『ベルサイユのばら』から『薔薇王の葬列』まで……少女マンガで学ぶヨーロッパ史
『ベルサイユのばら』池田理代子
1755−1793 フランス
誰もが知る名作。マリー・アントワネットは愚かでも享楽的でもなく、ただただ普通の女の子だったという解釈が女性作家らしい。フランス革命を学ぶなら、『ベルばら』一択。主な参考文書がツヴァイクの『マリー・アントワネット』で、少女向けだがかなり歴史の案内に力を入れている。少女マンガにおける歴史ものの草分け的作品。その後、作者は立て続けにヨーロッパ史作品を発表している。ベルばら登場人物も出てくるナポレオンの生涯を描いた『エロイカ』、ロシアの女帝となったエカテリーナを描いた『エカテリーナ』、エカテリーナにいいように使われちゃったポーランド王スタニスワフ・ポニャトフスキの甥が主人公で、ポーランドの歴史が分かる『天の涯まで』も合わせて読むと19世紀ヨーロッパ史にかなり詳しくなれる。
『ブロンズの天使』さいとうちほ
1799−1837 ロシア
ロシアの大作家プーシキンと、美しいけれどもボンヤリした嫁ナターリアの物語。才能溢れる一途な男性とか最高じゃないですか? こんな風にモテたいよねっていう少女マンガテイスト強めなので、勉強と思わずに普通にお姫さまものとしても楽しめる。こんな風にモテたいよね。随所にプーシキンの作品が叙情的に紹介されていて、ものすごく興味が湧く。ちょくちょく登場して2人にちょっかい出してくる皇帝ニコライ二世は、めっちゃ悪者だけどエカテリーナ二世の孫。
『皇后エリザベート』名香智子
1837-1898 オーストリア
皇帝フランツ・ヨーゼフに見初められ、皇后になったエリザベート。大変美しい人で、国民からの人気は絶大だったけれど、宮廷生活が肌に合わず皇后としての仕事はあまり果たさなかった。名香智子先生の絵がとにかく美しく、エリザベートの魅力を余すところなく伝えている。ドイツのノイシュヴァンシュタイン城を作った狂王ルートヴィヒはエリザベートの従甥で、作品にもしばしば登場する。フランツ・ヨーゼフはハプスブルク家の人で、彼のひいおじいさんはマリー・アントワネットの兄レオポルト二世。『レディーミツコ』(大和和紀)の主人公クーデンホーフ光子は日本人として初めてオーストリア=ハンガリー帝国の伯爵に嫁いだ人で、フランツ・ヨーゼフと面会したことがあるとか。
これら豪華絢爛な世界に浸ったら、マンガと同時に関連書籍を読むのもお勧めです。『ベルサイユのばら』が好きすぎて私は、マリー・アントワネットやフランス革命関連の本を読みあさったし、『エル・アルコンー鷹ー』で無敵艦隊に憧れて『レパントの海戦』(塩野七生)を読んでみたり。そしてガッカリしたり。『女帝エカテリーナ』を読んだあとに、本を読み返す気力がなくてマンガで復習したりもしました。旅行先での興奮度も違います。
マンガはとっかかりやすいため、専門分野への入り口になることも多いようです。お気に入りの作品が見つかり、知識の幅を広げるきっかけになるといいですね。
■和久井香菜子(わくい・かなこ)
少女マンガ解説、ライター、編集。大学卒論で「少女漫画の女性像」を執筆し、マンガ研究のおもしろさを知る。東京マンガレビュアーズレビュアー。視覚障害者による文字起こしサービスや監修を行う合同会社ブラインドライターズ(http://blindwriters.co.jp/)代表。