恋愛ソングの名手が向き合った、新たなテーマと歌 なぜ『ユイカ』は“青春”を描き切ることができたのか?

 『ユイカ』の新曲「青春は見えない」に対する第一印象――筆者の場合は「高校生たちが修学旅行に飛び出す、恋愛リアリティショーの主題歌っぽいな」というものだった。

青春は見えない / 『ユイカ』【MV】

 “青春”をイメージする時、人はどうしてか高校生活を連想してしまう。絶対とは言いきれないまでも、決して間違いではないだろう。「青春は見えない」で言えば、爽やかなトラックのうえで学生生活のことを歌っているし、冒頭と終盤には〈夏〉というワードも登場する。また筆者は仕事柄、高校生たちが活躍する恋愛リアリティーショーに6年以上は触れてきた。その嗅覚が働いたのだから、これはおおよそ、高校生たちの想いを代弁する令和の最新夏曲に違いない、と考えたところで、正解なのは半分だけだった。「青春は見えない」で歌われる“夏”は、季節的な意味での“夏”だけではないのだ。

 2005年生まれの21歳。シンガーソングライターの『ユイカ』は自身初作品「好きだから。」でバイラルヒットを記録し、その後も片思いからラブコメ的なテーマまで、卓越した筆致のラブソングを数多く生み出している。筆者自身もその名を聞いて「ラブソングの子ですよね」という印象だったのだが、それはもう、少し前までの認識らしい。実際、この傾向は直近でリリースされた3作品によく表れている。

好きだから。/ 『ユイカ』【MV】

 今年4月に配信リリースされた「さんかくゲーム」こそ、片思い女子の恋心をとらえたラブコメポップだった一方、同年2月発表のストリングスポップ「お姫様にはなれない」では、ほかの誰でもない、自分が自分を愛する方法を模索。2025年12月の「私が選んだもの」に至っては、ロックサウンドに合わせて、自らの人生を生きる意味――何を武器とし、何を譲らないのか――をリスナーに問いかけ、訴える迫真の楽曲に仕上がっている。恋愛観よりも人生観へ。今の『ユイカ』がどんなモードにあるのかがよくわかるはずだ。

 加えて、ここまでの楽曲を並べながら気づくのが、彼女が持つ作詞家としての“ある特徴”。「お姫様にはなれない」における、サビの〈お姫様になんてなれないけど/お姫様になった顔して歩くの、〉の部分。ここで終わりと思いきや、〈言っておくけど/いじわるじゃなく/心優しい方ね。〉と続くのが、ただのワガママではないと補足するようで面白い。

お姫様にはなれない / 『ユイカ』【MV】

 「さんかくゲーム」は、さらにすごい。〈ねえ貴方が頭から離れなくて/毎秒HPが下がっちゃうんです〉に対して、〈治すには貴方の恋人に/ならないとだめならしいです〉とくる。いわゆる“被せ”だ。前半が報告だとすると、後半はその対応策の提示。意中の相手に恋の気持ちを伝えるなか、ではその際に「どうすれば?」を説明するほど、恋愛は理性的なものではない。そこまで補足や説明をしてくれるのが、いかにも情報密度が求められる令和らしく、『ユイカ』らしい。

さんかくゲーム / 『ユイカ』【MV】

 先に言ってしてしまうと、最新曲「青春は見えない」においては〈青春は見えない/あの日の僕らは気づかない/今をいつか思い出すことに〉の直後に、〈でも青春が見えたら/あの日のようにがむしゃらに/生きはしないだろうから/見えないままでいい〉と、まったく逆の事象を“仮定”を用いてこれまた詳らかに教えてくれるのだ。さすがにここまで言われたら、説得力を感じることこのうえないだろう。

 自己愛、恋愛、青春――『ユイカ』の歌詞はいつも“見えない”ものを描くのに、どうしてかそれを具体的にとらえる。心理描写がもうひと伸びし、気持ちの“裏”まで描いてくれる。〈でも青春が見えたら〉なんて、まさに裏中の裏だろう。なのに決してくどくもならず、さらりと聴けてしまう『ユイカ』イズム。これを意識しながら、彼女の作品をあらためて聴き直してみてほしい。

 Mrs. GREEN APPLE「ライラック」などで知られる久保田真悟(Jazzin'park)が編曲を手がけた「青春は見えない」。『ユイカ』は、同楽曲でタイトルにある“青春”=輝く高校生活のことを歌っている。が、それは決して今の高校生たちの声を代弁するものでもなければ、側から見て明るいと思える内容でもない。描かれるのは、21歳の少し大人になった、今の『ユイカ』が当時の高校生活を振り返っての想いである。

 彼女の過ごした3年間がどんなものだったか。その答えは、2コーラス目すぐに見つけられる。〈青春はないと思った/お昼ごはんは誰とも喋れないし/半分しか知らない君の顔/こんなのあんまりじゃんか〉。2005年、早生まれの21歳。彼女の高校生活が始まったのは6年前。そう、2020年4月、新型コロナウイルス感染症の影響で、人と人の距離が生まれたあの時期だ。

 もはやパソコンでも一発変換できないくらい、いまだに馴染みのない言葉である“黙食”。当時は「実際の顔がイメージと違った」という理由で、数多の恋愛を破綻させてきたマスク。ここでは触れられていないが“バーチャル修学旅行”などという、当時から考えてもあまりに不幸せすぎる出来事の連続が、高校生活のリアルな思い出として刻まれている20代が間違いなく存在している。『ユイカ』もまた、そのうちのひとり。楽曲タイトルが示すのとはまた別の意味で、“青春が見えない”と思うひとりだったのだ。

 それでも、彼女はこの楽曲で〈今はもうお酒で乾杯してるよ〉〈間違いなくあったんだ/青い春をしていた〉と、リアルを肯定してみせる。友情とは、思い出の内容ではない。大切な10代のうち、あの3年間を一緒に過ごしたこと。その条件があるだけで、すべてのことが“青春”として無条件に変換される。

 少し脱線すると、令和の高校生はかつてに比べて、“青春”という概念に極めて自覚的、かつ鋭くとらえられるようになっている気がする。当時は「青春する」という動詞が存在しつつも、基本的には制服を着て写真を撮るなど、“形主体”の行動が目立っていた。対して、近年は高校生活をリアルタイムで過ごしながら同時並行で、友人と笑い合う時間こそ、その後の人生で何にも代え難い財産になるという考えをノスタルジックに抱いているケースをよく見る。気づくのが、早い。それを言語化できる次元まで認知が深まっていることも、すごいことだ。大切なものが手からすり抜けていく、10代特有のあの感覚。『ユイカ』の歌詞も、もしかするとそうした価値観がもとになっているのかもしれない。

青春は見えない /『ユイカ』【Behind The Scene】

 『ユイカ』がこの曲で伝えるのは、青春とは過ぎ去ってからでないと見えない、ということ。これは登山を例にするとわかりやすく、たとえば遠くから見てきれいな山に登ったとする。頂上の景色は最高で、目の前にきれいな山が見えていても、それはあくまで別の山。目指していた山自体は、離れた距離からでないと楽しめない。青春も同様で、本当の輪郭をリアルタイムではとらえられない。なぜなら青春とは「あれが青春だったね」と内省的になるところまでを含めて、本当の意味で初めて青春たり得るから。この掴むことができない曖昧さに、我々も、『ユイカ』も、おそらくは惹かれているのだ。

 ここまでを踏まえると、『ユイカ』がこのタイミングで「青春は見えない」のような人生観の歌詞を書いたことは、もはや必然だったと思えてくる。「お姫様にはなれない」には〈呆れ返るような日常だって/いつかお空から振り返ったときに/きっとこの日々を/なんやかんやで愛してしまうんでしょう?〉というフレーズが登場していた。今考えると、それもまた「青春は見えない」への予告だったのかもしれない。現在の『ユイカ』を取り巻くピースがすべて揃って生まれた楽曲。それこそが「青春は見えない」なのだ。

〈青春は来ないけど/もう遅いなんてことはない/世間体なんていらない/貴方の好きなように生きて/夏は始まったばかりだ〉

 「青春は見えない」は最後、こう締めくくられる。筆者は目の前の物事に感動し、それに没頭する状態。それは年齢にかかわらず、ひとつの青春だと思う。青春に、形はない。歌詞にあった〈夏〉もきっと、季節的な意味での“夏”ではなく、自分を解放し、想いのまま生きるようになった瞬間に始まる“夏”を指している。高校生活、20代、30代と、もしも青春が見えてしまったら? ――その時は、次の青春に向かうだけ。この夏だって、まだ始まったばかりである。

 「青春は見えない」は、ただの夏曲ではない。自分らしく生きる瞬間は、どんな季節であれ夏。季節単位でなく、人生規模での夏曲なのだ。

■リリース情報
Digital Single『青春は見えない』
配信中

配信URL:https://yuika.lnk.to/seishunID

Digital EP 『翠色に贈る』
2026年8月21日(金) リリース

配信URL:https://yuika.lnk.to/suishokuPR

<収録曲>
1. 翠色に贈る
2. ぜーんぶまちがえてね!
3. 残酷になりますように
4. 私のまま
5. 生きましょうね

■公演情報
『『ユイカ』LIVE「Sanvitalia」』
2026年9月21日(月・祝)OPEN 18:00/START 19:00
東京国際フォーラム ホールA

<チケット>指定席:7,700円(税込)
プレイガイド2次先着(チケットぴあローソンチケットイープラス
受付:2026年8月23日(日)23:59まで

『ユイカ』オフィシャルサイト:https://www.universal-music.co.jp/yuika/
X:https://x.com/yuika_singuitar
Instagram:https://www.instagram.com/yuika_singuitar/
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YouTube:https://www.youtube.com/@yuika_singuitar

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