稲垣吾郎が杉咲花に向ける尊敬の眼差し “はじめまして”の対話から浮かび上がった共通点

 稲垣吾郎がパーソナリティを務めるラジオ『THE TRAD』(TOKYO FM)の10月21日生放送に、女優の杉咲花がゲストとして登場。「はじめまして」で始まったふたりのトークは、初対面とは思えないほど自然に、そして深く俳優論へと広がった。言葉を重ねるほどに共通点が浮かび上がり、稲垣が「こういう話をすると止まらなくなっちゃうんで」と苦笑いするほどの盛り上がりを見せた。

 ともに10代から表現の世界に身を置き、長く第一線で活躍してきたふたり。杉咲がもともと「1クールやっているドラマを全部観ていた」というほどのドラマ好きであることを明かし、「たぶん自分以外の誰かになりきる行為に憧れがあったのかな」と語ると、稲垣は「わかるなあ。僕も10代の時、そういう(のがあった)。なりきれるっていいよね。自分じゃなくていいっていう」とすぐに共感。“なりきる”というシンプルな言葉の奥に、俳優としての根源的な喜びが宿っていることを、ふたりはよく知っている。

稲垣吾郎が惚れ込んだ、杉咲花の芝居の“鮮度”

 そんなふたりが俳優として最も大切にしているのが、芝居の“鮮度”だ。映像作品ではリハーサルを何度も重ね、舞台では毎日繰り返し同じシーンを演じる。それでも観客にとっては、今この瞬間が初めてであることから、その感情の動きをいかに“新鮮”に届けるかが求められる。俳優にとって最も難しく、同時にやりがいのある課題だ。

 稲垣は杉咲の芝居について、「リハーサルが想像できないくらい鮮度がすごい」と褒めちぎりながら、「リハーサルしてないんじゃない?」なんて冗談交じりにツッコミを入れて笑いを誘う。実は、雑誌『anan』(マガジンハウス)で連載している「シネマナビ!」でも杉咲の出演作『湯を沸かすほどの熱い愛』(2016年)などを取り上げており、「杉咲さんの映画を観ると、すぐに芝居のことを書いちゃう」と振り返る。彼にとって杉咲は、俳優として常に気になる存在だったことを窺わせる。

 杉咲は恐縮しながらも自身を「不器用なタイプ」と語り、脚本のト書きや心理描写を自然に表現することが苦手で、長くコンプレックスを抱えていたという。そこから「ちゃんとやりたい」という思いが強まる一方で、「そういう感覚があるから突き抜けられないのかな?」と自問自答してきたのだとも。

 そんな彼女がひとつの壁を越えたのが、一昨年公開された映画『市子』だった。「いい演技したいみたいな“欲”をなるべくとっぱらうっていうことが、大事なんじゃないかと思った」と、自身の俳優人生においてターニングポイントになったという。すると、稲垣は「そっかー、“欲”ね。なるほど。深いね。でも、“欲”もないとね。下準備は必要だし。その場では、ってことですか。教えてください、僕にも」と感心しきり。年齢もキャリアも違うふたりが、同じ“表現の真ん中”を見つめている、そんな瞬間だった。

稲垣の“鮮度”を保ち続ける柔らかな心

 話題は杉咲が主演を務める映画『ミーツ・ザ・ワールド』へ。稲垣はすでに鑑賞済みで、推し活に励む主人公を演じた杉咲の姿を絶賛した。推しについて熱量高く語るセリフの多さに、「セリフ大変だよね」と俳優としての苦労に心を寄せつつ、杉咲が撮影前に“推し活を楽しむ女性”に会って取材していたと聞くと、自身も推される側であり、ファンと触れ合ってきたスターとして納得する部分もあったのか「愛おしかった」と頷く。

 さらにクライマックスの長回しシーンについては、「現場を見てみたい! どうやって組み立てたのか」と興奮気味に語り、「秘密もありますし。言っちゃいけないよね、これ!」と声を弾ませる。誰よりも楽しんでいる自分に気づいたのか、照れ隠しのように「何を言ってんだか」と笑ってしまうシーンも。作品を心から楽しみ、俳優としてその構造を知りたがる。その姿には、純粋な“映画好き”としての稲垣を見た気がした。

 どうしたら“鮮度”を保てるのか。杉咲から真剣に学ぼうとするその謙虚さ、そして後輩の演技に心から感動し、映画をひとりの観客として楽しむ軽やかさ。どちらも稲垣吾郎という俳優の芯にある要素だ。常に作品のオファーが途切れないのは、その渋さと柔らかさを兼ね備えた役者魂の輝きが増しているからだろう。

 来年2月から上演されることが決定した、舞台『プレゼント・ラフター』では、稲垣は人気俳優ギャリーを演じる。彼のアパートに妻や秘書、ファン、作家など個性豊かな人々が次々訪れ、彼を窮地に追い込む……そんな大人のラブコメディだ。

 ゲストを迎え、ウィットに富んだトークを繰り広げる『THE TRAD』での姿と重なるような役どころ。稲垣にぴったりの舞台といえそうだ。今回の杉咲との対話であらためて浮かび上がったのは、“演技の鮮度”を追い続ける稲垣の俳優としての姿勢。次の舞台で彼がどんな“初めての言葉”を観客に届けるのか。その瞬間を、心待ちにしたい。

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