90年代『コミックボンボン』がオタクに与えた衝撃ーートラウマ級ガンダム漫画に見る、大人の悪ふざけ

 これらの作品から伝わってくるのは、当時の漫画家とボンボン編集部のやりたいことをやっている感である。ガンダムというタイトルをどのような方向からどう切り取るか、作者も自由にやっているし、それを子供向け雑誌に載せる編集部も編集部である。改めて読んでみても、このネタ選定と切り取り方の多様さには驚かされる。こういったガンダムに対するアプローチの多様さによって、この増刊号は"プレ『ガンダムA』"という趣となっているのだ。

 こういったやりたい放題感、「こんなことをやっていいのか!」という驚きは、当時まだ子供だったおれにも確かに伝わっていた。小学生からすれば、オタクの悪ふざけは自分よりはるかに年上の人間がやる、「大人の遊び」である。子供の自分が読む雑誌に、内容的に全く容赦がないマンガがそのまま掲載されていることには、まるでそれに自分が参加させてもらっているようなドキドキ感があったのだ。あれは楽しかった。他のボンボン派諸氏も、この感覚はちょっとわかってもらえるのではないか。

 先ほども書いたが、このやりたい放題の誌面は増刊号に限った話ではない。通常の号でも毎月この調子なのだ。田舎の子供が触れることのできないカルチャーや商品をマンガと一緒に見せてくれるボンボンがおれに与えた影響は、今考えると相当に大きかった。

 今となっては自分もタダのオタクなので、当時のボンボンを見ても「すっげえなあ!」「よくこれを載せたなあ!」「やってんなあ!」という半分呆れたような驚きの方が先に立つ。しかしあの当時のヒネたガキンチョは、その容赦のない内容によって「背伸びをする楽しさ」を味わっていたのである。身の丈に合わないものを背伸びして垣間見る楽しみは、子供の特権だ。それを味わわせてくれた90年代のボンボンは、やはり無二の雑誌だったと思うのである。

 ちなみにこの増刊号に掲載された作品のうち一部は、『ガンダム短編集』というタイトルで2006年に講談社から単行本化されている。『極東MS戦線記』も『DEAD ZONE』もこの本で読めるので、興味のある方は探してみてほしい。

■しげる
ライター。岐阜県出身。プラモデル、ミリタリー、オモチャ、映画、アメコミ、鉄砲がたくさん出てくる小説などを愛好しています。

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