『テレ東音楽祭』大森時生が語る演出の核心 過去と現在を等価に並べる独自の視点、名曲と“出会い直す”歌番組に
「SNSでバズるだろうと思わずにやったことが、逆に功を奏した」
──結果的にはSNSでも大きな反響を呼びましたが、最初からバズることを意識していたのでしょうか。
大森:僕自身は、SNSでバズらせようという意識はあまりありませんでした。どちらかというと、先ほど話したようなコンセプトをやったうえで、ちゃんと視聴率を取れる番組、マスに届く番組にしたいと思っていたので。視聴率を取ることとSNSでバズることは、意外と近くないんです。SNSではものすごく話題になっているけれど、視聴率は良くない番組もたくさんあります。今回は、多くの人に観てもらえるものを目指した結果、想像していなかったくらいSNSでの反響が良かった。これがSNSでバズるだろうと思わずにやったことが、逆に功を奏したのかなと思います。
──それでも、SNSで呟きたくなるようなサプライズやハプニングがたくさんありました。とはいえ小ネタやショートコントのようなものではなく、あくまで軸は「音楽を演奏して歌っている番組」だったことも印象的でした。
大森:逆に、だからこそみんなあまり自意識を働かせずに感想を投稿することができたのかもしれません。今の世の中には、視聴者の感想をある程度想定して、「こう言ってください」と誘導しているように見えるものが多いと思うんです。テレビに限らず、いろんなコンテンツにそういう匂いがある。でも、観る人だって、その匂いを敏感に感じ取りますよね。僕自身も、そういうものに不愉快さを感じることがありますし。だから、今回の番組が「こうすればバズるんでしょ」という感じになっていなかったらいいなとは常に思っていました。
──音楽だけを流していても視聴率は取れない、と言われることも長くあったと思います。今回、純粋な音楽祭として作りながら、視聴率でもSNSでも反響があったことに手応えはありますか。
大森:ありがたいことに多くの反応をいただいています。今回の音楽祭のために歌っていただくということは、過去の歌唱映像をそのまま観るのとはまた違う良さがあることは感じましたね。過去映像を観る良さももちろんあります。でも、今その人たちが歌っていること、それぞれに人生があって、それぞれが生きてきたことの重みは大きいと思うんです。ただのノスタルジーではなく、それぞれがそれぞれの人生を生きて、それでも歌っている。ライブとも違うし、ファンだけが集まる空間でもない。いろんな人が偶然同じ時間に音楽を共有しているという意味では、ある種フェスに近いグルーヴがあったと思います。
──今回の反響を受けて、今後『テレ東音楽祭』でやってみたいことはありますか。
大森: CMもまた音楽と同じくらい人の記憶に結びついているメディアなんだと改めて思いました。たとえば今回は、FIELD OF VIEWの「突然」が使われた1995年のポカリスエットのCMを、当時出演していた中山エミリさんや、本物のダチョウとともに再現しました。すると、曲だけでなく、CMの映像や出演者まで覚えていた方から大きな反響があったんです。90年代のポカリスエットのCMは他にもZARDの楽曲や出演された一色紗英さんなど、今見ても本当にマスターピースのようなものが多いんですよ。そういうものを再構築できるような企画ができればいいなと思っています。
──今後のご自身の制作活動としては、どのようなものに興味がありますか?
大森:相変わらずフェイクドキュメンタリーや何かしら不気味なものは作り続けていくと思います。その感覚にやはり強烈に惹かれるので。ただ一方で、30歳になってから、日々の生活や心身をどう健やかに保って生きていくかにも、強く関心を持つようになりました。いつか長谷川あかりさんとお仕事がしたいですね。長谷川さんの料理は、最小限の材料や工程で「こんな作り方があったのか」という発見があるんです。それでいて、作る人に“丁寧な暮らし”を要求しない。生きていくための料理として提示しているところに惹かれます。
──とても面白い視点です。
大森:たとえば上の世代にも下の世代にも、ある種のケアとして作用するコンテンツはいろいろあると思います。でも30代は、仕事や家族、身体の変化など、生活が大きく動く時期であるにもかかわらず、その世代特有の気分をすくい取るものは意外と少ない気がするんです。若者のように何者にでもなれると思える時期ではないけれど、人生を振り返るにはまだ早い。若者でもなければ、完全におじさんでもない。いろいろな意味で、中間地点にいる感覚があります。そうやって自分自身が切実に感じていることをもとに、これからも番組作りができたらいいと思っています。