10月10日「重音テトの日」に寄せて シーンに残す足跡と誕生16年目の大躍進、人気急上昇の3つの理由

 彼女の台頭の2つ目の理由は、そういったSV版を含む大勢の“重音テト使い”が現在のシーンを牽引している状況下にあるだろう。その筆頭が、メガヒットを飛ばした「人マニア」や、その後に続く「ホントノ」「ミニ偏」「イガク」などボカロPデビュー時から大半の楽曲でUTAU版の重音テトを愛用する原口沙輔である。

人マニア - 重音テト

 また、昨年から今年にかけてバズを巻き起こした楽曲群も、実はその大半に重音テトが用いられているのだ。各種ランキングトップを独占する「人マニア」の勢いを追い越した吉田夜世の「オーバーライド」、誰も傷つけないハッピーサイクルなネットミームで各SNSを席巻したンバヂの「好きな惣菜発表ドラゴン」。そして、最新作「㋰責任集合体」が注目を集め、処女作「ライアーダンサー」を凌ぐヒットを記録する期待の新人・マサラダも、デビューから一貫して重音テトSVを相棒とするボカロPの一人だ。さらに大漠波新の「のだ」やサツキの「メズマライザー」ほか、複数ソフトが用いられるバズ曲にも重音テトが頻繁に登場。そんな状況から、今やシーンの最旬トレンドには彼女が欠かせない存在であると感じる人も多いに違いない。

オーバーライド - 重音テトSV[吉田夜世]

 3つ目の人気の理由は、先述の声と同様に長年大勢に愛される、重音テトのキャラクターとしての魅力そのものにある。彼女の知名度拡大へと貢献した最初の楽曲「嘘の歌姫」にも描かれるように、歌声を持たない歌姫、あるいは初音ミクの偽物として本来生まれた彼女。そんな悲劇性やアイロニックな性質から、ある種シーンの王道として愛される初音ミクのカウンター的立ち位置に、そのキャラクターを据える人もおそらく大勢いるはずだ。

 言葉を選ばず言えば、これまでVOCALOID・初音ミクの劣化版に位置付けられることもままあったUTAU・重音テト。そんな彼女が時代潮流の中、VOCALOIDより性能面で勝る点も多い“SV”として生まれ変わった点も、その運命の数奇さ、皮肉さにより拍車をかけているように感じられる。

 “初音ミクのカウンターキャラ”として、その唯一無二な物語性に魅入られる人々は今も昔も絶えず存在する。そしてきっとこれからも、彼女はまだまだ多くのリスナーを虜にしながら、シーン興隆の一翼を大いに担ってくれることだろう。

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