90年代『コミックボンボン』がオタクに与えた衝撃ーートラウマ級ガンダム漫画に見る、大人の悪ふざけ

 90年代、男児の世界は二分されていた。『コロコロコミック』と『コミックボンボン』、どちらを読むのかという大問題が存在していたのである。両方買ってもらっていたという奴もいたが、大抵の子供は片方しか買ってもらえない。この2誌のうちどちらを購読していたかは、人によってはその後の生き方にかなりの影響をもたらすよう重大な問題だった。

 『コロコロコミック』は、現在まで続く男児向けコミック誌の王道である。特に男児ホビーにおける90年代コロコロの影響力は、それはもう凄まじいものだったという記憶がある。ミニ四駆やハイパーヨーヨー、ビーダマンにポケモン……世代的にはおれの年代からはズレるが、ベイブレードやムシキングもコロコロの影響が強い。今現在30歳過ぎの男性なら、どれかひとつくらいはコロコロ発の男児ホビーに触れたことがあるはずだ。

 しかし一方で、おれはボンボン派だった。インターネットでもよく言われていることではあるが、確かにボンボンの内容はオタク臭かったと思う。ホビー雑誌並みにガンダムとガンプラに関して情報発信力があり、それ以外にも当時発売されていたケナーの『エイリアンvsプレデター』のオリジナルストーリーが掲載されていたり、帯ひろ志の作品をはじめとするちょっとエッチな漫画が載っていたり、同じタミヤ製品でもミニ四駆ではなくミリタリーミニチュアシリーズの方のジオラマ作成方法が突発的に紹介されたり……。漫画の内容に関してもその周辺の読み物ページに関しても、子供向けというよりはオタクのお兄さんの悪ふざけといった趣があった。

 インターネットでは元ボンボン読者がちょっとドヤりすぎな気もするのだが、しかしそれは逆にネットでドヤって他の元ボンボン派ととぐろを巻くくらいしかないほど、少数派だったということでもある。事実、同じクラスでボンボン読者を見つけるのはそれなりに難しかった。おれの場合は、本当にたまたま父方の祖父母が買ってきてくれたからボンボン読者になった(ような記憶がある)のだが、こういうちょっとしたきっかけでメジャー/マイナー、オタク/オタク以外みたいな個人の性格づけがガラリと変わってしまうのが、幼少期の読書体験の恐ろしいところである。

『コミックボンボン1997年9月号増刊』

 では、実際に当時の『コミックボンボン』はどれだけむちゃくちゃだったのか。特に強烈に印象に残っている号が、今おれの手元にある。それが『コミックボンボン1997年9月号増刊』だ。表紙を描いているのは当時ボンボンで平成ガンダムのコミカライズを手がけていたときた洸一。この表紙からもわかるように、この増刊号はガンダム特化。一冊ほぼ丸々、アニメのスピンオフからギャグ漫画に至るまで、ガンダムづくしの内容だ。表紙を担当したときた洸一も、この増刊号ではエンドレスワルツのスピンオフコミックである『バトルフィールド・オブ・パシフィスト』を描いている。

 で、特に子供相手に容赦がないのは、現実的な内容の収録作である。その中でも万里の長城を塹壕がわりにしつつ、女性ばかりの連邦軍部隊が改造された高機動型ザク「銀狼(中国語で「ガン・ロン」と読む)と戦う『極東MS戦線記』も痺れるハッタリ具合。「頭頂高18mの人型兵器が掩体にするなら万里の長城がサイズ的にぴったりでは?」というアイデアがまずグッとくるし、中国という『機動戦士ガンダム』本編にはチラッとも出てこなかった戦場を描くことで「一年戦争ってマジで世界中でやってたんだな……」という妄想も捗る。これはいまだに続きが読みたい。

 が、その容赦のなさでおれのトラウマになったのが、馬場康誌の『DEAD ZONE』である。主人公ジョニーは酒浸りのMSパイロット。ジオン側のパイロットとして一年戦争に参加した彼は戦いを生き延び、戦争から3年後の現在は中古のザクを使って火星沖新航路開拓地帯で小惑星除去の仕事をしている。そんな彼がふと迷い込んだ小惑星の内部。そこに巣食っていたゾンビのようなモビルスーツたちと対峙したジョニーは、戦争中に負った自らのトラウマに苦しめられることになる。

 今改めて読んでみたが、このマンガはマジで怖い。頭部を破壊されたモビルスーツがそのまま頭を半分吹き飛ばされた兵士にオーバーラップし、戦闘中にヘルメットのバイザーが砕けた兵士の顔面に、容赦なくカケラが突き刺さる。作者の馬場康誌はこの後『空手小公子 小日向海流』を連載し、現在は『ライドンキング』を描いている。そのあたりの絵を見てもらえばわかるのだが、この人はとにかく線がシャープで正確、一言で言っちゃうと絵がうまいのである。そのうまい絵で、顎が半分砕かれて顔面にガラス片みたいなのがグサグサ突き刺さって痛そうなジオン兵のおっさんがしっかり描写される。ただのガンダムのマンガだと思ったらモダンでシャープな絵柄の『はだしのゲン』を見せられたようなものであり、小学生だったおれはこの『DEAD ZONE』を読んだ後で悪夢にうなされた。

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