『BEASTARS』が描き出す、食欲と性欲の狭間にある感情 革新的な人獣漫画の魅力を考察

チェリートン学園にはあなたに似た動物も

 擬人化した動物による高校生ライフには、種族を越えた友情や恋、相容れることのない対立が巧みに描き出されている。ただ明るいだけの青春ストーリではないからこそ、読者はこの世界観にのめり込む。動物たちが己と向き合い、種族の違う仲間との共存を目指す本作は成長物語だといえる。希望、不安、嫉妬、弱さ、傲慢さを抱えながらも学園生活を送る動物たちから私たちが学ばされることは多い。レゴシ以外の動物もみな、様々な葛藤を抱えつつ悩み、模索しながら高校生活を送っている。

 筆者が特に共感したのは、レゴシの本能を目覚めさせるきっかけとなったウサギのハルの絶望感。平凡なドワーフ種のハルはウサギの中でも絶滅危惧種だといわれているハーレクイン種カップルの仲を壊したとして、いじめを受けていた。

 「小動物として生まれてきた自分は敗者にすらなれず、エサであり続ける人生だった」と語るハルの哀しみと虚しさに触れると心がズキンと痛む。そして、同時に食い物にされてきた自分自身の過去にもつい思いを巡らせてしまった。

 動物たちが抱く悩みは、私たちが抱く悩みに通ずる。自分はどのキャラクターと似ているのだろうかと考えながら読み込んでみると、本作はより味わい深く思えるのではないだろうか。

 新たな才能が描き出す珠玉の動物ヒューマンドラマは、異種同士が分かり合うことの難しさと面白さを伝えているように思えた。私たちは肉食獣と草食獣が繰り広げる動物群像劇を目にし、自分の生き方を見つめ直し、他者を思いやる心を学ぶ。

■古川諭香
1990年生まれ。岐阜県出身。主にwebメディアで活動するフリーライター。「ダ・ヴィンチニュース」で書評を執筆。猫に関する記事も執筆しており、『バズにゃん』(KADOKAWA)を共著。

■書籍情報
『BEASTARS』
板垣巴留 著
出版社:秋田書店
『BEASTARS』特設サイト:https://www.akitashoten.co.jp/works/beastars/

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