人の目は透視や予知ができる? SNSで話題『ひとの目、驚異の進化』の理屈を解説

人間の目にはテレパシー、透視、未来予見、霊読(スピリット・リーディング)の力が備わっている。

 カリフォルニア工科大学・理論神経生物学の教授マーク・チャンギージーが書いた『ひとの目、驚異の進化』が早川書房から文庫化されるという情報が流れるとTwitterでバズっていたので早速インターシフトから刊行された親本を取り寄せて読んでみたら、冒頭にそう書いてあった。

 なんだそりゃ?

 と思って読み進めると「なるほど」と唸らされる考察が展開されていた。ここではそのさわりを紹介してみよう。

生きものの目が前向きに2つあるのは「透視」のため!?

 きっと誰でも「なんで目ってだいたい前向きに2個なんだろう? 後ろとかも目がついてたらいいし、横向きに2つついてたら視野がもっと広がるのに」とか「ジオンのモノアイのモビルスーツかっけー! 連邦軍のほうはなんでロボットなのに目を2つつけてんだ?」とか考えたことがあると思う。

 この本では、アクションゲームのFPS、TPS視点と比較してリアルな人間の視覚のすばらしさを説く。チャンギージーは『コール・オブ・デューティー』のようなゲームでは草むら、茂みに隠れて遠距離射撃するのが好きだそうだ。ところが視界が悪いところにいると敵の姿が見えにくいのでガサゴソ動いているうちに見つかってやられてしまう、という。そして「現実だったら視界が悪いといってももう少し見える」と語る。

 ゲームがへたなことの言い訳では? と思うかもしれないが、やってみてほしいことがある。自分の手のひらを広げた状態で顔に目いっぱい近づけて、左右に振るのだ。そして、右目をつぶったとき、左目をつぶったとき、両目を開けたときで見比べてみてほしい。どうだろうか? 両目を開けているときは、片目をつぶっているときとくらべて明らかに手の向こう側がよく見えるはずだ。これがチャンギージーが言う「透視」能力だ。

 物体が手前にあるのにその向こう側がよく見える。そしてこれこそが、多くのアクションゲームのようにカメラ(=目)がひとつしかない状態と現実の生きものたちが見えている世界との違いである。

 目が前と後ろにひとつずつとか、耳のように顔の真横にひとつずつではなく、前向きに2つ目が付いている生物が多いのは、視界が悪い中で生き残らなければならず、そのためには重なる視野を持って「透視」することが役に立った(そういう特徴を持った生きものが生き残ってきた)からではないか、とチャンギージーは仮説を述べる。

 映画にしろゲームにしろ平面に映した映像と現実に観ている視覚が違うということをふだんはあまり気にせず生きている。しかし、言われてみれば「両目を開けていると動いているものが手前にあっても向こうが見える」ことは誰でも薄々わかっていたし、やってみたことがあるだろうということだ。そうした経験的な事象をもとに、斬新な考えを打ち出されるので「おおっ」と思ってしまう。

止まっているはずのマンガの絵が動いて見えるのは未来予見能力のおかげ

 チャンギージーは、目には未来を予見する力が備わっている、とも言う。

 たとえば、ヒトが走っている絵を描いて、ヒトの後ろに「ミ」のような線を書くと走っているように見える。動きがあるように見えてしまう。矢印が → → → こう書いてあれば、何か宙に浮いたものが右に進んでいるという印象を受ける。実際には動いておらず、止まっているものを見ているのになぜこんな現象が起こるか。

 自然界では動いているものを捉える力、動いているものがその先どうなるかを予見する力が重要で、視覚にはそうした未来を予想する能力が備わっているからそう見えてしまうのだ、というのがチャンギージーの仮説だ。

 動いているものがその先どうなるのかを予見するように目ができているので、マンガの効果線や→のように、止まったものであっても動くものを擬態した特徴を備えていると、「それが動いたらどうなるか?」を瞬時に勝手に判断してしまい、結果、動いているように見える、と。

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