さらば帝国、パンクの奥に滲む圧倒的な情景描写 固定観念に決別して築く“新たな遊び場”――ルーツを紐解く初インタビュー

「セスナ」「天国にいける様な」……歌詞に込められた“嘘のない願い”

――よかったです(笑)。それこそ下北沢SHELTERで「セスナ」を初めて聴いた時、地下にいるのに、でっかい空が目の前に見えた気がしたんですよ。それくらいスケールの大きな歌心にびっくりしてしまって。

前田:ありがとうございます!

――青空って、時に眩しすぎて直視できないもの、荒んだ心を残酷なほど照らし出してしまうものの象徴として描かれる時がある気がするんですけど、さらば帝国の歌詞って、そういう感性とは違っていて。本当にだだっ広い空を、ひたすら大きく歌っていることに感動したんです。この感覚は何なんでしょう?

前田:今言われてハッとしました。そもそも、“何もない大きく開けたもの”っていうのが僕にとっての空だったんで、それを歌う以外のことは考えられなかったんですよね。僕が新島で見てきた空をSHELTERで鳴らすと、そういう風に受け取ってもらえるんだなって思いました。「セスナ」に対して、最初は僕自身あまりピンときてなかったんですよ。引っかかりがなさすぎる気がするというか。

――そうだったんですか。

前田:でも聴いた人がみんな「〈大きな空を抱きしめて〉って歌うの、たまんねえよ!」って言ってくれたから、そうなんだって気づいて。中学生の時、島に赴任してきた国語の先生が、「君たちは夜空を見上げて、『今日は満月だね』『星が綺麗だね』っていう話をするだろう? これは本当に大切な感性だから忘れない方がいい。優劣をつけるわけじゃないけど、僕がかつて教えていたクラスでは、そういう話をしなかった。そもそも月や星が綺麗に見えない場所がほとんどだから」っていう話をしてくれたんですよ。僕はそれがすごく印象的で、「セスナ」を書く時も思い出してましたね。

――しかも、前田さんの歌詞には自然のことがストレートに書かれているけど、単に景色を描写しているだけじゃなくて、“広大な自然を前にして露わになる自分自身”のことが浮き彫りになっている感じがする。自然を描くことで、自分自身と向き合う歌になっていることが面白いなと思います。

前田:嬉しいですね。それは自分が物事を考えている順番が、歌詞にも素直に出ているのかもしれないです。学生の頃にめっちゃ聴いてた曲を聴くと、当時を思い出すことってあるじゃないですか。それが僕にとっては島の自然なんです。あの時何を考えてたんだろうって思うと、その時の風や空を思い出すので、そこに自分の感情をどう乗せようかなって。そうやって曲を作ってますね。

 でも情景を描くことに関しては、歌詞はもちろん、バンドサウンドや歌もセットにして考えてるかもしれないです。歌声とバンドの音が合わさって初めて、自然と同じフィールドで戦える気がするというか。

――というのは?

前田:歌声も音も嘘をつかないですよね。“どう弾くか”ってことに対しては嘘をつけるけど、出てる音自体に嘘はないじゃないですか。だから僕の中では、それによって初めて、自然っていう嘘のないものとイコールの立場で戦える気がするんです。歌詞だけ見たらイマイチだと思ってたものも、3人で演奏することでいいものになることってあるんですよね。

――なるほど。では、バンドの代表曲と言ってもいい「天国にいける様な」はどんなきっかけでできた曲なんでしょう? 〈天国にいける様な/僕の生活は/地獄そのものの様な気がして/話が上手なアイツの/魅力が僕を刺してくる〉っていう歌詞が強烈に刺さりまして。

前田:新島にヒッピーの親友がいるんですよ。隣の家に住んでいて、本当に大好きなヤツなんですけど、生活が真逆なんですよね。そいつは新島のみんなと自然の中で暮らしていて、僕は上京して働きながらバンドをやってる。そこから生まれた価値観のズレもあってか、ある日飲んでて喧嘩になったんですよ。そいつに言われたことがすごい悔しくて、「絶対いい曲書いてやる!」と思って、10分くらいで作った曲が「天国にいける様な」です。すごい素直な曲で、果たし状みたいな気持ちで書きました(笑)。暗くも明るくもない、ニュートラルないい曲ができたなと思っています。

 最近「自分は大変です」ってあまり言っちゃいけないような風潮を感じるんですよ。「みんな大変だから頑張らなきゃ」みたいな。でも僕はそれがあんまり好きじゃなくて。だって実際、みんなそれぞれに大変なことがいっぱいあるわけだし、みんなが気持ちいい場所、過ごしやすい場所を探しているし、みんな報われたいと思っているわけじゃないですか。僕は「救う」とかわかりやすいことは書かないし、ちょっと淡泊に見える歌詞かもしれないけど、みんながいい感じになればいいのにな、報われるまで大変なことも多いよな、もっとどうにかならないかな……っていう気持ちは根底にあるから、この曲にはそういう願いも込められていると思ってます。

『新・島盤』-大特典映像より-さらば帝国/天国にいける様な

――自分と同じような境遇の人に語りかける歌も多い一方で、「みんないい感じになればいいのに」っていう気持ちで歌うことができるのはどうしてなんでしょう?

前田:僕、会いたい人がいるんですよ。別にミュージシャンっていうことじゃなくて、これまで普通に生きて出会ってきた、いろいろな人たち。それぞれみんな遠くの方にいて、会いたいけど簡単には会えない。その人たちに届いてほしいなって思うからですかね。

――そういう自分の気持ちを嘘なく歌い上げている感じがするから、ライブで聴いてると「お前はどうなんだ?」って問われてるような気がしたんですよね。いい意味で、こちらの背筋が伸びるというか。

前田:人を説教したいわけじゃないんですけど、『Loco Motion!!!』を旗揚げしてる僕が一番気合い入ってなきゃダメだろっていう気持ちが出ているからかもしれないですね。そうじゃないと誰もついてこないよなって思うから。それが一番シンプルな要因かもしれないです。

主催イベント『Loco Motion!!!』は「さらば帝国でしか作れない」

――その『Loco Motion!!!』が今年も6月に新島で開催されるわけですが、改めてイベントの魅力を教えてもらえますか。

ウノ:『Loco Motion!!!』は僕らにとっての“セーブポイント”なんですよね。バンドとしてはこれから大きくなっていかなきゃいけないから、大きなフェスにも出たいけど、結局帰ってくる場所は年1回の『Loco Motion!!!』なんで。1年頑張って、『Loco Motion!!!』でセーブして、また次の1年を頑張るみたいな。新島に来ると、全てから解き放たれるんですよ。電車もないから終電を気にする必要はないし、そもそも気にする余地すらない場所なので、本当に自然体なままでいられると思います。ただ好きなバンドを見て、夜道に寝っ転がって星を見たり、海に入ったり、美味しいパンを食べたり、朝散歩したりして、気づいたら時間が経っている。そういうのが新鮮で楽しい方も多いと思いますし、他の場所じゃなかなかできないことばかりなので、僕らとしては大切にしていきたい場所ですね。

Loco Motion!!!'25 NIIJIMA GREAT TIMES
レストラン-さらば帝国-Loco Motion!!!'25-東京都新島村

田代:私も新島に行くと、本当にシンプルなサイクルになるんですよ。ちょっと早起きして、散歩して、パン食べて、海入って、髪乾かして、メイクして、ライブして、みんなでお酒飲んでっていう。普段のライブだと、私たちが剥き出しになっていって、それに呼応してお客さんもワーッと剥き出しになっていく印象なんですけど、『Loco Motion!!!』は逆で、お客さんが先にどんどん剥き出しになっていくから、私たちも剥き出しになってしまう感覚があるんですよね。それで会場がエラいことになるっていう(笑)。見たことない光景に毎年驚かされます。

――僕も映像で観させてもらって、どえらい盛り上がりでびっくりしました(笑)。

田代:ですよね。新島出身の祐快がいるバンドだからできるイベントだと思うし、この熱狂の渦みたいなものは、さらば帝国でしか作れないっていう自信があります。『Loco Motion!!!』にはさらば帝国の全てが詰まってますね。

前田:新島にはライブハウスもないけれど、地元の大切な場所である丘の上のレストラン(新島親水公園れすとはうす/さらば帝国はこのレストランでレコーディングも行っている)で開催していて。去年『Loco Motion!!!』に出てくれて、今年も出演してくれるUlulUの古沢(りえ)さんが、「みんなは、いずれ音楽の教科書に載るかもしれない一大イベントの創設者になんだよ。歴史の1ページになれるかもしれないんだよ」って言ってくれたんですけど、それがめちゃくちゃ嬉しかったんですよね。確かに僕らもそういう気持ちでやってるし、そういう流れが生まれる場所だと思ってるので、『Loco Motion!!!』というイベントの魅力を伝えて、もっと多くの人に来てもらえたらいいなと思ってます。

 僕としては、やっぱり固定観念が覆されるのが島の魅力だなと思うんですよね。海って綺麗なイメージがあるけど、実際はめちゃくちゃ海藻の匂いがして、場所によっては結構臭かったりするんですよ(笑)。でもそういうのが楽しいと思うし、葉っぱもよく見ると緑だけじゃなくて黄色もあったりするし、太平洋の香りとか、波の音の響きとか、いろんなものを感じられる場所だと思います。あとは、ご飯がめちゃくちゃ美味い! 海を眺めながら、芝生で美味いご飯を食べてライブを観られる、すごくいい体験になると思います!

――めちゃくちゃ行きたくなりました!

前田:ぜひ! バンドとしては『Family dance, nude』っていうタイトルで初の東名阪ツアーを7〜9月にまわります。僕たちの原点であるホームイベントの『Loco Motion!!!』に来てもらって、それからツアーにも遊びに来てもらえたら嬉しいですね。

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