不眠症「ボカロPって夢のある活動だな」　憧れだった島爺とのコラボ、同級生 くじらとの交流を明かす

フィーチャリングの醍醐味は解釈の交錯による曲の階層の深まり

ーー楽曲制作は普段どんな形式でされているんでしょう。

不眠症：基本的にはパソコンの打ち込みで作ってます。コードとかを考える時は、ギターで弾いた方が手癖も相まって逆に味が出るんですけど。曲の発想も、他の方の曲を聴いて「自分ならココをこうしたいな」「もっとこういうサビやイントロがいい！」っていう、理想のアイデアをまとめて作る感じです。“ぼくのかんがえたさいきょうの曲”を作る楽しさが制作の元ですね。

　あとは、日常生活の中で曲の構想やコンセプトが浮かぶこともよくあります。UKっぽい音で後ろがこれだったらカッコいいかな、とか、めっちゃバキバキした音でギターだけやたらオーガニックだったら面白いかも、とか。

ーーバンドの頃からその作り方を？

不眠症：いや、ボカロを始めてからですね。バンドでオリジナルを作る際はメンバーとセッションして出てきたものを発展させていくような、出たとこ勝負みたいな感覚で作ってました。きちんと構想を練るようになったのは最近です。

ーー作曲の際、特に注力するのはどういった所でしょう。

不眠症：サビとイントロですね。基本的にその2カ所で曲を聴く／聴かないって決まるじゃないですか。自分もそのタイプなんですよ、やっぱりイントロで掴まれる曲に弱くて。なのでまず一発勝負できるイントロを作って、その流れで曲を聴く中でもう一段階ビックリするサビを持ってくる、という。聴く人を驚かせたい、という思いはかなり強いですね、曲を作る時に。

　あとはやっぱりキャッチーさ、とか。それこそ昔くじらとも曲の聴かせ合いをする中で、「イントロは口ずさめるぐらいがいいよね」みたいな話をして、強烈に「確かに！」って思った記憶がありますね。

ーー歌詞については、大事にしている個性などはありますか。

不眠症：歌詞は歌詞で、別の世界に連れて行けるような世界観を描きたいと思っていて。ひとつの物語を描くような歌詞、リスナーを日常から遠くに連れて行けるような歌詞、というか。なのであえて、普段使わないような言葉を使ったりします。マンガが好きな影響もあると思うんですけど、歌詞を書く時はいつも頭の中でビジュアルのイメージを描いてるんですよ。

ーー重ねて不眠症さんの歌詞は、明るさより毒や影のある世界観も印象的な気がします。

不眠症：自分もそういう創作に惹かれるからかもしれません。映画だとティム・バートン監督作品とか、北欧ホラーみたいな作品が好きで。その好みが出てるかもしれないです。

ーーその中で、最初はボカロP活動から、現在は外部シンガーを招いて作る曲も増えているかと思います。ボカロ曲と人が歌う曲、それぞれを作る際の意識の違いはありますか？

不眠症：ボカロだとどうしても自分の中から出たものの域を出ないんですけど、自分の書いた曲を歌ってもらうと、その方の解釈が入るじゃないですか。それによって、もう一段曲の階層が深まるのがすごく楽しくてやってますね。初めてフィーチャリングを経験した時に「あ、なるほどこういうふうになるんだ」と感じた感覚が自分の中でかなり大きくて、それがひとつやり甲斐にもなっています。

ーー初コラボ曲は缶缶さんとの「クリティシズム」ですね。缶缶さんも非常に個性のある歌唱というか、ボカロでは出来ない歌い方が強みの印象です。

不眠症：その経験を経て、フィーチャリング曲を作る時は歌う方の声や表現をかなり事前に意識するようになりました。この方に歌ってもらうなら、ここの歌詞はもうちょっとまろやかな音の言葉がいいな、とか。「クリティシズム」は初めて他の方に歌ってもらった曲ということもあって、かなり思い出深い作品です。そこで制作の方向性の選択肢が改めて増えた、というか。自分の中になかった歌い回しがハマった時の衝撃や、シンガーさんから100％で出てきた表現を目の当たりにすると「うわー、やっててよかった！」ってなりますね。

ーーそういった制作時間の中で、一番不眠症さんの筆が乗る作業はどんな時でしょう。

不眠症：やったことのないことにトライしてる時です。YouTubeでよくDTMのTipsを集めた動画を見るんですけど、「ここでアレが使えるんじゃないか」「このやり方、あの曲のココに使えそう」とか、そういうことを考えてる時間が楽しいですね。初期段階で、そんな試行錯誤を重ねてる時間が結構長いかもしれません。その中で行き詰まって、1週間ぐらい全然手が進まないっていうしんどい時間も当然ありますけど。その分満足いくものができた時の達成感はやっぱり大きいです。そのためにやってる部分もあるかもしれない。

ーーその時間が、楽しくもあり辛くもあるという。

不眠症：曲を作ってて「つまんないな」ってなる瞬間が時々あるんですよ。その理由がわからない時とか、「これじゃないんだよな」って思いつつも代替案が浮かばない時とか。その結果、究極ボツにしなきゃいけない時はけっこう辛いですね。去年なんか約半年かけて作った曲を、「これ、誰も聴かんな」と思ってボツにしたこともありましたし。

ーーそれはなかなか思い切りましたね。半年もかけたのに、ってなりません？

不眠症：でも、「半年もかけたのに」って思うの自分だけだしな、と思って。苦渋の決断でしたけどね。1週間ぐらい「ほんとはボツにしたくないけどな～」って悩みましたから（笑）。