カラコルムの山々、ZAZEN BOYS 向井秀徳を迎えた“夏の奇祭” 圧巻の演奏力&独創性で見せた大器の片鱗

 実像が掴みにくいバンド名、“キネマポップバンド”というキャッチフレーズ、8月にリリースされたEP『週刊奇抜』の昭和のアイドル誌めいたアナクロなビジュアルと相反してAI生成されたようなキメラっぽいMV群の令和感。バンドイメージの焦点が合わないまま百聞は一見にしかずということで、現場に急行した。下北沢 BASEMENTBARにて9月4日に開催されたこの日のライブは、メインソングライターの石田想太朗(Gt/Vo)が主に影響を受けたというZAZEN BOYSの向井秀徳(Vo/Gt)との競演。カラコルムの山々、夏の定番イベントとなっている『トーキョーミッドサマー』、少し遅めの夏至祭の開催である。

 先行の向井は、向井秀徳アコースティック&エレクトリック名義での出演だ。終始アコースティックギターで終わりゆく夏の焦燥と侘しさを軸に、ミニマムな弾き語りだからこそどこまでも内面に情景が広がるライブを展開。カラコルムの山々に向けては「カラコルム山脈にはK2という世界最高峰がある。エベレストより登頂が厳しいと言われるそれを目指すのか」と独特の語り口でエールを送っていた。共演への感謝とともにハードルを上げていくスタイルにフロアから笑いが起こると同時に、両者の関係性にオーディエンスも集中力を上げていく。さすが向井秀徳。

 ソールドアウト公演だけに、カラコルムの山々の出番前には立ち位置でノることができる程度の密度になる。客層は老若男女様々で音楽フリークが多い印象はあるが、中にはわちゃわちゃした男子大学生グループもいる。ライブハウスのキャパにしてはなかなかの多様性である。

 『週刊奇抜』収録の「コラム・超現実館[生田編]」のイントロをSEにサングラスをかけ現れた石田は、ZAZEN BOYSとの出会いを滔々と独白し始める。眼光鋭く熱量たっぷりに語るその様は、一回限りのライブの意味を強く宣言するものでもある。一見演劇的な振る舞いがむしろ自然体のMC以上にこのバンドにはよく似合う。この独白は石田のnoteにまとめられ、公開されている(※1)。2曲目のイントロと共に登場したメンバー3人は揃いのサングラスをかけ、ステージ前列にマネキンのように並ぶ。変拍子のループに乗せ石田がラップと口上の間ぐらいのボーカルを矢継ぎ早に放つ「タイムスリップできない(DJ ver.)」がスタート。音源以上にインスト部分のテクノテイストに体が勝手に動く。

 小川諒太(Key)の下降するスケール、ぐら(Dr)と木村優太(Ba)が構築するタフな変拍子はクラシックのプログレッシブな進化を思わせ、勇ましいメロディはどこか戦隊モノを思わせる「東京自転車」。ここまでたった3曲だが情報量が半端ない。しかも全員巧い。特にジャズやファンクの素養を感じる木村のヌルヌルしたフレージングはサンダーキャットを想起させた。ピアノが特徴的に際立ちつつもグルービーな「盗電団」。が、それも最初の1分半までだ。キック&スネアのリズムはいきなり三拍子になり全員がコーラスを担い、景色を変える。タイトルに示唆されているように、街の電気を奪ってここに集約しアンプリファイしているような錯覚に陥る。さらに謎の民話&呪術風コーラスが怪しい「猫象」へとまたまた景色を変えていく。未発表曲の「妖怪でありたい」では、ぐらのタフなドラミングに彼女の計り知れないバックボーンへの興味が募ったし、“生音DJシャドウ”のようなドープなニュアンスの「からり」はTOKYO No.1 SOUL SETを彷彿させる石田の語り口、イマジネーションを刺激する小川の流麗なフレージングが地下のライブハウス空間を異次元に運ぶ。自分自身の未知と既知が瞬間にせめぎ合っているのがわかる。

 ところで石田のテレキャスターサウンドの冴え冴えとソリッドなサウンドは明らかに向井の影響だろう。そして石田、ぐらが比較的ロックの文脈だとしたら、木村はジャズ、小川はクラシックが背景にあると見た。その複雑な背景のどこか一つのジャンルに傾斜することなく全部乗せてくる割にアレンジは決して暑苦しくない。全員が間合いを真剣に見極めているためだろう。

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