いま振り返る異端のV系バンド 蜉蝣 全力で生きた8年間ーー現在のシーンにまで影響を与える唯一無二の個性

 2026年7月1日、ヴィジュアル系バンド・蜉蝣の音源が各サブスクリプションサービスで配信開始された。SNSでは、当時のファンはもちろん現役のバンドマンも反応し、それぞれのオススメの楽曲や思い出のポストが相次いで投稿された。

 蜉蝣は、活動期間わずか8年に満たないバンドであり、誰もが知る存在ではない。それでも、彼らの持つ唯一無二の個性とインパクトは今なお語りたくなるほど鮮烈で、現在のシーンにたしかな影響を与えているということだ。何がそうさせるのか、蜉蝣の魅力をあらためて紐解いてみたい。

音、歌詞、ライブ……全てにおいて規格外の存在

 1999年に結成された蜉蝣は、2001年に大佑(Vo)、ユアナ(Gt)、kazu(Ba)、静海(Dr)の4人体制となり、2000年代のヴィジュアル系シーンで頭角を現していく。

 限定盤CDが即完するなど話題を集め、2002年には渋谷公会堂でのワンマンライブを成功させる。ヨーロッパツアーや、ドイツのロックフェス『Rock am Ring』『Rock im Park』出演を重ね、海外でも支持を集めた。しかし、2006年の全国ツアーファイナルで解散を発表。2007年1月8日、Zepp Tokyoのライブで活動を終える。“儚さ”の意味を持って名付けられたバンド名どおり、儚くも濃密な約8年を駆け抜けた。

 00年以降は、90年代後半に隆盛を極めたメジャーバンドの活動休止や解散が相次いだ代わりに、多彩なインディーズバンドがしのぎを削る時代だった。

 90年代の流れを汲む耽美でダークなバンドから、ポップでカジュアルなバンド、コンセプチュアルなバンドまで、メイクも音楽性もさまざま。“ほかにない存在”となるべく個性を極めるなか、蜉蝣は楽曲もライブパフォーマンスも規格外のバンドだった。

 まずはサウンド。90年代ヴィジュアル系やハードコア、メタルなどの影響を感じさせつつも、リズムやリフ、メロディすべてにオリジナリティが溢れている。

 たとえば、のちにライブの定番曲となる初期の楽曲「R指定」は、イントロから変拍子の連続。kazuと静海が生み出すタイトかつ変態性の強いリズムも、緻密なリフから突然サーフロック風のソロを挟むユアナのギターも自由そのもの。プログレッシブロックと言っても差し支えない展開をみせるなか、元ドラマーならではのリズム感でどんな曲でも乗りこなすボーカリスト・大佑がメロディをなぞれば、なぜかキャッチーな楽曲に仕上がってしまう。歌詞をよく読むとタイトルどおり“R指定”なところまで、ジャンルやルーツで説明することができない1曲だ。

 「ゆびきり」「過去形真実」といったバラードや、「縄」「絶望にサヨナラ」といったストレートなロックナンバーの名曲も多数あるが、随所に変拍子やクセの強いアレンジが混ざり込む。4人全員が作曲を担当するスキルと、一筋縄ではいかない天邪鬼なセンスで蜉蝣の色を作り上げた。

 蜉蝣の色を語るうえで、大佑が書く歌詞も外せない。初期の猟奇的かつ官能的な世界観から、徐々にリアルな心理描写へと移り変わっていくなかで、根底にあり続けるのは彼自身の抱く拗らせた愛情と赤裸々な生き様だ。人を羨む嫉妬心も、別れた恋人を思う未練も、起死念慮すらも隠さず、弱さをそのまま詞に込める。生きづらさや、いわゆる“病み”の感情をリアルに表現するスタイルは、むしろ令和的であると言えるかもしれない。「ヴィジュアル系」と聞いてイメージされる難解な言葉遣いはなく、そのほとんどが日記や手紙のようでありながら、印象的なパンチラインばかりだ。

〈束縛したいけど/キミはきっと嫌がるから/せめて心だけそっと縄で縛りたい〉(「縄」)

〈生きるなんてくだらない 死ぬなんてすごく恐い/謎に満ちた僕の未来 そんな僕はとても暗い〉(「根暗高速子守唄」)

〈朝から最高な雨降り 今日こそ自殺日和〉(「朦朧エピローグ」)

〈1番じゃなくていい 2番目でもいい/0になるのが 凄く恐いんだ〉(「木枯らし、」)

〈大好きだから別れたかった 少しおかしいと言われても/もう行かなくちゃ 朝が来るから〉(「腐った海で溺れかけている僕を救ってくれた君」)

 一部紹介しただけでも、わかりやすくポジティブな歌詞はない。だが、そこに大佑の生々しい感情が息づいているからこそ、嘘のない言葉たちは時代を越えて聴き手の心を鷲掴みにする。

 もうひとつのトピックは、やはりライブだ。複雑な構成の楽曲ばかりとは思えないほど、四者四様のステージングも自由そのもの。踊るようにギターを弾くユアナ、表情込みでドラムを叩く静海、クールにオーディエンスを煽るkazu、そして頭から水を被ったり、フロアにダイブしたりと縦横無尽に暴れ回る大佑。毎回命を削るような気迫で歌う大佑を中心に、4人が全身全霊でステージに立っているのが伝わってくるからこそ、安定感よりも危うさが大きな魅力だった。よく「過激なパフォーマンス」と表現されるが、過激だからすごいのではなく、「感情を振り切った結果過激になってしまった」というのが正しいだろう。

 ちなみに、現在のヴィジュアル系シーンを牽引するバンド・RAZORのボーカル・猟牙は、フロアにダイブする大佑を見て衝撃を受け、バンドをやろうと決意したと語っている(※1)。

解散後も広がり続けるシーンへの影響

 大佑は、「蜉蝣しなさい」という言葉で、いつも観客を煽っていた。蜉蝣の音楽を聴き、ライブを観ることは、まさにそこでしか得られない刺激を受ける――「蜉蝣する」としか言いようのない無二の体験だった。同時に、その言葉には「儚い命を全力で生きろ」という意味が込められていたようにも思う。皮肉だが、8年足らずで解散を迎えたことが、何よりもメンバーが「蜉蝣した」結果なのだ。

 解散後、大佑は旧知の仲であるaie(deadman/kein/the god and death stars/gibkiy gibkiy gibkiy)とthe studsを結成。約2年間の活動を経て、大佑と黒の隠者達名義でのソロ活動をスタートする。ほかのメンバーもそれぞれ音楽活動を続けており、蜉蝣の再結成も夢ではないと思われていたなか、2010年7月15日に大佑が急逝。31歳という若さでの旅立ちに、バンド仲間を始め、多くのファンが悲しみに暮れた。しかし、大佑の音楽、蜉蝣の歴史はそこで終わらない。

 制作途中だった大佑と黒の隠者達のアルバム『漆黒の光』は、蜉蝣のメンバーや、DIR EN GREYの京、MUCCの逹瑯、メリーのガラ、lynch.の玲央ら先輩/盟友たちが参加して完成を迎える。一周忌の当日には、新木場STUDIO COASTにて『大佑 一周忌追悼公演「漆黒の光」』も開催され、ライブという花を手向けた。

 その後、2019年のイベント『Free-Will SLUM』で“蜉蝣session”が行われた際は、蜉蝣メンバー、逹瑯、ガラに加え、大佑をリスペクトする後輩としてキズ・来夢、DOG inTheパラレルワールドオーケストラ・春らが参加。2022年のイベント『V系って知ってる? powered by MAVERICK DC GROUP』でも“蜉蝣 Respect Session”が組まれ、DEZERT・千秋やキズ・きょうのすけらが参加した。同世代だけでなく、後輩たちにも、蜉蝣や大佑の遺伝子は脈々と受け継がれているのだ。

 そして2026年。25周年を迎えるメリーが旗振り役となり、大佑の誕生日である7月30日に、Zepp Haneda(TOKYO)にて『メリー 25th Anniversary LIVE -Many Merry Days- 「大佑祭り!!」』が開催される。00年代当時、飛び抜けた存在感ゆえに“御三家”と呼ばれたメリー、MUCC、蜉が初めて3バンドだけで並び立つとあって、チケットはすぐにソールドアウト。愛情と熱狂に満ちた夜になることは間違いない。

 たった8年の活動をリアルタイムで体感した人は多くないかもしれない。だが、いつでも「蜉蝣する」ことはできる。刹那に生き、全力で時代に爪痕を残した蜉蝣という刺激の渦に、飛びこんでみてほしい。

※1:https://youtu.be/ylC9oL-mQng?si=4Gts4F1v7WzJ2ZsE

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