若杉実『ダンスの時代』が示す、日本のダンス史とその未来「時代の背景を含めてダンスカルチャー」

 今回のトークイベントで登壇した3人は、それぞれアイドルグループのプロデューサーもしている。今や、アイドルに「ダンス」は欠かすことのできないほど重要な要素になっている。

 野沢氏はハロープロジェクトのグループを中心にプロデュースを行い、GERU-C閣下氏と周防氏は、地下アイドルのプロデュースを行っている。「ブレイクダンスから始めたのに、今はアイドルのプロデュースや演出とかやってる。エンタメを積極的にやってますね」と野沢氏はいう。

 ゾンビパウダーというアイドルをプロデュースしているGERU-C閣下氏は「いわゆる地下アイドルというか、インディーズアイドル。大手と違ってメディアに出るわけじゃないので、彼女たちにはライブしかないんです」と説明し、「日本の場合は、アイドルたちがだんだんと歌や踊りが上手くなっていくことに対してファンが付く。K-POPアイドルみたいに最初から上手いとファンが付かなくて。だから、最初は誰でもできるお遊戯みたいな振り付けになってる。ももいろクローバーZは、そうやって人気が出た良い例」と、日本におけるアイドルのダンス事情を説明した。また、野沢氏は「ハロプロも基本は同じだと思います。MVやビデオが出た時に見てもらえる、キャッチーな振りをいかに作るかが大事で、そこが勝負になる。みんなが踊ってくれる振りを作るのが大事」と、わかりやすいダンスがアイドルには重要だと語った。

 周防氏はつりビットという「釣りができるアイドル」のパフォーマンス指導を担当していた(今春解散)。「ここでは育成と振り付けをやっていました。当時小学生だったキッズモデルで、ダンスとか全くやったことがない彼女たちを、カラフィットで育成していきました」とのこと。3人が口をそろえて言っていたのは、「日本のアイドルは育てていくもの」というところだ。アイドルのダンス事情は、ダンスをエンタテインメントとして楽しむのに、必ずしも高いスキルが必要なわけではないことを示す好例と言えそうだ。

写真奥から若杉氏、周防氏、野沢氏、GERU-C閣下氏

 イベントの後半では、若杉氏は「音楽があって、はじめてダンスは生まれる。ダンスそのものよりも、音楽を聴いて体を動かす、音楽を聴いてダンスをするというのが重要。ブレイクダンスってなんだったのかな?と思っていたけど、本を書き終えてやっと気づいた。当たり前といえば当たり前だけれど、音楽に合わせてダンスをするのがブレイクダンスで、言ってみれば歌や楽器と同じように、体の動きで音楽をやっているのだと思う」と、ダンスにおける自身の見解を述べた。

 また、今後はストリートダンスがスポーツとしても浸透するであろう未来を見据え、若杉氏は「サッカーや野球のように、プレイヤーではないお客さんが鑑賞しに行くという文化はまだ浸透していないので、その意味でダンスシーンはまだ成熟したとはいえないと思う」と述べ、改めてダンスを鑑賞する側の意識が高まることに期待を寄せた。

 日本のダンスカルチャーを多角的に読み解いた『ダンスの時代』は、今後のダンスカルチャーの発展を考える上でも、示唆に満ちた一冊と言えそうだ。

(取材・文=西門香央里)

■書籍情報
『ダンスの時代』
若杉実 著
発売中
頁数:384頁
出版社:リットーミュージック

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