にしな、自分を知り、自由を知る 新しい季節の訪れと“いのち”のバラード「つくし」を語る
にしなが2025年最初のデジタルシングル「つくし」を発表した。この曲は獣医学生を主人公としたドラマ『リラの花咲くけものみち』(NHK総合)の主題歌。楽曲を制作するにあたってにしなは物語の舞台である北海道を実際に訪れたそうで、雄大な自然や“いのち”の美しさを、ストリングスを用いたバラードで表現している。前作「わをん」での“あい”(愛)に続く大きなテーマとの向き合い方、自分ひとりでのボーカルレコーディングなど、デビューから5年目を迎え、「自分とは?」を探求するにしなの現在地に迫った。(金子厚武)
もっと人生を楽しもうと思うようになったのかも
――2025年最初のインタビューということで、今年の抱負があれば教えてください。
にしな:今年デビューして5年目なんですけど、「自分とは?」みたいなことを考えることが増えてきて。年下の子たちも出てきたりして、焦りを感じてるとかではないんですけど、あらためて自分について考えることが自然に増えてるなと思うんですよね。なので、今年はちゃんと自分らしく、でも足取りは重くならずに、チャレンジしていける一年にしたいなと思います。ポジティブにどんどん変化していけたらな、って。
――2024年はツアーが2本あって、「自分もお客さんも、いかに解放できるか」というチャレンジがあったように思います。その成果をどう感じていますか?
にしな:すごく得るものがあったと感じてます。私はどちらかというとシャイだし、自分をさらけ出すことも得意なほうではないんですけど、自分を好きでライブに来てくれる人たちと一緒に楽しみたいし、どんどんパワーアップできたらいいなと思っていて。2本のツアー、『Feeling』と『SUPER COMPLEX』はコンセプトこそ分けたんですけど、でも目指すべきところは一緒で、いろんな角度から自分なりにチャレンジして。やっぱり自分にとってのライブは、ただ楽しいとか開けられればいいというわけじゃないんだなということをすごく感じました。それぞれが抱えているものも含めて、無理なく楽しみ合える。それが求めている空間で。自分もそうだし、みんなも自然と楽しめるように導いていくことが自分にとってのライブの目指すべきところなんだなって、あらためて感じました。
――ツアーやリリースのような表立った活動以外で、特に印象的だった2024年の出来事はありますか?
にしな:2024年はいろんな場所に行って、自然に触れたり、人に触れたり。もともと引きこもり体質だったんですけど、より外側に興味を持った気がします。言語が通じない人とももっと繋がってみたいと思ったり、知らない景色を見てみたいと思ったり。
――最初に言ってくれたように、デビュー5年目を迎えて、「自分とは?」を掘り下げる意味でも、逆に外側と触れてみることに気持ちが向いた?
にしな:「自分をもう一回見つめるため」みたいな具体的な目的はなかったんですけど……でも、逆に言うとそういう変化があったから、自分のことをすごく考えるようになったのかな。あと、音楽と離れる時間をちゃんと作ると、音楽をする時に脳が切り替わりやすいのかなというのも感じました。
――多少余裕が出てきたということなのかもしれないですね。デビューして数年はまだ余裕がなくて、周りを見ることができなかったけど、ほかのことにも目を向けられるようになってきたということかもしれない。
にしな:そうですね。曲作りを含めて、もっと人生を楽しもうと思うようになったのかもしれないです。
ドラマ『リラの花咲くけものみち』原作の舞台である北海道へ
――新曲の「つくし」を作るにあたっても、ドラマの原作の舞台である北海道に実際に行ったそうですね。
にしな:物語に出てくる学校に実際に行って、ちょっと見学をさせてもらったんですけど、行った時がちょうど牛舎がメンテナンス中で、学生さんもいないタイミングで(笑)。でも、北海道の空気と自然の偉大さ、土地の広大さに触れて、そこからインスピレーションをいただく部分もあって作りました。
――ドラマの主題歌を作るにあたって原作を読むのは当然として、実際に現地まで行くのはわりと珍しいですよね。
にしな:たしかに。ちょうどタイミングよく行けたのもあるんですけど、小説に出てくる、まっすぐ伸びる一本道がどれくらい長くて、どんな景色なのかが見れたのは、自分にとって大きかったですね。正直に言えば、それ以外何も見れなかったと言えば見れなかったんですけど(笑)。でも、見れなかったからこそ「ここであのシーンが!」って想像する力を得たのかもしれない。
――もともと原作自体にどんな印象を感じて、どうやって曲を作っていったのでしょうか?
にしな:すごく印象的な場面として、獣医学の学生さんは最初は単純に「動物が好きだから」みたいな感じで入る方も多いらしいのですが、どんどん命というものとリアルに向き合わなきゃいけなくなるんですよね。母牛が子牛を出産する時、その途中で母牛が弱っていたとしたら、どっちを助けるかを選択しなくちゃいけなくなる。それは、「どちらかを生かして、どちらかを殺す」ということにもなるかもしれない。決断するのはすごく難しいことだし、選んだあとも「あれでよかったのか」って、迷い続けるかもしれない。でも、進み続ける時間のなかで、そうやって命と向き合い続けることはすごく重要なことだなと思ったんです。自分自身の人生とも重ねながら、いろいろなことが起こるけど、一緒に進み続けようと思える曲にできたらなと思いました。
――それが「つくし」の“いのち”というテーマに繋がったと。
にしな:物語の主人公はもともと引きこもりがちな子で、なかなか最初の一歩が踏み出せなかったけど、おばあちゃんが背中を押してくれて、それで一歩を踏み出せたんですよね。でも、そういう自分の背中を押してくれる存在も、いつかいなくなってしまうかもしれない。そう思った時に、言葉を話さない面影の優しさに触れながら成長していかなきゃいけない時もくるなと思い、そんなことも意識して作りました。