『新黒沢 最強伝説』主人公・黒沢の“モテポイント”とは? 女性ライターが魅力を解説

突き抜けたカッコよさと、カッコ悪さを持ち合わせた男

 数ある福本伸行作品のなかでも根強い人気を誇る『最強伝説 黒沢』 。映像化こそされていないのだが、2003年から3年間ビックコミックオリジナルで連載されていた。

 急な形で連載が終了したにも関わらず、読者の熱い支持により2013年に『新黒沢 最強伝説』と名前を変えて復活。現在も作品は続いており、前作を超える既刊数となっている。福本作品では珍しい日常生活モノ(?)であり、お得意のギャンブルネタはまるでナシ。『カイジ』や『アカギ』しか触れたことのない人にとっては、新鮮に思えるだろう。

 主人公の黒沢は44歳、穴平建設に勤める独身の平社員。現場監督を任せられているものの人望はあまりなく、名ばかりの責任者だ。昇進も爆発的な稼ぎもなく、ひとり居酒屋でときを過ごす姿は見ていて少し胸が痛い。

 冒頭部分だけを読んでいると、どう考えても女性に好かれるタイプではないはず。不器用な性格ゆえか、さりげない優しさや気遣いというものが分かっていない。それを代表する出来事が序盤の「アジフライ事件」だろう。あの現場にもし女性がいたら、永久追放レベルに違いない。だが彼は決して悪い人間でなく、ちょっと想像力が欠けているだけなのだ。言い方を変えれば天然なタイプとも言える。正直なところ、最初は読んでいて黒沢に苛立つことは多かった。けれど読み進めていくうちに「人望が欲しい」「今の状況を変えたい」と奮闘する彼に、不思議と惹かれてしまう自分がいた。

 不良たちに喧嘩を売られ、コテンパンにされてしまう黒沢。本来なら警察に駆け込めばいいのに……と誰もが思うが、あえて決闘をすると言い出す始末。後輩らも「ハァ!?」と驚くが、その後の黒沢のセリフはジーンくるものがある。

「みんなそれぞれ理想の男像、人間像ってのがあって……そういうものを目指すから人間だっ……!」(『最強伝説 黒沢』より)

 だからここで闘わないわけにはいかない、というアツ〜い「黒沢理論」を振りかざす。たとえ見た目がちょっとアレでも、このとき彼から真の男を感じた。シートン動物記を読んだだけで、ここまでの気持ちが溢れるのか!? と思うが、感受性の豊かさは流石としか言いようがない。散々熱弁をふるっておき、周りを巻き込んでおきながら「どうしよう~!」と小心者らしく悩むギャップもこれまたイイ。突き抜けたカッコよさと、カッコ悪さを持ち合わせた男、それが黒沢なのだ。ついつい応援したくなる、どこか面倒を見たくなる“カワイさ”を持つ、ある意味罪な人間なのだろう。

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