Aooo、エイハブ、Van de Shop……ボカロPの活動領域の変遷とバンドカルチャー再興の兆し
直近ではまだまだエレクトロミュージックや、SNS発のインターネットミュージックが主流の邦楽シーン。しかしその中で、昨年から続くアニメ『ぼっち・ざ・ろっく!』(TOKYO MXほか)の人気や、「少年ジャンプ+」にて連載中のマンガ『ふつうの軽音部』が各所で話題を席巻するなど、他カルチャーの動向からも窺えるように、バンドシーンも今確かな再興の兆しを見せている。年の瀬が迫り今年の音楽シーンを振り返る中で、そう感じる耳の早いリスナーもおそらくいるのではないだろうか。
米津玄師やAyase、キタニタツヤなど近年邦楽シーンにて大勢の人気ミュージシャンを輩出してきた音楽ジャンル・VOCALOIDでも、実は直近で上記の潮流がわずかに垣間見え始めている。その筆頭が、今や言わずと知れたヒットメーカーのすりぃ、ツミキ両名を抱えたバンド・Aoooの本格始動。そして11月にトイズファクトリーよりメジャーデビューを果たした、ボカロP兼4ピースバンド・エイハブの存在だ。
ジャンルの拡大とともに、ボカロP出身クリエイターの活躍の場も多岐にわたる中、今新たに台頭してきたボカロPメンバーによるバンドたち。そこで、彼らに先駆けてボカロPとしての活動領域を切り拓き、重要な土壌を築いてきたクリエイターたちの活躍を辿りながら、現在の最新動向を紹介していきたい。
カルチャーの発端を辿れば、元は“プロデューサー”として原則黒子に徹していたボカロP。だが近年もコンポーザーや楽曲提供者といった、業界を支える裏方として目覚ましく活躍する人材も大勢台頭している。今や邦楽界を牽引する存在のAyase、n-bunaに加え、長年ボカロカルチャーの最前線で活動するDECO*27やピノキオピー、同系譜に特大の新星として加わった原口沙輔。彼らの作り出す楽曲が、Adoら歌い手出身のシンガーやVTuberなど、インターネットカルチャー発の表現者の躍進を支えた部分も少なからずあるはずだ。
一方で遡る事2010年代前半、当時シーンを牽引する二大巨塔だったハチとwowakaの両名が活動をリアルの場へ移し、後世におけるボカロPの活躍の幅を大きく広げたことは周知のとおり。特に2018年「Lemon」の大ヒットで米津玄師が国民的人気を獲得して以降、世間の注目は彼と同じ“ボカロP出身ソロアーティスト”に多く集まるようになる。Eveやまふまふ、キタニタツヤ、syudou、johnなど、日々邦楽シーンの情勢にアンテナを張る人には今やお馴染みの面々が、その系譜には名を連ねている。
重ねてwowaka率いるヒトリエのように、メンバーにボカロPを擁するバンドも2010年半ばから徐々に増え始める。kemuこと堀江晶太らを中心に結成されたPENGUIN RESEARCH、石風呂Pこと朝日所属のネクライトーキー、ナノウことコヤマヒデカズ率いるCIVILIAN(旧:Lyu:Lyu)、ラムネ(村人P)こと知によるサイダーガールなど。2020年代半ばの今起こりつつある邦楽バンドシーンへのボカロP進出は、いわばこの延長線上にあるとも言えるのだろう。
その潮流を牽引する筆頭株が、今やボカロ界きってのビッグネームであるすりぃ、ツミキを擁するAoooだ。バンドはそれぞれギター、ドラムを務める両名と、フロントマンとなる元・赤い公園の石野理子、そしてYOASOBIのライブサポートベーシスト・やまもとひかるの4名で結成。確かな実力を誇る若手ミュージシャンが各方面から集結した期待のニューカマーとして、今年1stアルバム『Aooo』でメジャーデビューを果たした。年末年始にかけては初のワンマンツアーも開催しており、大勢のシーンリスナーがその活動に熱い関心を寄せている。