デュア・リパ、溢れる“美と知性”で放つ極上のダンスミュージック 圧倒的なスター性で魅了した来日公演

 そして、バイオリンのソロ演奏から始まった「Love Again」からライブ後半戦がスタート。ここでは「Pretty Please」「Future Nostalgia」のクラブスタイルリミックスや「Hallucinate」、初期の代表曲「New Rules」リミックスが披露された。その後、マーク・ロンソンとDiploによるスーパーグループ「Silk City」とコラボしたアンセミックなヒット曲「Electricity」でまたもや会場は大盛り上がり。幸福感のあるピアノハウスが生み出す熱狂が会場を満たす中、デュア・リパは観客にスマホのライトをつけるように呼びかけ、エルトン・ジョンとの「Cold Heart」をエモーショナルに歌い上げた。

 また、「Anything for Love」では、ピアノとデュア・リパのみのアコースティックなアレンジを披露。この曲を歌い上げた後、デュア・リパは観客に向けて「ありがとうございます」と日本語で感謝の言葉を口にした。このサプライズによって会場が感動的なムードに包まれる中、デュア・リパは「Happy For You」を披露し、ライブ本編を終了。

 そして、鳴り止まない拍手を受けて「Physical」からアンコールを開始したデュア・リパは、有名な“ハイ、バービー”のくだりを取り入れつつ、女性のための曲だと観客に語りかけ「Dance The Night」を披露。さらに「Don't Start Now」、「Houdini」を立て続けに披露し、大盛況のうちに約90分のライブを終えた。

 今回のライブでは、初期の代表曲やコロナ禍以前のハウス・ディーバ期の曲から、大ブレイクを果たした『Future Nostalgia』期、そしてポップスターとしての地位を確立した後、満を持して発表された『Radical Optimism』期までの楽曲を網羅したデュア・リパのキャリア・ハイライト的なライブ構成になっていた。そのため、この6年の間、彼女の来日を待ち侘びていたファンにとっては、文字どおり非常に満足度の高いライブだったに違いない。

 また、ライブのオープニングでSE的に流れていた曲は、実はフランスの有名ハウスミュージックプロデューサー、ボブ・サンクラーによる「Gym Tonic」だったのだが、同曲は俳優であり、アクティビストとしても知られるジェーン・フォンダの有名なエアロビ・ワークアウト音声をサンプリングした曲だ。これまでに今回のライブでも披露された「Physical」のワークアウトビデオなど、ワークアウトシーンでも人気が高いデュア・リパ楽曲を「Training Season」のイントロとして使用する演出センスは、デュア・リパがダンスミュージックの文脈でも高く評価されていることを考えると非常に味のある演出だったと言える。

 ちなみにこのオープニングSEと1曲目の間にはもうひとつ、細かな仕掛けがあった。それはイギリスの90年代レイヴシーンを象徴する曲であるイギリスのバンド、Primal Scream「Loaded」のオープニングでサンプリングされていた声ネタが使われていたことだ(先述したジェーン・フォンダの弟であるピーター・フォンダの台詞をサンプリングしたもの。ユーモアに一家言あるイギリス人らしい演出だ)。「Training Season」を収録した『Radical Optimism』では、90年代のブリット・ポップやサイケデリック、UKレイヴの要素が取り入れられている。そうしたダンスポップ・アーティストである自身のルーツとも言える要素をイースターエッグ的に取り入れた演出も含めて、今回のデュア・リパの来日公演からは現行ダンスポップを背負って立つという気概を感じた。こうした文脈を大切にするスタンスを継続する限り、デュア・リパはメインストリームのポップスファンだけでなく、筆者のようなダンスミュージックファンまでを魅了し続けるだろう。興奮冷めやらぬ状態で会場を出た後にそう強く思った。

デュア・リパ『Studio 2054』で魅せた、ポップミュージックの理想郷 ノスタルジアと未来両立させた新感覚ストリーミングライブ

2020年のアーティストの「通過儀礼」としてのオンラインパフォーマンス  2020年、多くの音楽好きにとって何よりも辛いのが、…

デュア・リパはまさに現代のポップアイコンだ グラミーにもノミネートされた2018年の飛躍と期待

2018年の音楽シーンを振り返ると、女性シンガーの活躍が目立った1年だった。シングル「Boo’d Up」が今年最大のヒットとなっ…

関連記事