anoが語る、孤独との向き合い方 「音楽が敵になりそうなときもある」それでも曲を作ることの意味

音楽は救いでありながら、ときに敵にもなる。anoは、その複雑な関係を「近くて遠い」と表現する。自身の声にコンプレックスを抱えながらも、それを武器に変え、内側にあるどうしようもない感情を曲にしてきた彼女にとって、音楽は「そのままの自分で進む」ために欠かせないものだ。
Spotifyの新コンテンツ「BLUE? It’s Okay」では、人々の日常に潜む、ブルーな出来事の“あるある”を語るとともに、「ハッピーラッキーチャッピー」と「ミッドナイト全部大丈夫」を弾き語りで披露。今年は初の全編弾き語りワンマンライブ『天国未遂 Vol.1』にも挑んだanoに、曲を作ることの意味や、ギター一本でステージに立つことで見つけた新たな表現、そして音楽との関係について聞いた。(黒田隆憲)
音楽は魔法みたいに暗い場所から自分を引きずり出してくれる

ーーanoさんにとって、音楽はどんな存在ですか?
ano:近くて遠いです。好きすぎるから、そのぶん嫌いになりそうになるときもある。でも、嫌いになったら、本当に僕の人生が終わると思います。
僕にとって音楽は救いだったし、ずっと頼ってきたものです。でも、自分の歌声も本当に嫌いだし、自分自身にコンプレックスもある。数字もついてくるものなので、音楽が敵になりそうなときもあります。
それでも最後には、自分が作った曲や、音楽にした自分の感情、音楽を通して伝わってくるファンの子たちの思いに救われてしまう。だから、結局嫌いにはなれないです。恋人みたいなものなのかもしれない。衣食住と同じぐらいか、それ以上に、なかったら生活していけないものです。
ーー普段、家ではどのように音楽と接していますか?
ano:家で聴くこともありますけど、ずっと流しているわけではないです。どちらかというと、自分で音楽を作っているときのほうが楽だと思います。
ーー「BLUE? It’s Okay」では、眠れない夜にギターを持って、世に出す予定のない歌詞やメロディを作ることもあると話していました。曲を作ることは、anoさん自身にとってどんな意味がありますか?
ano:ほかでは代えようのないものです。中学生ぐらいのころから、自分の内側にどうしようもない気持ちがあって、それをどう消化したらいいのかわからないとき、連絡ノートにずっと言葉を書いていました。音楽を作るようになってからも、そのころと変わらないです。それが自分に染みついているんだと思います。
誰にも聴いてもらわなくても、曲を書いていると、自分が間違っているわけではないと思える。音楽は、魔法みたいに、闇というか暗い場所から自分を引きずり出してくれる。それでいて、隣に寄り添ってくれる。だから音楽に執着するし、僕も音楽に寄り添いながら、一緒に進んでいきたいと思います。
ーー曲にすることで、気持ちが楽になることもあるのでしょうか。
ano:「気持ちが楽になる」とは、ちょっと違うかもしれないです。それを抱えたまま、明日も生きていける、という感じ。僕自身が変わるわけではないし、嫌なことが消えるわけでもない。でも、そのままの自分で進めるような気持ちになります。
ーー過去に自分で書いた曲に、救われることもありますか?
ano:あります。自分が書いているので、「よくわかっているな」と思います。そのときの自分にしか書けない言葉があったし、必死にやってきたから、今の自分がいる。昔の自分の姿に後押しされたり、勇気をもらったりします。聴いてくれる人にとって僕の曲も、そういうお守りになったらいいなと思います。
ブルーな気持ちの自分を、そのまま抱きしめられるような時間になったら

ーー「BLUE? It’s Okay」で披露した「ハッピーラッキーチャッピー」と「ミッドナイト全部大丈夫」を通して、どんな時間を届けたいと思いましたか?
ano:僕自身もそうですし、ファンの子たちも、「どうしたら自分は大丈夫になれるんだろう」と悩んでいる人は多くて。本当の意味で「大丈夫」と思える日って、なかなかないと思うんです。
でも、ダメな自分や、ブルーな気持ちになっている自分を、そのまま抱きしめられるような時間になったらいいなと思って、今回の二曲を選びました。そういう自分を否定してしまうこともあると思うけど、それこそが素晴らしいんだと、いつかわかるといいなと思います。
ーー「ハッピーラッキーチャッピー」は、アニメ『タコピーの原罪』のために書き下ろした曲ですね。
ano:『タコピーの原罪』の物語を、自分の中でしっかり噛み砕いて作りました。僕は、あの作品のどの登場人物にも共感できたんです。だから、誰か一人だけではなく、すべての登場人物に重なる曲にしたいと思いました。
自分が学生だったころに感じていたことや、家族を見て思ったこと、大人になった今でも思うことを詞にしています。アコギを弾きながら、メロディ先行で作りました。
ーータイアップ作品の世界と、自分が表現したいこととのバランスを取るのは、楽しい作業ですか?
ano:楽しいです。タイアップではない曲にも、タイアップ曲にも、それぞれよさがあると思います。自分だけで作る曲は、すごく書きやすい。でも、作品の世界と自分が近ければ近いほど、相乗効果でいいものが生まれる。その作品があるからこそできた曲も多いので、すごく楽しいし、やりがいを感じます。
ーー今年は弾き語りワンマンライブ『天国未遂 Vol.1』も開催しました。弾き語りには、普段のバンドとは違うどんな楽しさがありますか?
ano:全然違います。最初は、ギター1本でどういう表現をしたらいいんだろうと思いました。でも、「こういうアレンジにしよう」「ここはこうしよう」と自分で考えるのは楽しかったです。
実際にやってみると、自分が思っていた以上の手応えがありました。もちろん完成度はまだまだですけど、ものすごく集中できた。ギター1本で、僕は音楽と対峙できる、音楽と一緒にステージに立てるんだと思いました。

ーーギターは独学とのことですが、動画などを参考にすることもない?
ano:教則動画は見ていないです。譜面も読めない。GやDぐらいの簡単なコードはわかるけど、マイナー系は一つずつ調べて、曲ごとに覚えます。曲を作るときは、ギターをなんとなく弾いて、「この音がいいな」「次はこの響きがいいな」という感覚で作っています。
ーーギター1本でステージに立つと、声も歌詞もメロディも、すべてがむき出しになります。怖さはありませんか?
ano:めちゃくちゃ怖いですね。装備がなさすぎるし、失敗したらすぐにわかるので、ヒリヒリする緊張感があります。
でも、そのぶん自由度はすごく高い。ルールはあるのかもしれないけど、僕は知らないので(笑)。どうやってもいいし、テンポも、そのときの気分や強調したい部分によって変えられる。自由に弾いて、自由に歌えることに、すごく解放感がありました。
バンドでやるときより、歌詞や言葉が届きやすいとも思います。お客さんに、こんなにはっきり歌詞を聴いてもらえる機会はあまりないので。歌詞を全部書いている身としても、すごくよかったです。
ーーお客さんとのやりとりにも、バンドとは違うものを感じますか?
ano:弾き語りでは、本当にみんなが聴き入ってくれます。こっちがちょっとふざけても反応してくれなくて、「そういう感じじゃないんだ。こっちもかしこまらなきゃ」と思ったり(笑)。
特に大阪は神聖な雰囲気の場所だったので、みんなもその空気に飲まれている感じがありました。東京はキネマ倶楽部で距離が近くて、少しアットホームでした。会場によって空気が変わるのも面白いです。
ーー今後、弾き語りでさらに試してみたい表現はありますか?
ano:もっと自分の表現の幅を広げたいです。『天国未遂 Vol.1』はファンクラブ限定でしたけど、観た人から「いろいろな人に聴いてほしい」と言ってもらえたので、弾き語りをもう少しやっていけたらいいなと思いました。




















