平野紫耀が拡張する振れ幅、神宮寺勇太が作る接続点、岸優太が大事にするHIPHOP観――Number_i『No.Ⅱ』歌詞解説
Number_iの最新アルバム『No.Ⅱ』。今作は、サウンドの先鋭性やメンバー3人の巧みな歌唱/ラップスキル、各年代のHIPHOPとの共振性をはじめ、多様な観点から語ることができる作品である。
これまでもそうだったように、Number_iの作品には、メンバー3人自身の意志や意匠がふんだんに盛り込まれている。それらは各メンバーがプロデュースを手掛けた楽曲で特に顕著になる。本稿において『No.Ⅱ』を語るうえでも、3人のメンバーがそれぞれプロデュースした楽曲は外せない。
5月にリリースしたEP『GOD_i』の表題曲にして、今作において大きな存在感を放っている「GOD_i」は、岸優太によるプロデュース。〈20代も終盤〉というリリックが象徴的なように、岸プロデュース曲に共通するのは、己の生き様を語るリリックがもたらすパンチであり、それは言うまでもなくHIPHOPスタイルの踏襲である。同じく岸がプロデュースした「2OMBIE」では、〈2OMBIEのように/蘇る3人の BOY〉というラインがあり、この〈3人〉は、Number_iの3人自身を指している。HIPHOPの世界では、“何を歌うか”と同じ――もしくはそれ以上に、"誰が歌うか"をシビアに問われるが、岸がプロデュースした楽曲はどれも、3人が歌うからこその意義が深々と滲んでいる。
その極みのような楽曲が、岸が自身でプロデュースしたソロ曲「KC Vibes」だろう。この曲で岸=“KC”は、昂るバイブスを容赦なく放ちながら、赤裸々に己の思考のすべてを曝け出す。〈I'm a Kc/You Are Kc/We Are Kc〉というふうに“KC”の枠組みを広げていき、やがて同曲は〈お前がKcなら俺は誰なの/わかりづらいかもしんないけど/俺がKcだよ/考えりゃわかんだろ/でも頭使わないやつばっか蔓延る世の中/俺もその1人かも/でも大丈夫かも大丈夫じゃないかも〉という逡巡へと向かっていく。己の実存を巡る思考や葛藤がありありと綴られていて、そのリアルさと切実さが胸を打つ。
平野紫耀は、「幸せいっぱい腹一杯」でプロデュースを手掛けた。そのタイトルからして明らかなように、この曲は平野の遊び心が存分に詰まった楽曲である。〈幸せ〉のリフレインは、インパクト絶大の楽曲を多く内包する今作において、特に深く脳裏に刻まれる屈指のパンチラインだ。
平野が自身でプロデュースを手掛けたソロ曲「ピンクストロベリーチョコレートフライデー」も、「幸せいっぱい腹一杯」と同じように遊び心が炸裂したタイトルの曲ではあるが、実際に曲を聴き、歌詞に目を通すと、大人びた内容とのギャップに驚かされる。同曲の要になっているのが、オートチューンの効いた声で歌われる〈会いたいから夢まで/まだ泣いてんの?俺だけ/待ってよと呟いて/ただ会いたいと願って〉というサビのリリック。彼のセクシーな歌声と相まって、タイトルからはまったく想像できなかった切なさが胸を締め付ける。豊かな遊び心でリスナーを楽しませたり、驚かせたりしながら、Number_iの楽曲の振れ幅を広げることこそが、平野プロデュース曲の特色であり役割と言えるかもしれない。
神宮寺勇太がプロデュースした「ATAMI」も、そのタイトルからしてインパクト絶大である。同曲を貫くキーワードになっているのが、〈キタノブルー〉。キタノブルーとは、北野武監督の作品のシグネイチャーのひとつになっている淡いブルーのことで、世界的にも広く用いられている映画用語のひとつ。タイトルも然りだが、地名や固有名詞を随所に散りばめた同曲の歌詞は、それゆえに一度聴いたら記憶に深く刻まれる。
神宮寺が自身でプロデュースを手掛けたソロ曲「LOOP」では、〈水星〉というワードがフックとして歌われる。〈水星〉とは、神宮寺とともに同曲の作詞作曲を手掛けたtofubeatsの代表曲の名だ。「水星」にも近しい曲調に乗せて歌われる、これもまたセルフオマージュのような〈キラキラミラーボールに乗って水星に〉というラインは、こうした文脈を知っている人であれば特にグッとくるはず。先述した〈キタノブルー〉も含め、今作における神宮寺がプロデュースする楽曲は、Number_iの表現と日本のカルチャーの歴史を接続点の役割を果たしているように感じる。
今回は、各メンバーがプロデュースした楽曲をピックアップしながら3人それぞれの特色を振り返ったが、今作には、Number_i名義でプロデュースしている楽曲も多く収録されている。
たとえば、そのひとつである「未確認領域」の〈でも大丈夫置いてかないよ〉〈離れた手をずっと追うよ〉という歌詞は、絶え間なく変化と進化を重ね続ける3人を応援するファンへのメッセージのようにも読める。もちろんこれはあくまでも解釈の一例に過ぎないが、今作の収録曲には、一度聴いたら忘れられないインパクトをもたらす歌詞やその奥にある意味や想いを考えさせられる引力を宿す歌詞がとても多い。何度も聴き、何度も読み込むことで、本当の意味がわかり、そして新しい気づきが生まれるのかもしれない。