少女漫画誌『ぶ~け』は新しい時代を切り拓いたーー松苗あけみが描く、少女漫画版『まんが道』

 その前に前半を紹介しよう。少女漫画に夢中になった子供時代から始まり、家事手伝いをしながら同人活動を続け、やがて姉の同級生のM先輩の縁で内田善美と会ったり、一条ゆかりのアシスタントをするようになる。さらにM先輩から『リリカ』創刊の話を聞き、漫画家デビューすることになる。読んでいると運がよかっただけのように思えるが、それだけではないだろう。

 そもそも絵を認められなければ、周囲の人々がチャンスを与えようとは思わない。実際、作者は『リリカ』時代から絵が達者であった。『リリカ』廃刊後に『ぶ~け』に移籍できたのも、力が認められてのことではないのか。その後、見るたびに感嘆したくなる、時にポップ、時に華麗なイラストを次々に発表したことを思えば、この作品の自虐表現は、漫画的誇張が入っているのではないかと思ってしまう。これも読者受けを考えずにはいられない、漫画家の業であろうか。

 とはいえ、当時の『リリカ』や『ぶ~け』の、内側の話に興味は尽きない。また、一条ゆかりや内田善美がちょこちょこ登場し、素顔を見せてくれる。スクリーントーンを主線から外して貼ることで独自の効果が生まれたことや、瞳の新しい描き方など、技術的なことにも触れられている(ここはもっと詳しく描いてほしかった)。

 年季の入った少女漫画好きにとっては、こたえられない内容なのだ。逆に若い人には、本書を切っかけにして、松苗あけみの華麗で愉快な漫画を発見してもらいたいのである。今読んでも、本当に面白いのだから。

■細谷正充
1963年、埼玉県生まれ。文芸評論家。歴史時代小説、ミステリーなどのエンターテインメント作品を中心に、書評、解説を数多く執筆している。アンソロジーの編者としての著書も多い。主な編著書に『歴史・時代小説の快楽 読まなきゃ死ねない全100作ガイド』『井伊の赤備え 徳川四天王筆頭史譚』『名刀伝』『名刀伝(二)』『名城伝』などがある。

■書籍情報
『松苗あけみの少女まんが道』
著者:松苗あけみ
出版社:ぶんか社
定価:本体1,000円+税
https://www.bunkasha.co.jp/book/b512202.html

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