世界の終わり、絶望山、破滅町、失望島……人類の闇へ誘う旅行ガイド『世界でいちばん虚無な場所』
日本からは姥捨て信仰とともに青木ヶ原の樹海が自殺森(Suicide Forest)として取り上げられているが、このなかに著者が実際に訪れた土地はひとつとしてなく、「これまでもそうだが、おそらくこれからも、わたしは本書に出てくる場所に行くことはないだろう」と述べている。
名所の写真に目を通し、添えられた説明を読み込む。事前に仕入れた情報を再確認するような現代の旅行では、まったくの新鮮な驚きに出合うことは難しい。著者はアームチェア・トラベルに徹し、地名に込められたメタファーを読み解くことによって、もの語る、という新しい旅の形を提案している。
とはいえ、新型ウイルスの世界的な感染拡大によって移動を制限された今、たとえ予定調和でも旅行が恋しいというのが正直な気持ちだろう。そこでもう一度、書名を思い出してほしい。『世界でいちばん虚無な場所』。紹介されているのは世界でも選りすぐりの「むなしい場所」だ。この本を読んだとしても、旅行が恋しくなることはないだろう。本書は優れた反旅行ガイドでもある。
■岩渕宏美
書評家・ライター。「失われた屋号を求めて」(新文化)、「働かないで好きなだけ読みたい」(POSSE)連載中。
■書籍情報
『世界でいちばん虚無な場所』
著者:ダミアンラッド
翻訳:菅野楽章
出版社:柏書房 株式会社
定価:本体1,800円+税
http://www.kashiwashobo.co.jp/book/b507370.html