サム・スミス、新作『Hazel Eyes』に至る“愛”の変遷を語る 藤井 風との交流、日本カルチャーからの刺激
「恋は一本道ではなくて、蛇行する川のようなもの」
――『Gloria』以降、近年のサムさんはよりシンプルで本質的な表現へと向かっているように感じます。2025年に発表された「Love Is A Stillness」や「To Be Free」では、歌声そのものに焦点を当てたアプローチや、初めてのワンテイクレコーディングにも挑戦されました。そうした流れを踏まえて、今回のレコーディングやアレンジではどのようなことを意識されたのでしょうか?
サム:そこに気づいていただいて、本当に嬉しいです。『Gloria』は自分にとって非常にエキサイティングな時期に作った作品でした。デビュー当時は若かったこともあって、「ポップスターになりたい」という探究心がいちばん強かったんですよね。でも「Love Goes」以降は自分が心から信頼できる人と同じ部屋に集まり、とにかく純粋に“歌うこと”を大切にするようになった。心にあるものを素直に吐き出す――それは原点回帰かもしれないけど、私自身は前に進んでいる感覚があるんですよね。「My Guy」のレコーディングも自然体で向き合い、サウンドもオーガニックな仕上がりになりました。
――楽曲を聴いてフレッシュな印象を受けました。
サム:イエス! これは曲を書き終わった30分後に、ワンテイクで録ったんですよ。このときも周りには親しい友達だけがいて、そのなかで自分は歌うことのみに集中しました。最近はそういう親密な空間を大事にし、繊細に作り上げてます。それは曲を聴くと伝わってくると思います。
――8月21日にはニューアルバム『Hazel Eyes』がリリースされます。これまでのアルバムとはまったく違う形で制作したそうですね。
サム:そうなんです。これまでいろんなアーティストやクリエイターの方と曲を作って、アルバムの収録曲を選んで1枚の作品にしてきました。たとえばリアーナみたいに、さまざまなインスピレーションを受けて作品にすることに憧れていたこともあったけど、今回の作品に関しては“統一性”を大事にしていて。アーティストとして、より深く自分を探求することの大切さを実感しました。自分がプロデューサーとして関わったこともそうですし、作品の始まりから終わりまで、あらゆる場面で自分を追い込みました。そして、このアルバムを表現するなら、ものすごくロマンチックな作品。今のパートナーと恋に落ちる前夜から始まり、現在までの2、3年間の関係を描いています。
――パートナーとの関係を作品として残そうと思ったのは、なぜだったのでしょうか?
サム:私は日記のように曲を書いてきた人間なんです。これまでリリースした4枚のアルバムもそう。1枚目『In the Lonely Hour』は、片思いをしている相手から愛されなかった思い。2枚目『The Thrill of It All』に関しては、愛と自分との関係性とか、20代の若いクィアである私自身と向き合った。3枚目『Love Goes』は自分の心が折れて、ハートブレイクした心情が強く出ている。4枚目『Gloria』は自らを愛することを学びながら、一方で私らが世間にどう見られているかも作品にしました。そんななか、今回は初めて“両思い”を大きなキーワードにしています。恋は一本道ではなくて、蛇行する川のようなものだと感じて、それを楽曲に落とし込みました。もちろん音楽に関しても多くの学びがあり、人間としてもアーティストとしても深みが増したと感じています。
――振り返ると『In the Lonely Hour』のときは、サムさんはまだ恋人ができたことがなくて、一般的なラブソングに共感できなかった。だからこそ、誰かを一途に思う曲を書くことができたし、そこに多くのリスナーが共感した。恋の切なさや儚さを音楽に昇華していたサムさんが、今は大事な人と過ごす幸せを曲にしていることに、個人的に胸がいっぱいになります。
サム:そう言っていただけると、とても嬉しいです! 音楽は誠実でいるときにこそ、いちばん強いパワーを発揮する。アーティストとして目的を見失ってしまったり、インスピレーションが湧いてこなかったりしたときに、純粋な愛を持つことが大事なんですよね。それは常日頃から心がけているし、そこに皆さんが共感してくれるのではないかなと思います。私の楽曲を最初から聴いてくださっていて、これまでの歩みを感じていただけたことが伝わってきて、今日は本当に素敵な日になりました。