
■飯田一史
取材・調査・執筆業。出版社にてカルチャー誌、小説の編集者を経て独立。コンテンツビジネスや出版産業、ネット文化、最近は児童書市場や読書推進施策に関心がある。著作に『マンガ雑誌は死んだ。で、どうなるの? マンガアプリ以降のマンガビジネス大転換時代』『ウェブ小説の衝撃』など。出版業界紙「新文化」にて「子どもの本が売れる理由 知られざるFACT」(https://www.shinbunka.co.jp/rensai/kodomonohonlog.htm)、小説誌「小説すばる」にウェブ小説時評「書を捨てよ、ウェブへ出よう」連載中。グロービスMBA。