さらさ、佐久間龍星、Arche、BMSG、柊人……2020年代ジャパニーズR&Bから生まれる新しい“鳴り”
2月10日にDU BOOKSより出版された書籍『ジャパニーズR&Bディスクガイド』。全423作品のディスクレビューや、当事者であるミュージシャンたちのインタビューなどを通じて、およそ35年にわたる日本産R&Bの歩みに迫った一冊だ。今回は、史上初のガイド本となる本書をより深く楽しんでもらうべく、監修を務めた筆者がその内容を紐解きながら、本書が導くジャパニーズR&Bの現在地について読み解いてみたい。
昨今のジャパニーズR&Bを代表する新鋭アーティストたち
現在のジャパニーズR&Bを取り巻く状況としては、90年代や00年代のモード追求が相変わらず根強い。しかし、単なる過去のムーブメントの再現に留まらず、現世代によるナチュラルな咀嚼や多様なフィーリング、サウンドの交差によって、全く新しい“鳴り”を体得している点は特筆すべきだろう。本ガイドに掲載されているつやちゃん氏による2020年代の総論にも〈R&Bはジャンルではなく、表現のための手法や感性の辞書として扱われはじめた〉という一文があるが、まさに言い得て妙。オルタナティブR&Bの浸透も経て、きわめて多様性に富んだフェーズにあると言える。
昨今のジャパニーズR&Bを代表するアーティストとして、まず挙げたいのがさらさだ。UAやCharaをロールモデルとする彼女の作品は、懐かしさを運ぶ歌唱とプリミティブな音世界が持ち味。何色にも染まれる柔らかな佇まいも含め、実に2020年代らしいアーティストと言える。さらさの作品のほか、reinaやMALIYA、VivaOlaらにも楽曲を提供するKota Matsukawaら率いる「w.a.u」も、近年のジャパニーズR&Bの顔と呼んで差し支えのないコレクティブなので、ぜひチェックしておきたい。
一方、男性アーティストでは佐久間龍星の活動ぶりが極めて“2020年代的”だ。沖縄県出身のシンガーソングライターである彼は、R&Bに軸足を置きつつも作品に応じてロックやダンスミュージックなどにも振れる身軽さを有する。林和希や笠原瑠斗らが得意とする情熱的でストレートなアプローチとはある種で対極を成す、ソフィスティケートされた魅力を備えた逸材である。さらに、久保田利伸を擁するFunky Jamに所属し、同氏の楽曲「Left & Right」への客演で注目を浴びた歌姫・HIKKAにも注目。2024年にシングル「Drive」でデビュー後、Matt Cabや森大輔ら辣腕プロデューサーたちと制作を重ねており、中でも2025年発表の「Taboo」はループ系のトラックやコード感、哀愁あふれるメロディに至るまで、徹底した90’sテイストが愛おしい秀曲に仕上がっている。
同じく90年代の香りを纏うアーティストとしては、Archeもぜひ推しておきたい。本ガイド掲載のアルバム『sublimated』や最新曲「do for love」から立ち上るのは、かつてエリカ・バドゥやアリシア・キーズといった華々しい才媛たちが表現したネオソウルの趣。レイドバックの効いた歌唱が野太いビートと自由に絡み合い、他にはないパワフルな実力を轟かせている。なお、ArcheはTikTokをはじめとするSNSを介してじわじわと支持を広げている点でも時代を象徴している。ほかにも、北海道出身のシンガーソングライター・KeNNや、先述のKota Matsukawaらが参加した初のEPを今年発表したばかりのIBUKIなど、YouTubeやTikTokへのカバー動画投稿を契機に耳目を集めるアーティストは数多い。2024年にはDOUBLEの「Strange Things」(2002年発表)がTikTokを経由して世界的なバイラルヒットを記録したが、果たして次はどこから火が着くだろうか。
R&Bのスタンダードな在り方として定着するラップ要素の同居
世界といえば、NewJeansやTWICE、XGといったグループを筆頭に、ダンス&ボーカル界隈においても90年代〜00年代の作法が積極的に取り入れられて久しい。近年に至っては、先述したDOUBLEのバズに加え、本ガイドの中でCrystal Kayが「K-POPアーティストのリファレンス(楽曲制作時の参照)に自身の楽曲が採用されている」ことに言及しているように、ジャパニーズR&Bそのものの影響力も日に日に強まりを見せている。
無論、こうした傾向は日本のマーケットとて例外ではない。PSYCHIC FEVERをはじめ、個性的なグループを送り出している老舗・LDHに、ME:IやIS:SUEが所属するLAPONE GIRLS、そして何より、Y2Kやブラックミュージックにこだわり続けるBMSGのアーティストには目を見張るばかりだ。今年の数カ月だけをとっても、BE:FIRSTのMANATOやソロシンガーのREIKOら精鋭が集った「BUBBLE」なる濃密なスロウジャムを世に送り出したほか、最新アルバムでTaka Perryらと”平成感”を謳歌したAile The Shotaの飛躍、SNSを席巻したKing & Princeのファンキーなナンバー「Theater」を手がけたAyumu Imazuとのパートナーシップ締結など、トピックを挙げ出せばきりがない状況である。
また、ラップ要素の同居も、R&Bのスタンダードな在り方としてすっかり定着している。国内では清水翔太やYo-Seaらの活躍、さらにはエモラップのブームとも共振するように、Billy Laurent、Bohho、BURRY MASHなど今日まで多くの若手アーティストがラップと歌の境界をシームレスに行き来している。中でも、本ガイドにも掲載されている柊人やSWEEが醸し出すメロウな存在感を味わうにつけ、カジュアルに音と遊び、多様なジャンルを吸収する現世代の一つの完成形を見ているかのような気にさえさせられる。
シーンを支える中堅〜ベテラン勢の動きも見逃せない
最後に、シーンを支える中堅〜ベテラン勢の動きについても触れておきたい。EMI MARIAは、およそ11年ぶりとなったフルアルバム『Mother Tree』でまさしくヒップホップ的解釈を駆使したR&Bを体現。数々の固有名詞と共に織りなされる熱くも繊細な楽曲には、家庭を持つ女性の気高きリアルが溌剌と投影されている。90年代から活躍する露崎春女は、「Believe Yourself」など数多くのクラシックを放ったT.Kura&michicoのコンビと久しぶりにタッグを組み、快活なアップチューン「GLAMOROUS」を発表。また、ラブソングの神様として知られる古内東子も、2年ぶりとなるアルバム『Long Story Short』で「誰より好きなのに」をはじめとする名曲群に携わった小松秀行をプロデューサーに迎え、90年代を駆け抜けた“あの頃のソウルミュージック”を味わい深く響かせている。そして、NulbarichのボーカリストであるJQがJeremy Quartus名義で発表した『UP TO THE MINUTE MIXTAPE』。Chaki ZuluやSTUTSらをプロデューサーに迎え、90〜00年代のニュアンスとジャズやヒップホップといった嗜好を気負わずに落とし込んだ、パーソナルな意匠が光る力作となっている。
このように、各々が自らのルーツから学び取るように価値観を更新し、ジャパニーズR&Bは2026年現在も骨太な潮流を形成し続けている。今回ご紹介したアーティストや作品は、そのごく一部。ここから先は『ジャパニーズR&Bディスクガイド』や以下掲載のプレイリストを羅針盤に、現代へと続くユニークな歴史の連なりや大いなる可能性を存分に探訪してみてほしい。
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