『ランウェイで笑って』は新しい価値観を提示する 「身の丈」からの解放
朗らかで大胆なタイトル
本作には、千雪とは真逆の、高身長でモデルの才能に溢れているが、内気な性格ゆえにモデルをやらされている長谷川心のようなキャラクターも登場する。モデルの身の丈を持つがゆえの悩みを抱える心の存在は、身の丈の壁が一方向にだけ存在するわけではないことを描き、作品に奥行きを与えている。
また、本作は、業界のブラック労働の慣習にも釘を刺す。育人の母は女手一つで4人の子供を育て過労で入院していて、育人は同僚が過労で倒れたことに心を痛め、柳田に強く抗議する。ブラック労働問題にも強く目配せしている辺り、作者の猪ノ谷言葉は新しい価値観を持った作家なのだろう。
本作のタイトルも実に挑戦的だ。「笑って」とあるので朗らかな印象を与えるが、本来モデルはランウェイで笑ってはいけない。本作のタイトルは朗らかだが同時に、力強く従来の常識を壊そうと試みている。
「身の丈」にあった人生を歩まなくなって構わない。世の中にある、あらゆる「身の丈」はデザインの力で変えられる。本作は、そんな大胆なことを描いているのだ。
■杉本穂高
神奈川県厚木市のミニシアター「アミューあつぎ映画.comシネマ」の元支配人。ブログ:「Film Goes With Net」書いてます。他ハフィントン・ポストなどでも映画評を執筆中。