「このすば」シリーズ、大人気のうちに完結へーーサトウ・カズマ、最弱なのに最高の主人公たりえた理由
向かった先は魔王城。アクアを信奉する魔剣の周囲の人々が助けに行こうと言い出すのを横に置き、カズマは動こうとしなかったが、結局は立ち上がってめぐみんやダクネスを連れ、魔王城を攻め城を守る幹部たちを蹴散らし、魔王との決戦に臨む。自ら決着をつける必用などなかったにも関わらず、信頼されると分かり、期待されているとも知って最終的には最前線へと躍り出る。最弱に近くても種類だけは多彩なスキルを駆使し、これだけは最強かもしれない、女神のひいきによる死からの復活という特典をなげうってでも戦い続けるその姿は感動もの。高い高揚感に浸れるクライマックスだ。
1発打ったら終わりだったはずのめぐみんの爆裂魔法が、カズマの配慮によって無制限に放たれる場面は、映像になったらいったいどれだけの迫力か。めぐみんが大活躍した劇場アニメ『映画 この素晴らしい世界に祝福を!紅伝説』に集まった「ナイス、爆裂!!」の賛辞が、何百倍にもなって全世界から寄せられるに違いない。第2期まで行ったテレビアニメのシリーズが作られ続け、映像でも完結に至ることを心から期待したくなる。
物語自体も、本編こそこれで完結となりながら、魔王がカズマと同じように日本人に似た名前を持っていることや、王都を攻めたものの撃退されて魔王城に戻ったら、爆裂魔法で追い打ちをかけられえた魔王の娘のその後といった、気になるところも多々あって、『続・この素晴らしい世界に爆焔を!』のようなスピンオフでの展開が欲しくなる。カズマはめぐみんと結ばれるのか、それともアクアかダクネスか別の誰かに気を移すのかといった、恋路の“その後”も知りたくなる。
とはいえ、作者が第1巻のあとがきに書いた、「どこにでもいる人間臭くも平凡な主人公が、過酷な異世界で理不尽な現実にあらがいながら、クセのあるヒロイン達を引き連れて頑張る物語」は終わりを迎えた。第17巻のあとがきにあるように、「ここまで頑張ってきたカズマには、しばらくの休息と平穏な暮らしを送らせて」あげたい。
だから今はこの言葉を贈ろう。『この素晴らしい世界に祝福を!』完結に心からの祝福を!
■タニグチリウイチ
愛知県生まれ、書評家・ライター。ライトノベルを中心に『SFマガジン』『ミステリマガジン』で書評を執筆、本の雑誌社『おすすめ文庫王国』でもライトノベルのベスト10を紹介。文庫解説では越谷オサム『いとみち』3部作をすべて担当。小学館の『漫画家本』シリーズに細野不二彦、一ノ関圭、小山ゆうらの作品評を執筆。2019年3月まで勤務していた新聞社ではアニメやゲームの記事を良く手がけ、退職後もアニメや映画の監督インタビュー、エンタメ系イベントのリポートなどを各所に執筆。
■書籍情報
『この素晴らしい世界に祝福を!17 この冒険者たちに祝福を!』(スニーカー文庫)
著者:暁なつめ
イラスト:三嶋くろね
出版社:KADOKAWA
発売日:2020年5月1日
https://sneakerbunko.jp/konosuba/