さらば帝国、パンクの奥に滲む圧倒的な情景描写 固定観念に決別して築く“新たな遊び場”――ルーツを紐解く初インタビュー
Hi-STANDARD、ミッシェル……さらば帝国にとっての特別なルーツ
――先ほど『Loco Motion!!!』の初開催後に改名したということでしたけど、「さらば帝国」っていうバンド名にはどんな意味が込められているんですか。
前田:アフロバンクの頃に「天国にいける様な」っていう曲ができた時、「この曲を出すなら今のバンド名はそぐわないな」ってことで名前を変えようと思ったんです。さらば帝国って「帝国にさようならをする」という意味で。帝国っていうのは、僕の中では“固定観念”みたいなものなんですよ。昔、ローマ帝国とか、帝が司るものが世界にはたくさんあって、絶対に揺るがないものだって当時は思われていたわけじゃないですか。でも今は、帝みたいな存在の人はいるけど、帝が統治している帝国というものはない。それと同じように、今は見えなくても、未来から見ることで価値観が変わるものってあると思うんですよね。僕も結構、固定観念にとらわれやすいので、そういうものにさようならしたいなって。
でも、さようならするだけじゃ無責任じゃないですか。そのあとに辿り着く場所が必要なわけです。そうなった時に、僕らのやりたいことである“場所作り”に繋がるんですよね。ライブハウスも一つの国みたいな側面があるし、イベントや音楽自体も同じで。そういう存在にすごく助けられてきたので、僕らも場所を作りたいっていう願いを込めて「さらば帝国」っていうバンド名をつけました。
――まさにバンドの根幹と繋がってくるわけですね。では、3人の音楽的なルーツを知りたいんですけど、自分にとって特別なアーティストって言われると誰が浮かびますか。
前田:僕はHi-STANDARD一択です。とことん自分たちの力で凄まじいことをやり続けてるから、ずっと人気があって、人がついてくるんだろうなって。彼らも「フェスがないなら自分たちでやっちゃおう」みたいなスタイルですよね。そういうところが大好きなんです。曲中ではふざけたり恥ずかしいことを言ったりもするけど、美しい音色も鳴らすし、コーラスワークとかグルーヴもすごい。初期衝動だけでは収まらないバンドだなって思いつつ、何をやっても根底にあるのがパンクだっていうのが伝わってくるんですよ。パンクっていうのは姿勢であって、音楽ジャンルじゃねえんだなってことを教えてもらったバンドでもありますね。
ウノ:僕はあまり音楽に熱中したことがなかったんですけど、大学生になってTHEE MICHELLE GUN ELEPHANTを知ってグーパンを食らった感じでした。母がピアニストだったんで、小さい頃はクラシックとかポップスを聴いてはいたんですけど、スピーカーから大きい音を出しながらちゃんと聴いた音楽はミッシェルが最初です。「NIGHT IS OVER」っていうピアノの入ったインスト曲があるんですけど、それを聴いて泣いたんですよね。インスト曲で泣いたのはそれが初めてで。最初にバンドを組んだ時、楽器屋で見つけたウエノ(コウジ)さんと同じベースを買って、今もお守りみたいにずっと使ってます。
――あえて言うとしたら、ミッシェルにそこまで衝撃を受けたのはどうしてなんでしょう?
ウノ:うーん……何だろう……。
前田:ウノくんって戦隊ヒーローの立ち姿とかにかっこいいって思うから、ああいうのに近いんじゃない?
ウノ:あ、そうかも! 人のライブを観ててもそうなんですけど、僕ってかっこいいものに圧倒されて泣くことが多いんですよ。ミッシェルはもう、立ってるだけでかっこいいですもん。言われてみれば、戦隊ヒーローと近いのかも。
前田:ウノくんがそういう衝撃を受ける時って、形から受け取ってるのかなって勝手に思ってるんですよ。子供の頃、「戦隊ヒーローがかっこいい」なんて教わらなくても、自然とかっこいいって思うじゃないですか。それってたぶん、かっこいいって思わせるだけの形がちゃんとあるからで。アベ(フトシ)さんの身長の高さとか、クハラ(カズユキ)さんの髪型とか含めて、ミッシェルは姿そのものがかっこいいから、それを機敏に感じ取って影響されてるんじゃないかなって。ウノくんもバンドの見え方をちゃんと気にするタイプだから。
ウノ:よく説明できるね(笑)。確かにそうかも。でも単純に見てくれだけじゃなくて、特に人前に立つと滲み出る、“見えないかっこよさ”っていうのも同時にあると思っていて。これは祐快に対しても思ってることだし、ベンジー(浅井健一)にも同じことを思います。去年のフジロック(『FUJI ROCK FESTIVAL'25』)でサンボマスターのステージに、ヒロト(甲本ヒロト)とマーシー(真島昌利)が出てきた時、仁王立ちしたまま泣いて動けなかったんですよ。そこに滲み出る見えない何かのかっこよさも、すごく気にしてるのかもしれません。
――田代さんはどうですか?
田代:私の始まりはチャットモンチーですね。両親が音楽好きで、小さい頃からいろんな楽器を勧められたんですけど全部断ってたんです、習い事するのが嫌で(笑)。でも小学5年生の時、「今テレビに出てるチャットモンチーって観てる? めっちゃかっこいいからコピバンやろうよ!」って友達から電話かかってきて、ノリでOKして、お父さんがドラムやってたから私もドラムをやるっていうことになって。そこからチャットモンチーにのめり込むようになりました。小学6年生の時に行った初めてのライブが、下北沢SHELTERのチャットモンチーで。
――小学生でSHELTER行くって早いですね(笑)。
田代:保護者に付き添ってもらいながら(笑)。そこで観てさらに好きになって、全曲コピーするくらいハマりました。同じくらいの時期に日本の芸能クラブに入って和太鼓も始めたんですけど、わりと強豪校だったこともあって、和太鼓にも熱中しましたね。太鼓芸能集団 鼓童っていうフジロックにも出たことのある和太鼓集団がいるんですけど、伝統を守りながら新しいものを取り入れてる感じがすごく好きで、チャットモンチーと同じくらい影響を受けています。
――さらば帝国のライブを観た時、鋭い目つきで叩く田代さんのドラムが、バンドのグルーヴを牽引しているような印象を受けました。
田代:ありがとうございます。昔、お父さんにドラムを教えてもらおうと思ったんですけど結局教えてもらえなくて、でも一言だけ言われたのは「映画をたくさん観ろ」ってことだったんですよ。たぶん、ドラマチックなドラマーになれよみたいなことだと思うんですけど。
前田:かっけぇ……。
田代:当時は全然意味がわからなかったんですけど、最近になって祐快の曲は結構ロマンチックなところとかストーリー性を感じる部分があるから、「ここは海のそばを走ってるな」とか「ここは海に潜ったんだろうな」とか、そういうことを考えながら叩いたりしてますね。だから私は歌があって初めてドラムがつけられる気がします。ライブ中も、テンポを意識するとかじゃなくて、歌に合わせつつ、祐快のことを「おい、来いよ!」みたいに引っ張ってる感じです。それが目つきに出てるのかもしれないですね。コウダイくんは横にいて、私が調子悪くなってきたら勝手に引き上げてくれる存在というか。そういう安心感があるから、私は祐快の方を見ていることが多いんですよね。
――そういう阿吽の呼吸も含めて、3人のステージ上でのバランスの良さはすごく感じていて。個人的な見解ですけど、前田さんのボーカル&ギターは“空”、ウノさんのベースは“大地”、田代さんのドラムは“風”や“波”を担っているイメージがあって。3人それぞれが、さらば帝国という音楽のスケールを体現している感じがするんです。
田代:嬉しい!
前田:うわー、それいいっすねぇ! 僕は田代さんを波だと捉えてるんですけど、ウノくんが大地、僕が空っていうのもまさにその通りで。ベースのフレーズを考える時も「変に動きすぎると、大地が揺れて形が保てないよな」とか、「波が大地に当たることで広がりが生まれて揺らぎになるのに、大地まで動いちゃうとそれが生まれないよな」みたいに考えたりします。一方で、空はどこまでも広がる可能性みたいなものだと思ってるので、リリックやメロディを作る時は、“空をいかに高くできるか”って考えていて。この3ピースのバランスが合っているから譲れないよなって思っていたので、思わず共感しちゃいました(笑)。