大森靖子、『THIS IS JAPANESE GIRL』に刻み込んだ生き様 「読み解かれていくのは、またどうせ10年後」
日本の社会問題はトー横がわからないと何もわからない
ーー神社と言えば、成田空港の中にある東峰神社は、祠には今は何も御神体がないそうなんです。しかも、立地の性格上、なかなか近づくことも難しいらしいんですよ。
大森:それで言うと、AIよりもAI性の高いものが完成してるんですよ、旧時代で。AIアートでそれっぽいものを作ってるけど、誰か元ネタを作った人がいるよね、みたいなことが言われはじめてるじゃないですか。そういう意味で言うと、それって神社の思想と同じなので、もうずっとやってることのプラットフォームが変わっただけ、みたいな。
ーーAIは古いと。
大森:古い、古い、旧時代的です(笑)。
ーーそれに対して、の子さん・大森さん作詞、の子さん作曲、大久保薫さん編曲の「小悪魔的ッ☆相当キレてる feat. の子( 神聖かまってちゃん)」は、まさに人間対人間という感じですね。どう共作したんですか?
大森:の子くんに「作って!」って言って(笑)。1番は8、9割の子くんの歌詞で、私は2番だけ作った感じ。
ーー「ミス・フォーチュン ラブ」は、つんく♂さん作曲、大久保薫さん編曲です。「ゴールド」のイメージでつんく♂さんにお願いして、メロディを受け取ったときの感想はどんなものでしたか?
大森:「めっちゃつんく♂さんやん!」って思いました(笑)。嬉しかったです。めっちゃ聴きました。歌詞はけっこう考えました、2カ月ぐらい聴いて。
ーーその冒頭の〈ああ 君の死因になんて死んでもなりたくないよ〉という歌詞には、容赦ないなと思いました。
大森:つんく♂さんと同じことを自分の言語圏で言いたい、みたいな。つんく♂さんが表現したいゴールと、私が表現したいゴールって、別にそんなに遠くないけど、作りが真逆だったりするので、つんく♂さんが言わなそうな言葉を使ってつんく♂さんと同じ世界を作れたら面白いものが作れるし、違和感がないし、みたいなところを狙って書きました。
ーー〈君の隣の席 お金以外何を/愛させていいのかなんて わかりたくない〉というところに、ホスト狂いの歌詞かと思ったんです。
大森:新宿のイメージで書いて。今、日本の中心は新宿だから。日本の社会問題は、トー横がわからないと何もわからないと思うので(笑)。地方にけっこう行くんですけど、いろんな土地にミニトー横みたいなのができてるんで面白いです。
ーー日本を象徴する場所はトー横、新宿だと。
大森:新宿で同じような仕事をする人も、同じようなシステムも、別に昔からあって、今SNSで拡散されやすくなっただけじゃないですか。立ちんぼが今、生まれたわけじゃないし、立ちんぼって言葉って、ちょっと前は逆に古いとされてた言葉だし。新宿にいる女の子の気持ちをつんく♂さんが歌ってないとは思わないので(笑)、それも書ければいいな、みたいな。
ーー「桃色団地」は聴きまくってます、7インチでシングルカットしてほしいです。
大森:かっこいいですよね、やってくれないかな(笑)。
ーー「桃色団地」は、向井秀徳さんが作詞作曲編曲で、向井さんとのデュエットです。どういう経緯でこうなったんですか?
大森:私、向井さんとツーマンライブをよくしていて、それがもう本当に楽しいんですよ。みんながみんな、「私は大森靖子と向井秀徳を聴きに来ました」っていう教養、素養、覚悟を持って来てくれてるので、もう音を鳴らすだけで、そっちの世界に飛んでいける。急にドープなことをやっても伝わるのが、めちゃめちゃ楽しいんですよ。そこで一緒に演奏するコラボパートをいつもやってくださるんですけど、一緒に演奏する曲があったらいいなと思って、『CONNECT歌舞伎町』で対バンしたときにお願いしに行きました。
ーー即答でOKだったんですか?
大森:即答でOKでした。そのとき、向井さんから「くるりんまつげっていう言葉が浮かびました」って言われて、今私を見ただけじゃないかなって(笑)。だから、どんな曲になるんだろうと思ったら、全然違うかっこいい曲でした。向井さんが歌っている完成した音源が届いて、歌割りを作るのが一番楽しかったです。ここは向井さんをいかして、ここは私が歌って、みたいな。
ーー2001年のナンバーガールの世界のままなので驚いたんですよ。
大森:歌詞を読んで、「自分の世界にはこの言葉ないな」というのが一個もなくて、向井さんの世界に私がそのままいれるんだ、みたいな。銀杏BOYZはすごく好きだけど、銀杏BOYZの曲に私はひとりもいないんですよ、知らない女しかいないんです(笑)。「桃色団地」は絶対に私だ、って。〈6時66分〉とか。自分で言うのはアレですけど、「この世界とこのリズム、グルーヴを崩さずに歌えるのは私だ」って歌いながら思いました(笑)。
ーー「田中愛愛愛子」はsugarbeansさんが編曲です。サブカルのアイコンである「田中愛子」(浅野いにお『おやすみプンプン』のヒロイン)を登場させたことに驚きました。大技じゃないですか。
大森:もう私もそうなってるんですよ。私も記号性サブカルになっていて、浅野いにおさんと名前を並べられることが増えたんです。「浅野いにおを読んでて大森靖子を聴いてるような女はめんどくさい」とか、いっぱい見るんですよ。あと、田中愛子って名乗るアカウントも多いじゃないですか。『おやすみプンプン』を読みこむと、私は『おやすみプンプン』で言うと圧倒的に南条(幸)さん的な人間で(笑)、田中愛子になりたい気持ちもわからないし、もはや田中愛子って何なんだろうっていうぐらい。
ーーたしかに大森さんは南条さんですね(笑)。
大森:でも、嬉しいんですよ、浅野いにおさんは私が音楽を始めたときのレジェンドなんで。浅野いにおさんは7月7日に毎年愛子ちゃんの絵を描いてるんですけど、毎年思うんですよ、「こんな顔だったっけ」って。それってすごいことじゃないですか、人の中で神格化されているようで、実はどんどん書き換えられていく。浅野いにおさんの中でも変わってるのか、わざとそう演出して描いてるのかわからないですけど、自分も大森靖子っていうアイコンについてメタ的に今回のアルバムで曲を書いてるんです。7月7日に「愛子ちゃん自撮り」とか載せてる人がいっぱいいるわけじゃないですか。ある種、歪んだサブカルチャーの広がり方とか、そういうものを描きたかった。