歌声分析 Vol.9:小田さくら 揺るがぬ声の密度と重心を担う表現力ーーモーニング娘。史に刻まれる“支柱”の進化
「KOKORO&KARADA」「Wake-up Call」……目まぐるしい展開に埋もれない歌声
「KOKORO&KARADA」(2020年)では、“歌う人”から“曲の基準になる人”へと役割が変化している。透明度を保ったまま湿度を帯びた声は、楽曲の艶と直結する。多人数体制の中でユニゾンの精度と役割分担を求められる環境が、声質そのもののコントロールを磨いたのだろう。ユニゾンで音程を整え、転調でマイクリレーの起点となり、ソロパートで楽曲の重心を固定する。〈KIMIGA感じるまま〉で見せるファルセットや、その上の高音でも言葉終わりまで響きを保つスキルは、小田さくらだからこそ成立するアプローチだ。小田は、ファンの間では歌姫や歌声モンスターとも称されるが、まさに“モンスター”だと思わせる瞬間が詰まっている。
「Wake-up Call~目覚めるとき~」(2023年)は、リズムが目まぐるしく変わるアップチューン。情報量の多い編成の中でも、小田はユニゾンで埋もれない。〈可愛く(可愛く)/カッコよく(カッコよく)/あざとく(あざとく)/妖しく(妖しく)〉のマイクリレーでは〈妖しく〉を担当し、声の重心を低く置くだけでグッと世界観を切り替える。終盤の高音域のロングトーンでは、他メンバーがストレートに音圧で表現する中、あえて声量を抑え、響きの質を変えている。その対比が、楽曲の終盤にそれまでとは違った重心を生み出し、小田の歌声の密度という特性を際立たせる。人数の多さを活かした構成の中で、基準線としての役割がより鮮明になっているはずだ。
「恋愛レボリューション21」(2000年)は、モーニング娘。の代表曲だ。2024年に「THE FIRST TAKE」で披露された際、冒頭を歌い出したのは小田含む三名。その中でも小田は音程を正しく鳴らし、歌の土台を提示する。彼女の声によって、曲の輪郭が定まる感覚さえある。その揺るがない密度が、最初に曲を支えてているのだ。
モーニング娘。'26にとって小田さくらとは、楽曲を支える支柱だ。スター中心の構造から複数の個性を並立させるというグループのあり方へ移行する中で、彼女は常に基準値として機能してきた。密度という武器は、華やかさとは異なる説得力を生む。2026年をもってグループおよびハロー!プロジェクトからの卒業を発表した小田。その揺らがない声が、個としてどのような音像を描くのか。これまでグループの重心を担ってきた基準線が、次にどこで活躍するのかを見てみたい。
※1:https://ameblo.jp/morningmusume-10ki/entry-12597064777.html