sumika、“感情”と向き合って紡いだ新たなる一歩 『ドラえもん』との巡り合いがバンドにもたらした推進力
sumikaがお気に入りのシーン
——試写で観てどんな感想を抱きましたか?
片岡:みんなで観たんですよ。まずは、作品として感動しすぎて泣くというのが第一にあって。
荒井:全員、泣きました。
小川:各々の場所でね。
——みんな違うところだったんですね。水中バギーがしずかを泣かせた相手に向かっていくところじゃなく……。
荒井:僕はそこでしたね。絶対にくるだろうなっていう、イメージ通りの感情がきました。
片岡:俺、(オープニングの)「夢をかなえてドラえもん」あたりからもう泣いた(笑)。
——あははは。序盤も序盤ですよね。
片岡:「なんか、始まったぞ!」って感じて。僕らもそうですし、『ドラえもん』の制作チームも長い時間をかけて、この作品に愛を持って携わってきたから、それが完成したんだなっていうのを感じるのがやっぱりオープニングじゃないですか。作品によってはオープニングがないものもあるけど、今回はテレビシリーズと同じくあって。sumikaもそこの一員に混ぜてもらえた喜びみたいなものがまず、最初にありましたね。そこから随所で泣いて、もちろんクライマックスでも泣いて、僕たちが主題歌だっていうことを一瞬忘れてたんですけど、自分たちの曲が流れてきて、俺たちじゃんかっていうので驚いて泣き、曲を聴き終わって、これ間違ってなかったなって泣き……みたいな、何個もポイントがありました。
小川:僕も片岡さんと一緒で、エンドロールで自分たちの曲が流れるのをちょっと一瞬忘れてるぐらい没入していたんですよね。エンドロールで自分たちの曲が流れて、次のステージにみんなが歩みを進めている姿が描かれてて。それで食らっちゃいましたね。
——“ドラえもん愛好会”の副会長に好きなシーンを聞いてもいいですか?
荒井:(しずかが捕まるシーンで)ひみつ道具の「ムードもりあげ楽団」が出てくるんですけど、その3人の中に小太鼓担当がいるので、まさしく僕だなと思って……でも撃たれてしまって、その瞬間は特別な感情になりました(笑)。密かにムードもりあげ楽団を応援していたので、いろいろと印象深いシーンなんですけど、僕は元から、しずかちゃんが一人で「自分から捕まる」って言い出すシーンも好きで。それこそ、さっき言った正解ではない本当の気持ち、自分がしたいことと向き合っていくっていうのがよく表れている場面のような気がするんです。危ないっていう気持ちはあると思うんですけど、自分自身の気持ちと向き合って、自分がこれがいいと思うから行く。で、その後に「なるべく早く助けに来てね」っていう。
片岡:あれ、いいよね。人間らしい本音が出てた。
荒井:自分が犠牲になるつもりではなくて。怖いけど、みんなを信頼してるから、「行くけど早く助けに来てね」っていうやり取りはいいなと思いました。
片岡:僕はエルがムー連邦のみんなに向かって、「変わらなきゃいけない」って力説するシーンが好きですね。この作品って徹底して二項対立が続いていて。最初は、海と山のどっちに行くか? みたいな話から始まって、陸上と海底、ムーとアトランティス、テクノロジーと人間の感情っていう、相対するものがずっとあって。そことどう向き合っていくかみたいなことが、あのエルのシーンで一つのトリガーになってる。こんなに断絶しちゃったら次に行けないぞ、みたいな。あのシーンで一瞬、自分のリアルな生活に投影する部分があって。そこからまた作品に戻っていけたから、あのシーンはすごく印象的でしたね。
——大人が観ても考えさせられるものがたくさんあるんですね。
片岡:そうですね。やっぱ大人にならないとわからないですよね、これって。僕が小学生の時から「『ドラえもん』は深いんだよ」って大人から聞いてましたけど、社会に出たり、人を傷つけてしまう経験が実際にあったりすると、さすがにこれは染みるな、みたいなことも増えていく。それは、やっぱり作品としてのすごさでもあるなと思いますね。
「ドラえもんは心の中に形あるものを残してくれる存在」(小川)
——小川さんはこの映画にインスパイアされたバラード「Blue」を書き下ろしてます。
小川:この作品も夏休みの出来事で、大きく言っちゃえば夏休みの思い出の一つなんですけど、みんなにとっては、しっかりと次につながるものに変わっている。形ないものが形あるものに変わってるなって感じたんですよね。そのきっかけをくれたのが、ドラえもんで。おそらくみんなにとってのドラえもんというのは、形あるものに変えてくれる存在。助けてくれるのではなくて、自分にヒントを与えてくれて、自分の心の中に形あるものを残してくれる存在だと思って。それを僕個人に置き換えてみたら、周りの人や大切な人が、そうやって自分の心の中に何かを残してきてくれてるなと。実世界でもドラえもんを人に置き換えて、いろいろ考えることができるなって思ったんですよ。なので、成長していくことの尊さや素晴らしさみたいなものを曲に込めようと思って、「Blue」という曲を書きました。
——歌詞は片岡さんですよね。タイトルは?
小川:その時は何もつけなくて、片岡さんがつけてくれました。
片岡:デモの時点ですごく素敵な曲だったので、『新・のび太の海底鬼岩城』からインスパイアを受けたっていうところを最大限汲み取れたらなと思って書きました。一つの物事って片面からでは話せないので、「Honto」とはまた違った形でアプローチしていけたらなというふうに思ったんですけど——これは伝えるニュアンスがちょっと難しくはあるんですけど、“他者=自分ではない誰か”って、自分の記憶を覚えていてくれる装置でもあると思うんですよね。
——ああ、わかります。
片岡:大事な人であればあるほど、そこの解像度が高くなる。バンドで言ったら、僕が忘れててもメンバーが覚えてることもありますし、スタッフチームが忘れてても僕が覚えてることもある。そうやって人の気持ちの年輪みたいなものって広がっていくんじゃないかなって思った時に、そこが人間のいいところというか、人間らしさみたいなものかなって。テクノロジーには頼り切りたくない、曖昧な部分というか。そういった気持ちを忘れないで生きていけたらなっていう気持ちで歌詞を書きました。
——ボーカルも小川さんが務めていますね。
荒井:「Honto」の方は、おそらく『ドラえもん』のお話がなければ、sumikaの中からは出てこなかった楽曲じゃないかなというふうには思っていて。sumikaらしい部分もあるんですけれども、今までのsumikaにはなかったような世界観や雰囲気をすごく感じていて。逆に「Blue」には今までのsumikaらしさがふんだんに詰め込まれている。今までのsumikaらしさがある、sumikaど真ん中の良質なポップスって言える曲を小川くんが歌っているっていうところが、このバンドの幅の広さを表現しているような気もして。だからメンバーとして、この楽曲はすごく誇らしいし、素晴らしい楽曲だなというふうに思います。
小川:僕は自分自身が優しくなれる瞬間を求めながら曲を作っている感覚があって。曲がすごい救ってくれる瞬間が多々あるんですね。この楽曲もまさにそう。泣きながら作ったんですけど、とても優しい曲ができたなって思ったし、作ってる時点から僕を救ってくれていた感覚があった。その曲に自分の歌声を入れるっていうことも運命めいたものというか、改めてまたこの曲は、何段階も救ってくれるんだっていう感覚がありました。なおかつ、歌詞もバシッとはまったものを片岡さんが書いてくれて。本当に噛みしめながら歌を込めていきました。