シユイ「顔を出すなんて想像もしていなかった」 心機一転で見つめ直す“自分らしさ”、セカンドフェーズへの決意
「違うジャンルの曲も歌っていきたい」 セカンドフェーズで作り上げるシユイ像とは
ーー新曲「リンカルネーション」は、ドイツ語で「生まれ変わり」「転生」「輪廻」を意味する言葉ですが、ある種生まれ変わったような感覚があったのでしょうか。
シユイ:そうですね。心機一転というか。これはビジュアル面の話になるんですけど、実はアーティスト写真が実写になるんですよ。いま制作中の「リンカルネーション」のMVにも実体の私が出ていて、シユイとしてのセカンドフェーズみたいな打ち出し方になります。ただ、顔をバーンと出すというのではなく、実写になりつつ、写真だと全貌はわからないような感じなんですけど。
ーーそうだったんですね! 今までもライブでは顔出ししていたとはいえ、基本は顔を出さずに活動してきたなかで、この変化にはどんな決断があったのでしょうか。
シユイ:今までは自分が顔を出すなんて想像もしていなかったんですけど、それもありなのかなと思うようになって。というのも、私はこれまでボカロPの方やインターネット系の方に楽曲提供をしていただくことが多かったんですけど、活動していく中で、ボーカリストとして違うジャンルの曲も歌っていきたいという気持ちが芽生えてきたんです。普段聴く曲も、ボーカロイドはもちろん大好きなんですけど、どちらかというとチル系というか、ゆったりした生活感のある曲が好きで。そういう曲を歌っていく方がよりパーソナルに近くなるんじゃないか。それならビジュアルも、イラストではなくライブでも出している実体の方がいいのかなと考えました。
ーーシユイという存在を、より自分自身と合致させるタイミングなんですね。
シユイ:まさしくおっしゃる通りです。今までは色々な曲を歌ってシユイという歌を探していた感じでしたけど、これからは自分自身のことも作品として発信できるようにしていきたくて。今回のアー写でも自作した「舌」を使ったりして、より自分らしい方向にシフトしています。
ーー「舌」というのは、口にくわえているガラスの作品のことですよね。なぜ「ガラスの舌」だったのですか?
シユイ:デザイナーさんとの打ち合わせで、体のパーツのどこか一部を異素材に置き換えようという話になって。私は美術系の大学で造形や工芸を学んでいたんですけど、卒業制作で喉をメインテーマにして「歌は喉の惑星」みたいな作品を作ったんです。その話をしたら「じゃあガラスで喉を作りますか」となったんですけど、さすがに大きくて難しそうだったので、同じく歌と関わりの深い「舌」を作ることにしました。
ーー「ガラスの舌」ってどうやって作るんですか?
シユイ:「キルンキャスト」という技法があって、粘土で作った原型に石膏をかけて型を取り、そこにガラスを詰めて窯で焼成するんです。なのでどちらかというと彫刻的な要素が強いんです。ただ、基本的にガラスは割れたりすることもあるので、私は試作のマケットや予備を含めて6個くらい作りました。
ーーライブの衣装デザインもされていますし、クリエイティブな面もより反映させていきたいのですね。
シユイ:衣装デザインは絵で描いたものを形にしてもらっているだけなので、大したことはないですけど(笑)。でも本当にそうですね。曲作りに関しても、今までは「どうやって作るんだろう?」という感じでしたけど、今は作詞にもすごく興味があって。本を読むのが好きでnoteも書いているので、言葉を綴るのもそうですし、歌だけではなくてガラスやイラスト、色々な表現方法を使って発信できるアーティストを目指しています。
ーーそういった新しいシユイ像を提示する所信表明のような意味合いが、今回の新曲「リンカルネーション」にはある?
シユイ:はい。シユイとして今までやってきたことも引き継ぎつつ、新しいことにも積極的に挑戦していくタイミングだったので、今回はボカロPの方ではなく、シンガーソングライターの藍哀さんにお願いしたのですが、スタッフさんづてで私が今思っていることをお伝えしていただきつつ、楽曲を作ってもらいました。歌詞にもシユイの要素をしっかりと盛り込んでくださって。例えば〈玻璃(ガラス)〉という言葉も入っていますし、〈思惟再機動のための解体作業〉というフレーズがあるんですけど、歌詞の中に「シユイ(思惟)」という言葉が出てくる曲は初めてじゃないかな? 他にも〈君よ 刻の涙をぬぐえ〉というワードがデビュー曲の「君よ 気高くあれ」のオマージュになっていたりして。シユイとして新しく動き出すタイミングで、改めてデビュー時のことを回顧するというか、一周した感じがして、今の私にすごく合っていると思います。
ーーアーティストとしてのシユイらしさとは別に、自分らしさを感じる部分はありますか?
シユイ:どうだろう? 『思惟的錯覚』では「リンカルネーション」を含めて新曲を3曲披露したのですが、そのうち今音源のレコーディングを進めている「タイムスロット」は、私個人という人間そのものに近いんですけど、「リンカルネーション」に関してはシユイという存在、シユイというアーティストが今までどう歩んできて、これから何を目指すのかという立ち位置の表明だと感じていて。なので自分のパーソナルというよりは、改めてシユイを定義づけ、紹介する曲という感じです。
ーーレコーディングで歌う際は、どんなことを意識しましたか?
シユイ:いつもより直感的に歌うことができました。ボカロPの方に曲を書いていただいた場合、言葉数が多くて歌の難易度がすごく高い曲が多いので、いつもめちゃめちゃ考えて録るんですよ。それこそ練習もたくさんして、一人でスタジオにこもって何百テイクも録って試したりしますし、レコーディングに5時間くらいかかることもあるんです。でも「リンカルネーション」に関しては、藍哀さんがシンガーソングライターの方だからか、歌のラインがすごく歌いやすくて。難しく考えるというよりは、自分が中学生の時に初めて歌い始めた頃の感覚、自分が歌いたいように初期衝動的な要素を持って歌いました。レコーディングもスムーズで、主メロは1時間くらい、トータルでも2時間ちょっとで終わったと思います。頭で考えるよりも、体が思う通りに歌ったという感じでしたね。
ーー自分自身をまっすぐ出すことができたと。
シユイ:はい。本当に何もひねらずに、そのままでいこうと思って。夏休みに田んぼばかりの田舎の実家で、近所を気にせずのびのび歌っていた頃を思い出しました。一番力が抜けていて作り込まれていない、シユイというアーティストの裸のような、素材感そのままの歌になったと思います。
ーーとはいえ本楽曲には、ベースにヒトリエのイガラシさん、ドラムに水中スピカの石川栞さん、バイオリンにTK(凛として時雨)さんのサポートなどで知られる須原杏さんが参加していて、ひねりの効いたアンサンブルでポストロック的な聴き応えがあります。ストリングスが入ることで、シユイさんらしい「気高さ」も感じられて。
シユイ:ありがとうございます。表現として「気高さ」をそこまで意識しているわけではないんですけど、声のニュアンスがそう聴こえると言っていただくことは多くて。デビュー曲の「君よ 気高くあれ」のイメージもあってのことかもしれないです。「君よ 気高くあれ」もそうですし、今まで弦が入っている曲が結構多かったので、それがシユイっぽさに繋がっているのかもしれません。実は新曲の「タイムスロット」にもストリングスが入っていて。これからも弦は入れていきたいねとシユイチームで話しています。