稲垣吾郎&草彅剛&香取慎吾が伝える平和への願い 自分の言葉で語れない“戦争の記録”をつなぐ架け橋に
同時に、「糸数アブチラガマ。80年前、このガマに住民が避難。陸軍病院が置かれ、終戦時には住民と負傷兵、60人ほどが身を隠していました」――そんな稲垣の説明を聞きながら、テレビ東京開局60周年特別企画ドラマスペシャル『晴れたらいいね』(テレビ東京系)で演じていた軍医・佐治誠の姿を思い出した。
このドラマは、看護師・紗穂(永野芽郁)が令和6年の東京から昭和20年のフィリピンへタイムスリップする物語だ。現代の感覚を持って当時を生きるとはどういうことか。まさしく、現代を生きる私たちがあの戦争を追体験できる作品である。
稲垣演じる誠は、過酷な野戦病院で静かに任務を遂行する穏やかな医者。病院で働く女性たちに加えて、そのドラマを観る者にとっても、ほっと安心できる存在感だった。稲垣のその佇まいに、痛みが必ず伴う戦争テーマの作品との“橋渡し”の役割を果たしてくれているように感じた。
2010年には、草彅剛がアメリカに渡った日系移民の視点から戦争を描いたドラマ『99年の愛 〜JAPANESE AMERICANS〜』(TBS系)に挑んだこともあった。歴史に名を残さずとも、確かにそこにあった人々の営み。「僕には僕の思いがある」。そんな名もなき人たちの人生にも光を当てられるのは、彼らの持つ力だ。
そして先日8月16日には、2022年に放送された香取慎吾主演の太平洋戦争80年・特集ドラマ『倫敦ノ山本五十六』(NHK BS)が再放送された。昭和9年のロンドンで行われた軍縮会議予備交渉が舞台と聞けば、視聴にハードルを感じるかもしれない。だが、その中心に香取がいるだけで一気に惹きつけられる。
教科書でしか知らなかった人物が、生身の人間としての感情を伴って迫ってくる。太平洋戦争の口火を切った真珠湾攻撃を指揮した山本五十六は、誰よりもアメリカとの戦いに勝ち目はないと危惧していた。軍人だからこそ回避できるのではないかと模索しながらも、軍人だからこそ命令には背けない。その葛藤は、山本を演じた香取の噛みしめる奥歯の動きから生々しく伝わってきた。
終盤、山本が息子に語りかけた「何事も自分の頭で考え、大局的に物事を見られる人間になりなさい」という言葉は、未来を生きる私たちへのメッセージにも思えた。一人ひとりの言葉がより大きなうねりを作り出すことができるようになった時代だからこそ、ますます考えさせられる“自分の言葉”で語る大切さ。
稲垣、草彅、香取らの親しみやすさがあればこそ広がる、戦争のことを考える入口。そして、3人の活躍とともに営まれる私たちの小さな暮らしが、これからも穏やかに続いていくことを祈るばかりだ。