go!go!vanillas、“リアルなつながり”に宿る切実さと遊び心が共存したステージ バニラズ9と紡いだ冒険譚の全貌
この日の牧達弥(Vo/Gt)からは切実な思いが溢れていた。キミが今この瞬間に感じていることでしか未来は切り拓けないんだ、そんな優しく少し危機感も含んだ切実さ。go!go!vanillas(以下、バニラズ)のライブは笑いも涙も不甲斐ない気持ちも大きな愛に転換してくれるが、この日はここで得た実感を、日々を生きるリアルな力にしてほしいというバンドの意志が従来より強く感じられたのだ。
2025年9月リリースの『SCARY MONSTERS EP』の名前を冠した今回のツアー『SCARY MONSTERS TOUR 2025-2026』はホール編11公演を全てソールドアウトし、2026年3月からは神戸、東京、名古屋でのアリーナ編を実施。東京はプロバスケットボールリーグの試合会場であるTOYOTA ARENA TOKYOでの開催で、バックステージの開放やリボンビジョンを使った演出が新鮮さを加味していた。ホール編からマイナーチェンジしたセットリスト、『ドラゴンクエスト』を想起させるRPG風の映像演出、メンバーそれぞれを動物に模した紋章のフラッグ、アリーナのスケール感を増幅させるライティングなど、徹頭徹尾バニラズ流の遊び心が満載されていたこともアリーナ編の特別感を盛り上げていた。
オリジナルのSEの前にスコットランド民謡を下地にしたWingsの「夢の旅人(Mull of Kintyre)」が流れたのも冒険の旅を思わせたのだが、その印象はスターターが自分自身の矛盾と闘うテーマを持つ「鏡」であることでバチっと軸が見えた感じだ。自由を奪われたケージのような格子状の光をライトセーバー風の剣で叩っ切る牧。すでにオフィシャルYouTubeチャンネルで公開されているホールツアー仙台公演のライブ映像では「SCARY MONSTER」で剣を使った同じ演出が見られたが、歪む光のスケールが破格でライブ冒頭からなかなかのカタルシスだ。続く「生きもの」で2ビートに突入、大渕愛子(Fid)のフィドルが冒険譚に拍車をかける。今回のアリーナツアーはホールツアーに参加した井上惇志(Key/showmore)とTakumadrops(Key)に加え、山田丈造(Tp)、曽我部泰紀(Sax)、大渕の“バニラズ9”で届けられ、こうしたファストなナンバーで怒濤の推進力を発揮する。どでかいシンガロングが響く「おはようカルチャー」、そして牧と柳沢進太郎(Gt/Vo)のツインギターの3連リフが痛快に闇を裂く「来来来」へ。裏拍のクラップもアリーナならではのボリュームで空間に鳴り響く。背景には懐かしのゲームを模したグラフィックが曲のテイストに合わせて投影され続け、画面の“GAME OVER”やゲームのプレイ音のSEがあまりにもハマっていた。
牧は「普段はプロバスケット選手がダンクを決めるところに今日は俺らがダンク決めに来たぜ!」と気勢を上げ、ストーリーテリングっぽい「クロスロオオオード」へ。メンバー全員の紋章を映しながら短いソロ回しも挟み、山田渾身のトランペットソロに大きな拍手が起こる。さらに牧の〈関係ない奴は〉に続くフロアの〈帰れよ!〉の大きさときたら……。完全にステージとアリーナは一体だ。柳沢のボーカルで牧のリードギタリストの腕が冴える「Penetration」、「SHAKE」はもはやすっかりセットリスト常勝ナンバーだが、この日はロンドンの街角もゲーム画像風で印象をアップデートしていた。メンバーを模した4人が乗るのもロンドンタクシーという念の入りようで、そのタクシーは次の「HIGHER」にも登場した(ハイヤーつながりなのか?)。その「HIGHER」は大渕のフィドルをフィーチャーしたイントロが壮大で、その体感がこの曲のスケールの大きさを増幅させた印象だ。
ここでゲームのセーブポイントよろしく、この先に進むか始めからやり直すか? の画面が現れ、やり直す方により大きな拍手が笑いと共に起きる。そんな仕掛けの細部にまでメンバーのアイデアが盛り込まれている。
「めっちゃ楽しいわ」とシンプルな感想を漏らす牧は続けて、「最近どんな日常を過ごしてますか?」と問いかける。彼自身は人と出会うことや美味しいものを食べることなど、リアルで得られる小さな幸せを再確認したのだという。そんなテーマを持った曲だと紹介して、「ヒトカゲ」を演奏するここからの流れは『SCARY MONSTERS EP』からの3曲を続け、マインド的にも音楽的にも一段、自由なアウトプットを獲得した今のバニラズを体現する。温かなホーンリフが空気をたっぷり含み、光も陰もある人間の愛おしさを歌う「ヒトカゲ」が豊かに響いた後は柳沢ボーカルの「正体」がオリジナルよりオルタナティブな音像で鳴らされる。切なさを含むメロディとタイトなジェットセイヤ(Dr)のドラミングの対比も新しい。さらにクールなメランコリーを含むバニラズ解釈のAORと言えそうな「ダンデライオン」も新鮮。「SHAKE」などモダンなR&Bの試行に続く曲ではあるが、淡々としているからこそ生まれる色気がある。TVアニメ『SAKAMOTO DAYS』の主人公の生き方に材をとったことで生まれたいわばラブソングではあるが、既成概念に囚われない今日的な家族観を感じた。
続く「Persona」はTakumadropsの長めのピアノソロでスタートし、より立体的なジャズ/ファンクのライブアレンジで展開。ライブアレンジならではの迫真のアンサンブルに若いファンも高い集中力で食いさがっていくのもこの編成ならではの体験的な価値だ。人間同士のリアルな感情の交歓を「ヒトカゲ」からの流れで構成してきた上で、自分の人生を絶対手放すなと鼓舞するような「平安」の熱量の説得力たるや。ストレートではあるが、火柱の演出がそのまま命の燃焼に見えてくる。メンバーが出す音もグッと熱量を増し、長谷川プリティ敬祐(Ba)のイーブルなベースサウンドが血流に紛れるようなゾクゾクする体感だった。
アリーナが一つの生き物と化した状態に「こんなに感情を共有してくれてありがとう」と プリティ。柳沢はこの場所がよくライブを見に行っていたZepp Tokyoの跡地であることに感慨深い様子だ。セイヤは自分の足元に向かって「ブラジルー!」、天に向かって「宇宙―!」と感情を全力で表現。それぞれ感情のアウトプットが全然違うのも彼ららしい。牧は話し出すと終始柔らかいトーンで「みんなのすべてを包み込んでここからは子どもに戻ってみませんか?」と呼びかける。そこから「お子さまプレート」に始まる終盤の明るいトーンはこの日の旅の行き先を示しているようだ。再び大渕のフィドルが加わり、お馴染みの「マジック」を飛翔させ、「青いの。」では何度も牧がフロアにマイクを預けて大合唱が起きていた。
最後のセクションの前に牧は、アリーナツアーは音だけじゃなく自分たちの脳内を見せるつもりで演出もすべてメンバーで考えていると話し、ここでも「感じたことをライブというリアルな場所で共有したい」「自分の未来に賭けていけるようなものを作っていきたい」と言った。そう。この日印象に残ったのが、この“リアルなつながり”という発言だった。そこに冒頭に書いた切実さを見たのだ。もちろん「アメイジングレース」の曲紹介とも言えるけれど、それだけじゃない包容力をこの日は感じた。特大のジャンプが起きた「エマ」に続いて、ホールとアリーナのツアーを貫くテーマでもあるナンバー「SCARY MONSTER」が4人だけの演奏で届けられる。速くてシンプルな8ビートが爆走する。広いアリーナに生身の4人が音になって放たれたエンディングだった。
ちなみにアンコールも二択。“夢の剣”と“愛の盾”、歓声が大きい方が選ばれるという、演者には緊張の走る方法を採ったのも、生身の瞬発力を実証したかったのかもしれない。この日は“愛の盾”に軍配が上がり、イントロで感嘆混じりの歓声が上がった「パラノーマルワンダーワールド」、「LIFE IS BEAUTIFUL」、「ギフト」が豊かなアンサンブルで演奏された。冒険の旅をユーモアも含む演出で届けた2時間半。ジャンルや演奏の細々したこだわりに意識が向かなかった自分に気づく。バンドの器が更新された証左だ。
『SCARY MONSTERS TOUR 2025-2026』
セットリスト プレイリスト公開中:http://lnk.to/ggv_SCARYMONSTERS_TOUR_ARENA