猫たちの柄の“塗り直し”で悩みを解決? 『猫塗り屋』が教えてくれる大切なこと
このエピソードを読んだ時、筆者の頭には愛猫ジジの毛柄との出会いが浮かんだ。ジジはサビ猫であるがゆえにペットショップで売れ残っていた。サビ猫はひと昔前まで「雑巾猫」という不名誉な呼び名で呼ばれることもあり、今でも里親が決まりにくかったり売れ残りやすかったりすると聞く。ジジは他の毛柄の兄弟たちが次々と新しい家族のもとに行く中、ひとりだけケージの中から出られなかった。筆者が店に行った時は狭いショーケースの中で他の子猫と共に押し込まれ、たったひとつのフードボウルにありつけていなかった。
その光景を見て可哀想に思ったのはもちろんだが、筆者はジジの被毛を見た瞬間、心動かされた。なんて美しくて、個性的な毛柄なんだろう。この子と一緒に暮らしたいと心の底から思ったのだ。もしかしたら、ジジの柄は多くの人の目には綺麗に映らないかもしれない。でも、筆者は同じ模様の子がひとりとしていないサビ猫の被毛を心底、美しいと思う。誰かが見過ごしてしまう存在は、他の誰かにとっては宝物のように愛おしく映ることもある。本作は、そのことを再確認させてくれた。
また、作中で猫の毛柄を永久に変える「永久絵具」を白妙がタブー視している点も興味深い。白妙が短期的にしか色を変える効果がない絵の具を使用し続ける裏には、作者からの“ありのままの自分を愛せるように”というメッセージが込められているような気がする。本当の自分を探し求める猫たちの苦しみと、それを受け止める人間の姿が描かれている本作は、そのままの姿がいいんだよと私たちに優しく語りかけてくる。
私は愛猫の色を大切にするように、自分の色も大切にできているだろうか。読後はオンリーワンの愛猫を撫でながら、人生を振り返りたくもなった。
■古川諭香
1990年生まれ。岐阜県出身。主にwebメディアで活動するフリーライター。「ダ・ヴィンチニュース」で書評を執筆。猫に関する記事を多く執筆しており、『バズにゃん』(KADOKAWA)を共著。
■書籍情報
『猫塗り屋』
著者:清水めりぃ
定価:本体1,000円+税
<発売中>
https://www.kadokawa.co.jp/product/321910000507/