アンと私、1stアルバム『ANN』で選んだ“背伸びしない”闘い方 二口「絶対負けない。勝つまでやめない」

アンと私が選んだ“背伸びしない”闘い方

 〈負け犬からスター このチャンスはもう二度目は無い/イキがるロックスター 貧乏人が胸を張る〉――なんて痛快な言葉だろう。こんなフレーズを高らかに歌う超名曲「負け犬からスター」をはじめとした全10曲、3人組バンド・アンと私のメジャー1stアルバム『ANN』は傑作である。

 ライブではドラマーだが、レコーディングではマルチプレイヤーになるれんじゅまんを中心に作り上げたサウンドは、彼がThe NovembersやPlastic Treeを敬愛しているのも頷けるほどの鮮やかな表現力を見せながら、同時に、このバンドが生来的に持つブルージーで無骨な生々しさを一切損なっていない。そしてフロントマン・二口の綴る歌詞には、かつてないほどパーソナルで覚悟を刻んだ言葉が並んでいる。そこには彼にとって、きっととても大切な、家族と、そしてロックバンドへの思いがある。もちろんいつもの彼らしい、痛みにまみれた恋に堕ちていく愚かしい人間たちの姿を描いた楽曲もある。みっともなくて、愛おしい人間たちを、二口は掬い上げるように描く。制作期間、彼らは実際に収録された曲数の何倍もの楽曲を作っていたそうで、途中、ギタリストの脱退によってギターが入らなかった曲すらあるが、結果的に、ここに並んだ10曲が、見事にアンと私というバンドの本質を、彼らが描き続けるボロボロで気高い人間の生き様を、伝えている。

 このエポックメイクなアルバムが生まれた道のりを、二口(Vo/Gt)、れんじゅまん(Dr)、ヤマモトマキ(Ba)の3人に、彼ららしい飾らない実直な語り口で語ってもらった。(天野史彬)

れんじゅまんが広げたアンと私のサウンド

――アンと私はそもそも二口さんのソロプロジェクト的に始まって、今こうして3人のメンバーが正式になりましたけど、それによって活動のしやすさや、バンドをやっている実感が増した感じはありますか?

二口:やりやすいっすね。でも、個人的には「こういう形にしたい」というのもあんまりなくて。メンバーが抜けたり変わったりっていうのもこれまであったし、そうなったらそうなったでっていう感じで。まあ、なるべくして今こうなったのかなっていう感じですね。

――音楽的にできることはかなり増えていますよね?

二口:確かに。特に彼(れんじゅまん)は作曲もできるし、ギターも弾けるしベースも弾けるしっていう人なので。今回のアルバムも最初に作った3曲は前のギターが弾いてるんですけど、それ以外は全部3人でやっていて、リードギターは全部れんじゅまんが弾いてるんです。なので作曲の面では、かなりれんじゅまん主導にはなっていますね。

アンと私 二口(撮影=堀内彩香)
二口

――今回のアルバム『ANN』、モダンなギターロックが鳴っている音楽的にも素晴らしいアルバムだと思うんですけど、れんじゅまんさんの視点から言うと、アンと私でどんな音楽をやりたいという気持ちがありますか?

れんじゅまん:僕、大まかに言うとV系がめっちゃ好きなんです。Plastic Treeとか、V系とはちょっと違うけどThe Novembersとか。あの方たちって、“音の美”の追求の仕方が特殊だと思うんですよね。Plastic Treeはザ・V系っていう形の中にオルタナティブロックやUKロック、シューゲイザー、あるいはアンビエント、そういう要素も入っていて。あんな感じでロックの「カッコいいな」っていう部分をちゃんとその人らしく昇華できているバンドになりたいっていう気持ちはあります。ロックでもポップスでも、ちゃんとその人のコアが見えているバンドはロマンがあると思うので。

――れんじゅまんさんから見ると、二口さんの作る曲はどんな特徴がありますか?

れんじゅまん:彼(二口)もめちゃくちゃ音楽を聴くんですけど、どっちかと言うと、あれは何て言うんだろう……ラップ? ヒップホップ?

二口:それは流石にわかるでしょ(笑)。

れんじゅまん:いや、ヒップホップの中にもいろいろあるから(笑)! 二口くんはヒップホップも聴くし、実際、そういう曲を作って持ってくる時もあるんです。それをバンドでやる時には、彼に教えてもらった音楽をいろいろ聴くようにしていて。僕はずっとヒップホップって電子音というか、ベースがバーッと鳴っているものだと思っていたんですけど、二口くんに教えてもらったTyler, The Creatorとか、すごくバンドっぽいサウンドだったりするんですよね。そういう音楽も昇華して、ちゃんと自分らの音にできたらというのは思いますね。僕らは尖ったことばかりをやりたいわけじゃなくて、自分たちがカッコいいと思うものを集めて、ちゃんとみんながわかるロックをやりたいという気持ちがあるので。

アンと私 れんじゅまん(撮影=堀内彩香)
れんじゅまん

――マキさんは、アンと私でどんなことをやりたいですか?

マキ:うーん……バンドで「こうしたい」っていうのは、特にはないですね。

二口・れんじゅまん:ははは!

マキ:大体、作曲は全部お任せだし。

れんじゅまん:楽しくやれればいい(笑)?

マキ:そう、楽しくやれればいいし、ふたりともいいものを作ってくれているから、それをみんなが聴いてくれて、バンドの規模が大きくなっていけばいいなと思いますね。

アンと私 ヤマモトマキ(撮影=堀内彩香)
ヤマモトマキ

――二口さんが作る曲の世界観はどう感じていますか?

マキ:やっぱり歌詞がデカいと思うんですけど、他のバンドが言わないことや言えないことを言えるのは強いなと思います。恋愛のことを歌うにしても、曝け出しているなと思うし。

――メジャーデビューのタイミングなので改めて伺うと、二口さんは音楽で“何を歌いたい人間”なんだと自分で感じますか?

二口:うーん、どうだろう。今回のアルバムに関して言うと、もともとは「楽しいことしよう!」っていう気持ちでメジャーデビューを決めたんですよ。前のギターが活動の中でギャップを感じている部分があったみたいだから、「もっと何か面白いことできないかな?」と思い、それで「メジャーデビューしてみるのはどうだろう?」って事務所に話してみたのが経緯としてあって。結局ギターは辞めたんですけど(笑)。

――そうですよね。

二口:だから本来、全然違う内容のアルバムを頭の中では作っていたんですよね。メジャーシーンに行きながら、今までよりももっと尖ると面白いよねって思っていたから、そういうアルバムを作ろうとしていて。そこで改めて自分自身と向き合って思ったのは、これまで自分たちを応援してくれた人たちにも刺さるように、今までの自分のよさもしっかり出しつつ、でもラブソング以外のパーソナルな話を曲にすることにも、このタイミングで挑戦してみようかなっていうことだった。だから今回は、今までと違うところにフォーカスした歌詞の書き方をしているんですよね。

――アルバムの終盤3曲、「ペースメーカー」「負け犬からスター」「ワンスアポンアタイムイン・一つ屋根の下」はどれも名曲ですけど、この曲たちには家族の存在が歌われていますよね。今回こういう曲たちが生まれたのは、二口さんとしては必然性があったということですよね?

二口:そうですね。1年半くらい前に自分の親父が亡くなって、その後立て続けに家庭のことがいろいろあって。今まで身内が亡くなったことがなかったから、考えさせられることがすごくあったんですよね。そこから影響を受けたっていうのは確かにあります。ただ10曲目(「ワンスアポンアタイムイン・一つ屋根の下」)は直接的にそのことがきっかけで書いたんですけど、8曲目(「ペースメーカー」)に関しては、親父が亡くなる前から別のバージョンがあったものを、ちょっと歌詞を変えたんです。

――二口さんにとって、パーソナルな歌詞を書くというのは向き合ってみてどういった行為でした?

二口:ずっと歌詞を書く時に現実を書くことがなかったから、疲れはしますよね。しんどいというか。でも、自分の中でエモくなる感覚というか……「まだまだやるぞ」って、男の子っぽい感覚が出てきたりはしました。

――男の子っぽさっていうのは、いいですよね。

二口:どこまでいっても男の子なんで(笑)。あと、周りのバンドとは違うことをやり続けるロックバンドでありたいっていうのが根底にあるので、「周りのバンドが言っていないことはなんだ?」と考えると、風景を描写するような歌詞を歌うバンドは結構いると思うけど、本当に二口視点で思ったことを言うのは、ほかのバンドには絶対にできないことだから。

アンと私(撮影=堀内彩香)

――9曲目の「負け犬からスター」なんて、本当に最高だと思いますね。こういうことを歌うロックバンドは、今ほかにいないと思います。

二口:ありがとうございます。僕もアルバムの中で一番好きな曲です。僕、生活の中でルーティンがあるんですよ。朝起きたらこれを聴いて、これを飲んで、こうやって体を動かして……とか、結構細かく決めていて。「負け犬からスター」は、その中で聴きたい曲というか。聴くエナドリみたいな感じで、朝起きて「よしやるぞ」っていう時とか、ライブ前とか、そういう時に聴きたい曲ですね。

――今の二口さんから出てくる自分自身のリアルを歌うパーソナルな言葉、それに「負け犬からスター」というようなアップリフティングなフレーズには、ヒップホップやラップを聴いているからこそ出てくる部分もあるんじゃないかと思うんですが、どうですか?

二口:そうですね。バンドやる前、周りにロックバンドを聴いている人があんまりいなくて。札幌で専門学生だった時はほぼ毎日くらいクラブに行って朝まで遊んでいたんですけど、クラブに行ったらロックはかからないじゃないですか。今は全然行かないですけど、そういうところから必然的に影響を受けている部分はあると思いますね。

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