陰陽座、“一度きり”の『吟澪御前』ツアー 「この場で覚悟してください」――全身全霊の今を観て

 『陰陽座ツアー2025「吟澪」』の東京公演が9月22日にZepp Haneda(TOKYO)にて行われた。これは今年8月に出た16thアルバム『吟澪御前』に伴うもので、会場には多くの観客が詰めかけていた。開演18時にSE「澪」が流れると、黒猫(Vo)、瞬火(Ba/Vo)、招鬼(Gt/Cho)、狩姦(Gt/Cho)のメンバー4人がステージに登場。序盤から新作の冒頭を飾る「吟澪に死す」でショウはスタート。その流れで新作の楽曲を矢継ぎ早に畳み掛けていく。というか、今回のライブは完全に新曲が主役であり、その合間に過去曲が織り込まれる。新作に伴うツアーゆえに、それが当たり前だろうと思う人もいるかもしれない。

 昨年バンドは結成25周年を迎えた。キャリアを重ねると、新作から数曲プレイする程度に止まるバンドも少なくない。海外のメタルバンドだと1曲、いや0曲というケースもありえる。陰陽座は新作を出せば、その新曲たちにスポットを当てる。それは「守りに入らず、常に攻めの姿勢で挑みたい」、もっと言えば、「現在進行形の自分たちがもっとも輝いており、今この瞬間を見届けて欲しい」という強い思いがあるに違いない。しかしながら、それを証明した上でファンを熱狂させることは並大抵のことではない。“妖怪ヘヴィメタル”を標榜する陰陽座は自らに高いハードルを課し、ヘヴィメタルファン以外をも魅了するパフォーマンスを見せつけた。

 ライブに話を戻すと、「深紅の天穹」に入り、フロアにはヘドバンに励む観客の姿が増えていった。黒猫、瞬火によるツインボーカルの掛け合いが楽曲の魅力を一段と引き立てる。続くグルーヴメタル調の「鬼神に横道なきものを」は、PanteraやLamb of God辺りが好きなメタルヘッズにもおすすめしたいナンバーだ。ここでも男女ツインボーカルのギャップや激しい声色に惹きつけられた。また、赤と青のライトが明滅し、3Dのように視覚をくすぐる演出も良かった。それから和のテイストを配した「毛倡妓」をやり終えたあと、ここでMCを挟む。

 「新譜を引っ提げてといっても限度があるだろうと普通は考えるものですが、陰陽座にはその限度はないのでございまして。そんな覚悟はしていないと、新譜からせいぜい4曲ぐらいと思っていた方は、この場で覚悟してくださいね。とにかくこのアルバムを引っ提げたツアーは、歴史のなかでワンツアーしかないわけですから、最後まで楽しんでいただきたいと思います。それと黒猫さんの髪の毛が魅惑的な色になっていて、僕はとっても羨ましいです!」と瞬火が言うと、「そうなんです! 黒猫と言えば黒髪がトレードマークなんですけど、病気の症状が髪の毛に出てしまい、こういう形(髪色はシルバー)に変化(へんげ)しました。それ以外は元気です!」と黒猫が返答。

 再びバンドはフルスロットルで飛ばす。「誰がために釜は鳴る」はヘヴィなリフに清らかな歌メロを乗せ、聴いているだけでエネルギーを注入されるよう。ここでやっと新作以外から「大いなる闊歩」がプレイされたが、違和感なくセットリストに溶け込んでいた。中盤も新作の楽曲を中心に届けていく。スラッシーなリフで攻撃力を高めた「星熊童子」もフロアの熱量を押し上げ、瞬火の噛みつくようなロウボイスは迫力満点であった。

 歌謡メロディを押し出した「紫苑忍法帖」を経て、鍵盤をフィーチャーした「故に其の疾きこと風の如く」では男女ボーカルのハーモニーも大きな聴きどころになっていた。さらに狩姦のライトハンド、招鬼のブルージーなギターソロも曲に華を添える。「地獄」に入ると、招鬼と狩姦は12弦ギターに持ち替え、アコースティックなアプローチで聴かせる。黒猫の歌声にグッとフォーカスを当て、メロディの美しさを存分にアピール。

 ライブは後半に差し掛かり、「組曲、鈴鹿!」と黒猫が叫ぶと、新作から「鈴鹿御前 -鬼式」、「大嶽丸」、「鈴鹿御前 -神式」を曲順通りに披露する。この3曲はストーリーとして地続きなので、バンド側は組曲として位置づけているのだろう。とりわけ「大嶽丸」における瞬火の男臭さと黒猫の女性らしさが融合したツインボーカル、さらにドラマティックに展開するサウンドは圧巻の一言。ひとつのハイライトと言える流れだった。ラストは「組曲「義経」~悪忌判官」、「邪魅の抱擁」を挟み、新作の最終曲「三千世界の鴉を殺し」で締め括る。瞬火の地元・愛媛の方言を用いた歌詞も含めて、キャッチーに振り切った楽曲で観客を大いに焚き付けた。

 そしてアンコールは5曲プレイされ、「無礼講」では観客が扇子を掲げてノリまくる。これだけで終わらず、Wアンコールにも応えて「悪路王」をプレイ。気づけば、全22曲2時間に及ぶショウを駆け抜けた彼ら。新作から漏れなく全12曲プレイしたものの、各曲の色合いやベクトルが異なるため、ダイナミックなショウ構成となっていた。“妖怪”をモチーフにした稀有なコンセプトを敷いた楽曲ばかりだが、誰の耳にもストレートに響く歌声やメロディの良さは陰陽座の大きな武器と言っていい。メタルに軸足を置きながらも、ポピュラリティの高い楽曲群に意識は釘付けになってしまった。その意味でも『吟澪御前』というアルバムは、新規リスナーを開拓するに相応しい最良の入門作だと思う。今回のツアーを観て、その思いをより一層強くしたのであった。

陰陽座、アルバム『龍凰童子』の世界を完成させた全国ツアー『鬼神に横道なきものを』 バンドの再始動を鳴らす一夜に

陰陽座が、約4年半ぶりのアルバム『龍凰童子』を携えた全国ツアー『鬼神に横道なきものを』を開催。同作は、2020年より突発性難聴お…

浜田麻里からLOVEBITESまでーーガールズHR/HM、波乱万丈の30年史

日本のハードロック/ヘヴィメタル(以下、HR/HM)シーンにおいて、女性ボーカルを擁するHR/HMバンドの歴史は80年代半ばを起…

関連記事