2010年代に“女性声優”が増えた理由とは? 「声優名鑑」掲載人数の変遷から考察
2010年代からはスマホゲーム登場の影響も
声優増加の理由として、一般的に考えられているものには、以下の4点が挙げられるであろう。
1)2000年代終盤から現在に至るまで、TVアニメ作品は増加傾向にあった。
2)2010年代になってからはスマホゲームが誕生、声優職に携われる人数と幅が求められ始めた。
3)テレビやネットメディアへの露出が増えたことで、声優という職業が認知され始めた。
4)ライブやイベントに出演し、イベント収益を得ることがアニメ産業の経済的な面として求められるようになり、タレントやミュージシャンなど、様々な出自の人々が声優へと抜擢された。
以下は、「アニメ産業レポート2019」サマリー版を参考に、TVアニメタイトル数・TVアニメ総制作分数の変遷を表したグラフだ。
一時期は2005年を下回る作品数・制作分数になっているが、翌年からの顕著な伸びは、グラフを見て頂ければ一目瞭然だろう。作品数だけが増えても、実際の制作分数もついてこないと、本当の意味での増加とはいえないわけだが、最新の産業レポートとなる2019年度版では、2018年のTVアニメは史上2番目の制作分数と報告されており、アニメ人気に応えようとする制作陣営の力強さを感じられる。
とはいえ、このグラフだけでは男女声優の増加数とは、いまいち一致しない感覚も残るだろう。ここで重要になるのが、スマートフォンゲームの登場ではないだろうか。特に、声優の演技力を堪能でき、ライブ興行にも繋がりやすい音楽を軸にした、キャラクター育成系のスマートフォンゲームに注目してみよう。
男性向けであれば『THE IDOLM@STER』『ラブライブ!』の各シリーズ作品や、『BanG Dream!』『少女☆歌劇 レヴュースタァライト』などのブシロード系作品で、数多くの女性声優が新たにスポットライトを当てられてきた。
女性向けであれば『アイドリッシュセブン』『あんさんぶるスターズ!』『THE IDOLM@STER SideM』『A3!』などのイケメン育成ゲーム作品群で、数年以上のキャリアを持つ若手がフックアップされる場所となってきた。つまり、音楽を取り扱ったリズムゲーム系の作品が男女問わずに人気を集めてきたのである。
2010年代に上記の作品群や関連するゲームがスタートしたタイミングを、いちど列挙してみよう
『ラブライブ!』2010年6月
『アイドルマスター シンデレラガールズ』2011年11月28日
『アイドルマスター ミリオンライブ!』2013年2月27日
『ラブライブ! スクールアイドルフェスティバル』2013年4月15日
『アイドルマスター SideM』2014年7月17日
『アイドルマスター シンデレラガールズ スターライトステージ』2015年9月3日
『ラブライブ!サンシャイン!!』2015年2月26日(雑誌内で初告知された日)
『アイドリッシュセブン』2015年8月20日
『あんさんぶるスターズ!』2015年4月28日
『BanG Dream!』2015年1月
『A3!』2017年1月27日
『バンドリ! ガールズバンドパーティ!』2017年3月16日
『少女☆歌劇 レヴュースタァライト』2017年4月30日
これらの作品では、作品の性質のみならず、男女においても起用される声優の傾向に違いがある。例えば、男性声優を中心にした作品の場合、完全な新人をいきなり起用するということが少なく、すでに10年以上活躍している声優でも積極的に起用する作品が多く、ベテランが求められることもしばしばある。かたや女性声優を中心にした作品の場合、それまで声優をやったことのない新人や、経験値の浅い声優をいきなり起用する作品が少なくない。
最も顕著な例としてあげるとするなら、スマホゲーではないが、大御所の速水奨が『ヒプノシスマイク-Division Rap Battle-』に起用されたことが挙げられるし、今回の声優名鑑には掲載されなかったが、『BanG Dream!』ではバイオリニストのAyasaや現役の中学3年生である進藤あまねといった女性声優の起用が決定している。
この傾向は、上記のデータで2010年と2020年を見比べれば一目瞭然の違いである。2001年から2010年にかけて、女性声優は311名、男性声優は307名の増加なのだが、2010年から2020年にかけては、女性声優は371名、男性声優は143名の増加で、女性声優の増加はほぼそのままで、男性声優の増加が一気に鈍化しているのだ。この名鑑企画の調査にいくらかの傾向があるにしても、特筆すべき部分ではないだろうか。
「どこまでを声優としてみるべきか?」という議論は、声優ファンをはじめ多方面から聞こえてきたわけだが、こうして名鑑企画の調査を比較すると、領域が一気に拡大したのがよく感じ取れるだろう。