高橋ヨシキが著した、新しいスター・ウォーズ評 『ファントム・メナス』の映画的功績とは?

『ファントム・メナス』最大の特徴

 本書は『ファントム・メナス』から『最後のジェダイ』までのサーガ8作品と、『ハン・ソロ』『ローグ・ワン』からなるアンソロジーシリーズを、銀河標準暦順に1作品ごと異なるアプローチで考察を試みる。

 個人的な話になるが、1991年生まれでプリクエル直撃世代ともあって、僕が一番好きなスター・ウォーズはダントツで『ファントム・メナス』だが、非常に残念に批評されることが多い。批評のみでなく、ルーカス・フィルム公認でスター・ウォーズオタクたちを描いた映画『ファンボーイ』ですら、作品のがっかりぷりがギャグとして描かれていたりさえする。本書ではそんな”がっかり”作品『ファントム・メナス』に隠されている、『新たなる希望』にも匹敵しうる巨大な功績を浮かび上がらせるところも非常にユニークだ(し、個人的に好意をもつ)。

 なんといっても『ファントム・メナス』という映画の最大の特徴は、スター・ウォーズ新三部作や、『アベンジャーズ』シリーズといった近年の超大作と比較しても引けを取らない、全編に渡ったCGIの投下量だ。さらに本作を映画史において特異なものとするのは、すでに存在するCG技術を利用したのではなく、ルーカス自身が設立したILM(インダストリアル・ライト&マジック)社で、まさにその技術を必要とするがゆえにCGIテクノロジーを開発した点だ。

 著者は以下のように言う。

表現の幅は道具に左右されるーーこともある。映画のようにテクノロジーと切り離せない芸術様式の場合は特にそうだ。だが、道具そのものが存在しない時点で“こういう道具があったら、こういう表現ができるのに”とイメージすることは非常に困難が付きまとう(P21)

 その道具は、遠い昔遥か彼方の銀河系のビジュアルを描くためだけのものではなかった。いや、むしろ、ルーカスにとっては映画作りの方が副次的だったのもかもしれない。

私は言ったよ。「これで歴史劇も取り放題だぞ」ってね。「多くのジャンルが衰退していたが、テクノロジーの力によって再び作ることができるようになった。長きにわたって不可能だと思われていた史劇や、スケールの大きい合戦を描く映画も可能になったんだ」と(P24)

 『新たなる希望』が、「『超人対火星人(フラッシュ・ゴードン)や『原子未来戦(バック・ロジャース)』などの……幼い時代のルーカスがテレビ番組『アドベンチャー・シアター』で観ていた」(P75)連続活劇に多大なインスパイアを受け、70年代には失われてしまっていたそれらの作品群のイマジネーションを再構築してスター・ウォーズを構想したことはつとに知られている。まさに『ファントム・メナス』では、自作のために発明したCGI技術によって、ジャンル自体、映画自体の復活こそ目指していたのだ。

 スター・ウォーズという世界は銀河と同じくらい広大だ。映画のみでは、スター・ウォーズという作品の真の偉大さを知り尽くすことは不可能だ。しかし仮に無限の世界に挑むとき、きっと本書は、フォースの代わりに、あなたの道標になるはずだ。

■秋山ナオト
エロ雑誌&書籍の編集者です。『ライムスター宇多丸も唸った人生を変える最強の「自己低発」 低み』を構成&ライティング。『マーベル映画究極批評』(てらさわホーク)、『名探偵コナンと平成』(さやわか)、『暗黒ディズニー入門』(高橋ヨシキ)などを編集しました。ツイッター:@Squids_squib

■書籍情報
新書『スター・ウォーズ 禁断の真実(ダークサイド)』(新書y)
著者:高橋ヨシキ
出版社:洋泉社
価格:1,100円(税込)

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