『約束のネバーランド』エマは“絶望の中の希望”だ ジャンプヒーローとしての新しさに迫る
ヒーローの勇気は、ある意味で楽観的だからこそでてくるものだった。しかしエマが持つのは、実現困難だということは理解しつつも、自分や人の可能性を信じることで生まれる勇気だ。頭で考えた最悪の未来ではなく、自分や周りにいる人が起こす奇跡を信じられる勇気なのだ。つまり、名ヒーローたち以上に冷静に未来を想像できる頭脳を持ちながら、名ヒーローたちと同じく、未来を恐れぬ勇気と信じる力を持っているということだ。
エマは、考えろ考えろと「誰のことも諦めない」という強い理想を実現させるために自分を追い込んできた。もちろん、それを通そうとして予想外のことが起こり、エマ自身、左耳を切り落とす事態になったこともある。しかしそれでも頑固に理想を通していく。その考え抜かれた頑固さに刺激を受けた仲間たちが、どうにかしてエマの理想に近づこうとしていく様は、まさに「友情」「努力」「勝利」である。
困難な未来を想像できる頭脳と、強固な理想と勇気はなかなか両立することはない。エマは、それを両立し、実現させていく稀有で魅力的な新しいヒーローであり、絶望的な物語の中の希望なのである。
隣り合わせに存在する死、1人の少しの間違いで多くの犠牲がでる状況、常に危機にさらされている子どもたち。そのすべての要因は鬼にあり、憎むべきものとして描かれてきた。しかしエマは、鬼の世界を知っていくうちに、彼らも自分と同じ命であることを無視できなくなっていく。自分が獣を狩り食べることと、鬼が人間を食べることに違いはあるだろうかと考え、迷う。そして物語は、鬼を全滅させたいノーマンと、人間も鬼も死なせたくないエマ、2人を中心に最終局面へ向かっていく。
最終回を迎えた『約束のネバーランド』だが、実写映画やアニメ2期、単行本の発売もまだ控えている。新しいジャンプヒーローを生んだこの世界にハマるのは、今からでも遅くない。
■書籍情報
『約束のネバーランド』既刊18巻(ジャンプコミックス)
原作:白井カイウ
作画:出水ぽすか
出版社:株式会社 集英社
公式サイト:https://www.shonenjump.com/j/rensai/neverland.html