【椎木知仁 特別連載】第1回:支離滅裂なライブをしながら抱いていた夢ーーあれから10年、“随分大人になった”今思うこと

 2026年、My Hair is Badがメジャーデビュー10周年を迎えた。リアルサウンドでは、アニバーサリイヤーを記念した特集企画の一環として椎木知仁(Gt/Vo)による特別連載を全3回にわたって掲載する。第1回のテーマは“10周年”。苛立ちや渇きを抱えていたデビュー前の情景から夢を掴むまで、そして10年を経て胸に宿った言葉の数々を、率直に綴ってもらった。(9月1日寄稿/編集部)

デビュー前夜の生々しい記憶と「自分だけのものじゃない」バンドの歩み

 ゴールは変わっていく。

 当時、メジャーデビューの可能性があるバンドのライブにはレーベルの名前の入った紙袋を持っている人が来ていた。出番後にそのバンドの物販に近づき、その紙袋から名刺を取り出してコソコソと話をしている。まったくチャンスのなかった僕はそれがとにかく羨ましかった。やがてそれは大きな嫉妬となって、僕はそいつらを睨みつけるようになった。

 「かっこいいバンドってだけではメジャーにはいけないよ」とある事務所の人に言われたこと、よくわからないメジャーのバンドが地元のライブハウスで僕らを顎で使うように扱ったこと、打ち上げで年下のバンドが会社からドンペリで祝われていたこと、デビュー前かっこよかったバンドのボーカルがメジャーに行った途端、金髪にしてヘラヘラし出したこと、まだまだ言い出せば止められないし、数え切れないが、僕はすべてが気に入らなかった。しかし、どうすればチャンスが回ってくるかは一切わからなかった。いや、考えようともしていなかった。そして当時、言語化能力のない僕は他意なく本心で「きめーんだよ全員死ね!」と思っていた。そう思う以外の抵抗の仕方がわからなかった。そしてステージの上では「季節の変わる匂いが… 星が… 酒を飲んで… んぁあ!あの子が好きぃ!つーかてめーらぶっ殺してヤルから!」といった支離滅裂でメジャーデビューから一番遠のくようなライブをしていた。それにもかかわらず、内心ではメジャーデビューを夢見ていた。

 そんなある日、バンドを進ませる上で「そもそもMy Hair is Badは暗すぎないか?」と直感的に思った。そうして制作したのが1stフルアルバム『narimi』だった。今聴けばまったく明るくないし、当時付き合っていた彼女の名前をタイトルにするというイカれたアルバムだったが、僕には突き抜けるほどの手応えがあった。メンバーには歌詞の雰囲気すら知らせないままアレンジをしてもらって、そのままレコーディングをしてしまった。当時の彼女にタイトルを告げたときにはちゃんと「はぁ?!」とキレられたが、それ以降の会話はまったく覚えていない。覚えていないというか、聞いていなかった。僕は盛った犬の如くこのアルバムに腰を振り「この曲も美しい!この曲も美しい!おれっち天才!」と周りのことを一つも考えないままリリースになった。

撮影=Masanori Fujikawa

 そのアルバムをリリースしてから、ついに僕らのライブにも紙袋を持ったメジャーの会社の人が来るようになった。「ざまーみやがれ!!!」とでも言いそうだが、口から出たのは「ありがとうございますぅ…嬉しいですぅ…」という言葉だった。初めて“届かせたい”という想いも含めて作った作品を受け取ってもらえたのは純粋に嬉しかった。

 その中で出会ったのが現在のレーベル、EMIだ。新宿で弾き語りをしていた時に直接挨拶に来てくれたのがナベ(渡辺雅敏)さんだった。ナベさんは一言挨拶が済んだ直後に「大好きです!いつも聴いてます!サイン下さい!」と僕らのCDを出してきた。今考えれば胡散臭いと思ってもおかしくないが、ヒーローに会った子どものような振る舞いに「え…は、はい…」と僕の方が一歩引きながらサインを書いた。

椎木知仁、渡辺雅敏

 そのあとも何社かライブを観に来てくれた。色んな人がいて、色んな会社があることを知った。給料でかまされたり、名だたる所属アーティストでかまされたり、でっかい本社ビルみたいなところに連れていかれてかまされたり、いい居酒屋奢ってもらってかまされたりした。正直、いい気分だった。

 事務所を含めて相談した結果、EMIに所属することになった。数カ月後、デビュー日も決まった。人生が変わっていく感覚はあった。でもあれだけ色んな大人にかまされたのに、宝くじが当たったような変わり方はしなかった。夢のない話だが、まだアルバイトもしていた。正直デビューしてから半年は辞められなかった。辿り着いたと思った場所があまりにも今までと変わらない場所で、ゴールどころかようやくスタート地点に立ったような気持ちだった。すべては自分たち次第だと気がついた瞬間だった。

撮影=Masanori Fujikawa

 あれから10年経った。こう書いてみると、随分大人になったように思う。色んなことがあった。赤裸々に書くのが嫌になったり、言葉にできなかったり、ある人と会って人生が変わったり、“自分主義”が祟って完全に痛い目をみたり、それなのに全部自分以外のなにかせいにしていることに気がついたり、改めてメンバーとの接し方を考えたり、本当に進む道がわからなくなったり、上京したり、やる気なくなったり、わけのわからない飲み会で自分を見失ったり、20代が終わったり、スピったり、現実主義に戻ったり、もう一度My Hair is Badの純度に向き合ったり……勿論10年は数千字では語り尽くせないから、僕の視点でデビュー前のほんの一瞬の空気だけを書いた。書いてみた今は昔の自分が、人のことも、起こる事象も、すべてを粗末にしすぎていてぶん殴りたい気持ちだ。

 雑誌でも、ラジオでも、webのインタビューでも、こうしたコラムでも、10周年のことは聞いてもらっていて、そのたび色んな回答をしている。宣伝みたいになっちゃうけど、一番ピュアな気持ちは初回限定盤に付いている写真集の最後のページに綴った。データじゃなく物として残るものに自分勝手に書けるのはそこしかなかったから。宣伝みたいだけど。

 これだけは書いておかなきゃいけないけど、メンバー、チーム、EMIの皆さん、そしてなにより応援してくれているお客さんに心から感謝しています。みんなのおかげで今日もバンドを続けられています。すべてを粗末にしていた僕の近くに居続けてくれて、諦めないでいてくれて、今も救われ続けています。

 My Hair is Badは間違いなく自分のものだけど、絶対に自分だけのものじゃない。そんな当たり前のことを教えてもらった10年間でした。

 ゴールは変わっていく。いつか本当のゴールに辿り着く日が来るなら、そのときも隣にいてほしいな。そんな自分でいられるように頑張ります。

My Hair is Bad 椎木知仁

■リリース情報
My Hair is Bad
7th ALBUM『cats』
2026/9/9(水) 発売
購入:https://lnk.to/mhib_cats_ec

初回限定盤(紙ジャケット仕様):【CD+ Photobook】
品番:UPCH-29514 価格:¥5,500(税込)

通常盤:【CD only】
品番:UPCH-20727 価格:¥3,300(税込)

<CD収録内容>
01. 超やばい猫でごめんね
02. 青いソファの上で
03. パスタに涙
04. summer without flowers
05. ダイヤモンド
06. 飛んでけ!タイムマシン!
07. 蝶々に触れて
08. hell see.
09. 秋めき
10. ここで暮らしてるよ
11. Maybeうちら無敵ぢゃん
12. 愛着
13. 闘いは美しい

■ライブ情報
『My Hair is Bad「ノーブルホームランツアー」』アリーナ編
2027/4/17(土) 国立代々木競技場 第一体育館1日目
2027/4/18(日) 国立代々木競技場 第一体育館2日目
2027/5/1(土) マリンメッセ福岡A館
2027/5/8(土) 名古屋クロコくんホール(日本ガイシホール)1日目
2027/5/9(日) 名古屋クロコくんホール(日本ガイシホール)2日目
2027/5/15(土) 大阪城ホール1日目
2027/5/16(日) 大阪城ホール2日目
2027/7/3(土) 朱鷺メッセ新潟コンベンションセンター

そのほかのライブ詳細はこちら:https://www.myhairisbad.com/live

■関連リンク
My Hair is Bad Official HP:https://www.myhairisbad.com/
My Hair is Bad Official X:https://x.com/MyHairisBad
My Hair is Bad Official Instagram:https://www.instagram.com/myhairisbad_official/
My Hair is Bad Official LINE:https://lin.ee/IPJ5Bpg

My Hair is Bad
メジャーデビュー10周年特集

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