文章だけで漫画家になれる『漫画脚本大賞』はなぜ設けられた? マガジン&アフタヌーン編集者インタビュー
「絵が描けない」あなたも漫画家になれるーーそんなキャッチコピーで注目を集めている、『アフタヌーン』&『週刊少年マガジン』両誌面の共同開催による『漫画脚本大賞』。応募は文章のみ、第1話の脚本(形式不問)と企画書を送付するだけでOKという気軽さと、大賞には賞金20万円に加え、連載確約という豪華な特典が待っている。締め切りは1月31日(金)に迫っているが、漫画化したいアイデアがあれば、いまからでも十分に間に合うだろう。リアルサウンドブックでは、同賞を立ち上げた週刊少年マガジン編集部の小山淳平氏、アフタヌーン編集部の寺山晃司氏へのインタビューを実施。同賞設立の経緯から、漫画業界での脚本需要、文字脚本で抜きん出るためのポイントまで、じっくり話を聞いた。
「ネームは描けないが面白い話は考えられる」という人の賞
ーー漫画の脚本大賞は業界として大変めずらしく、「連載確約」という大賞特典も目を引きます。そもそも「漫画脚本大賞」はどのように生まれたのでしょうか。
小山淳平(以下、小山):2017年の年末、寺山と2人で食事をしているときに、「絵が好きで漫画は描きたいけれど、物語を作る自信がないという漫画家さんが最近多い」という話になったんです。
寺山晃司(以下、寺山):作画がすごい作家さんがたくさん出てきていて、それに負けないために作画に集中したい、という人もいますね。
小山:一方で、例えばライトノベルの作家さんと話していると、「元々は漫画家を目指していたけれど、絵が描けないから文章で表現している」という「元漫画家志望」の方が思ったより多くて。「自分の作品がコミカライズされたら夢のようだ」とおっしゃるんです。そこで、「漫画の脚本」にフォーカスしたコンテストがあれば、両者をマッチングするような需要があるのではと考えました。
ーー原作がほしい、絵は描けないが脚本を書きたい、という両面からの需要ですね。
寺山:そうですね。そうして考えていくと、原作に特化している新人賞のようなものはなかったし、漫画原作を専門に手がける作家さんも、昔に比べてかなり減っていて。
小山:現状、漫画の原作には大きく2通り、「文字原作」と「ネーム原作」というものがあるんです。ネームというのは、コマ割りやキャラクターの配置、セリフを描き込んだ絵コンテのようなもの。「ネームは描けないが、絵は上手い」という人はたくさんいるので、「ネーム原作賞」は以前から需要があって、いろんなところで実施しているんです。ただ、「ネームは描けないが、漫画に合った面白い話は考えられる」という人を発掘するための「文字原作賞」というのはなかったんですよね。これはやるべきだろうと。
寺山:小山は『週刊少年マガジン』編集部に、私は当時『モーニング編集部』にいて、それぞれすぐに編集長に提案したら、面白いんじゃないかと。それで、2人だけのミニマムな体制でスタートしました。
ーー「ネーム原作」と比べたらもちろんですが、「文字原作」としても、応募自体のハードルは低めに設定されていますね。各A4一枚の企画書&今後の展開案と、連載1話分の脚本、しかも形式は不問と。
寺山:当初は審査のしやすさも考えて、この形に落ち着きました。「企画書」をつけてもらえたら、下読みの代わりになるかな、と。
小山:2人だけで始めたので、下読みをしてくれる人員もいませんし、企画書で「絵になるかどうか」はだいたいわかりますから。特に文字原作者に求められるのは企画性とアイデアで、それはA4一枚で十分に伝わることが多い。もちろん、企画書で「う〜ん」となっても、一話の脚本を読んでみたら面白かった、ということもありますが、僕らが見ているのは「文章のうまさ」ではなく、「アイデアの面白さ」なので、表現の部分は重視していません。
※募集要項
ーー伝言ゲームで、文体が崩れて要素だけになっても面白い、アイデア自体の強さが重要だと。
小山:そうなんです。小説大賞であれば、アイデアは普通でも、「読ませる文章だ」という評価があり得るでしょうし、むしろそこが重要だとも思うのですが、文章表現が凝っていても、漫画にはなかなか反映できないので。
寺山:最終形態に地の文の文体はほとんどアウトプットされませんからね。
小山:優れた小説が優れた漫画原作とは限らないんです。
ーー目を引くキャッチコピーや企画書でのプレゼンテーションのうまさなどが活きそうで、ビジネスパーソンにも応募してみようという人が少なくないのではと。
小山:そうですね。確かに、文字だけだから比較的手軽ですし、広告代理店の方とか、まったく別の職種で働いている方の応募は多いです。
寺山:創作というより、専門職の人が自分の仕事の話を書いて送ってきてくださることも多いのですが、他にはないネタがあるので、これはこれで面白くて。
小山:大工の方とか、弁護士の方とか、医者の方とか、まったく違った業界で漫画原作をやりたい人って、漫画編集者からのアプローチではなかなか見つけられないじゃないですか。だから、応募していただけるだけでうれしいですし、変わった仕事をされていて、しかもそれを脚本のネタにしているようなものは、やっぱり目を引きますね。応募作品がそのまま連載にできるようなものじゃなくても、普通の人とは違う経験をしていれば、打ち合わせていくうちに何か出てきそうですし。
寺山:ネタがよければ、あとはその面白さの切り取り方が間違えていなければ、という感じです。
ーー逆に、こういうものはあまり目を引かない、というわかりやすい例はありますか?
寺山:その人独自のアイデアが優れていればもちろん別なのですが、ファンタジーは若干、敬遠する傾向があります。つまり、ファンタジーは絵がないと完成形が見えないことが多い。例えば、「ここですごい魔法が炸裂!」と文字で書かれても、それはビジュアルこそが大事なわけで、作画次第になってしまうというか。
小山:漫画原作は、ある程度「誰が描いても面白い」ことが大切だと思っていて、「そりゃ真島ヒロ先生が描いてくれたら面白いだろうけど!」みたいな文字原作は評価がしづらいのが正直なところです。
ーーなるほど。あとは、「一話目だけでいい」と考えると、結末は一旦考えずに、とにかく大風呂敷を広げて続きが気になるものにしてしまおう、という人もいるのではと。例えば、トリックは思いつかないけれど、こんな事件を描けば続きが気になるんじゃないか、とか。
小山:それが意外と少ないんですよね。正直なところ、むしろ「とにかく大風呂敷を広げたもの」をもっと応募してほしいです。一話目にものすごく気になる謎があれば、それで十分だったりもするんです。風呂敷のたたみ方も大切ですが、まず広げないと漫画にならない。漫画は基本連載なので、ある程度話を続けられるだけの大仕掛けが必要なんです。「たたむ力」より「広げる力」が重要なので、遠慮なく大風呂敷を広げていただきたいです(笑)。