『ちはやふる』最年少クイーン若宮詩暢の強さと孤独 誰にも真似できないかるたとは?

※本稿では『ちはやふる』第43巻、第44巻の展開に触れています。(筆者)

 『ちはやふる』第44巻が、5月13日に講談社コミックスビーラブより発売された。様々な物語を経て、近江神宮にてとうとう始まった名人・クイーン戦。名人戦では永世名人となった現名人・周防久志と幼馴染の真島太一を破り挑戦者の座に着いた綿谷新。クイーン戦は、現クイーンである若宮詩暢と挑戦者であり主人公の綾瀬千早が、五番勝負でぶつかり合う。

 第43巻で、主人公・千早が長年夢みてきたクイーン戦が始まった。対若宮詩暢の作戦を練り、体力気力ともに鍛えてきた千早だったが、第一局目は現クイーン・若宮が連取の流れをつかみ勝ち取る。若宮を追いかけクイーン戦にまでたどり着いた千早だが、憧れつづけた場所でのかるたに身体が固くなってしまった。一方、名人戦は挑戦者・新が勝利。新はさながら自身の祖父であり永世名人である綿谷始の化身のような強さで周防に一勝した。

 千早がどうしてもクイーン戦に挑みたかった大きな理由として、現クイーンであり同い年の若宮との対戦がある。以前、全国大会のA級個人戦で若宮に敗れた千早は、「クイーン戦で」再戦しようと約束していた。若宮と正式に戦うために、千早はクイーン戦の挑戦者まで上り詰めたのだ。

『ちはやふる』5巻書影

 かるたで世界一になりたいと願う千早に立ちはだかる若宮詩暢は、小学四年生でA級に昇進、中学三年生で最年少クイーンとなった。千早がA級選手になったのは高校一年生であることからもその実力差は歴然としている。第5巻で初登場し、千早をコテンパンに倒してから、少しずつ若宮の生い立ちや性格、かるたの強さの秘密が明かされてきた。

 幼少期からかるたに馴染み、一札一札にまるで人格があるように扱って百人と対話してきた若宮。ひとりひとりを知るために祖母の部屋の本棚にみっしりと並ぶ百人一首についての本を、友人を作るように夢中になって読んだ。若宮がかるたと出会った理由は描かれないが独特の強さを身につけたのは、祖母の膨大な書籍があってこそである。

 その祖母は、京都市議会議員を勤めており、クイーン戦の衣装となる高価な大振り袖を若宮に贈るなど孫の活躍を応援しているように思える。しかしその呉服屋は京都反物協会の会長で、政治家の祖母にとって大切な組織票であるために、豪華な着物を買ったのだと母・詩穂は言う。「あんたはきれいな看板や」と追い打ちをかけるように言う母からもわかるように、若宮家にはコミュニケーション不足による不和があった。

 幼いころからそれを肌で感じてきた若宮は、家に頼らずひとりで生きようとアルバイトを見つけるも、不器用さですぐにクビになってしまう。自分にはかるたしかできないともがき、絶望していた若宮に、祖母は「かるたのプロになりなさい」と厳しくも正しく背中を押してくれた。若宮はいつかかるたを仕事として確立しようという目標の元、様々なメディアに出演し、自身でYouTubeを始めるなど、かるたをより多くの人に知ってもらうための努力をしていく。京都人らしい“いけず”で、クイーンとしても異彩を放っている若宮の、かるたへの並々でない気持ちは巻を追うごとに知ることができる。

 第44巻で描かれる第二局目にて、千早は自身の得意な敵陣を積極的に、ときに大胆に抜いていく攻めがるたではなく、元クイーンである渡会智恵と猪熊遥と練り上げた対若宮の作戦を炸裂させる。それは若宮が誰にも真似できない方法でかるたをしているためだった。

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