連載「lit!」第114回:チャーリーXCXとビリー・アイリッシュ、ティナーシェ……“刺激的な歌詞やサウンド

 「洋楽離れ」が叫ばれ始めたのは具体的にいつ頃からなのだろうか。このトピックはネット上でもたびたび話題に上がっており、多くの人々がそれぞれの視点から意見を持っているように見受けられる。「グローバルポップ」について語る本連載はもちろん「洋楽」を紹介するわけだが、「洋楽離れ」については何の結論も仮説も提示しない。だが、それについて考えるには何よりもまずは現状把握からだろう。改めてそういった意味でも本記事が何らかの手助けになれば幸いだ。

Charli xcx「Guess featuring Billie Eilish」

 チャーリーXCXの6作目のスタジオアルバム『brat』は、複数のメディアから2024年上半期のベストアルバムとして高く評価された。チャーリーが本作について「とても直接的」と述べている(※1)通り、回りくどい言い回しや華美なリリックは用いず、感情をストレートに表現している。「brat」は直訳すると「悪ガキ」だが、チャーリーによると「ちょっとだらしなくて、時々間抜けなことを言ってしまうような女の子」であり、「自信に満ちているけど、時には気分が落ちてしまうこともある。それでもパーティーを楽しむ。正直で率直で少し不安定」なのが「brat」なのだという(※2)。

 ここで取り上げるのは『brat』発売の3日後にリリースされたデラックス版に収められた楽曲「Guess」に、ビリー・アイリッシュをフィーチャーした新バージョン。チャーリーとビリーの親密なやり取りを盗み聞きするような歌詞が刺激的だ。例えば、最初のヴァースにおけるチャーリーの〈You wanna guess The color of my underwear(下着の色を当ててみたいんでしょ)〉というリリックに対し、ビリーは〈Don't have to guess The color of your underwear(その必要はないよ)〉、〈The ones I picked out for you in Tokyo(君のために東京で選んできた)〉と返す。そして最後は〈You wanna guess If we're serious about this song(私たちがこの曲についてどのくらい本気かどうか当ててみたい?)〉とリスナーに問いかけるのだ。こういったあまりに挑発的でスリリングな内容が2分半にも満たない短い尺の中に詰め込まれている。

 もちろん、ロンドンのレイヴカルチャーから強く影響されたサウンドもアルバム全編に渡って冴えているが、本楽曲より前に発表された「Girl, so confusing」ではチャーリーがロードをフィーチャーし、長年の確執を解消する内容が話題となった。つまり、今作は特に歌詞まで読み込む価値のある作品なのだ。

Charli xcx - Guess featuring Billie Eilish (official video)

Tinashe「Nasty」

 アメリカのR&Bシンガー、ティナーシェのシングル「Nasty」は、自信に満ちたセクシーな女性像を描いた楽曲。彼女が敬愛するジャネット・ジャクソンやTLCといった往年の女性R&Bアーティストの系譜に連なるオーソドックスなR&Bの要素とヒップホップ/ラップを掛け合わせたもので、その繋ぎ方も非常にスムースだ。また、この曲がTikTokでのバイラルヒットの勢いを受け、インディペンデントで活動するようになってからのティナーシェにとって最大のヒットとなった。

 歌詞で特に印象的なのは〈I've been a nasty girl, nasty〉と無感情なロボットのような声で繰り返される一節だ。ラップと歌のパートを繋ぐ役割も果たしつつ、「nasty girl」という言葉を誇りとして再定義している。その点でチャーリーXCX『brat』とも通じるテーマを持っていると言えるだろう。

 ティナーシェはレーベルを脱退した理由について、自身のクリエイティブなコントロールを取り戻すためだと語っている(※3)。独立後初の大きなプロジェクトである7作目のアルバム『Quantum Baby』のリリースに向けて、しっかりとメインストリームでも存在感を発揮できる実力を示した「Nasty」は、ティナーシェの音楽キャリアにおける重要な節目となったのだ。

Tinashe - Nasty (Official Video)

Zach Bryan「28」

 沖縄生まれでオクラホマ州育ちのカントリーシンガーソングライター、ザック・ブライアンは、アメリカ独立記念日である7月4日に最新アルバム『The Great American Bar Scene』をリリースした。このアルバムもまた19曲63分というボリュームで、彼の過去作品と同様になかなかの大作である。中でも特に注目されているのが4曲目の「28」だ。静かなギターのストロークから始まり、徐々にピアノとバイオリンが加わる。ブライアンの感情が漏れ出るような歌声とバイオリンの響きが、アルバムの序盤にしてクライマックスに至ったような雰囲気を演出している。歌詞はブライアンが28歳の誕生日を迎えた際、子犬の手術を終えた後に感じた幸福感を綴ったものだという(※4)。アルバム発表以前からライブで披露されていたため、ファンの間でリリースが待ち望まれていた。

 昨年の米チャートはカントリーが席巻し、ブライアンもカントリー勢力の急先鋒の一人だった。今作ではブルース・スプリングスティーンやジョン・メイヤーといった大御所とのコラボも実現しているように、ブライアンはカントリーの伝統に根差しながらさらなる一歩を進めたと言えるだろう。今年はビヨンセの『COWBOY CARTER』がカントリーを取り入れた作品として話題になり、同作で活躍したシャブージーは「A Bar Song (Tipsy)」がロングヒットを記録している最中だ。カントリーと米国の音楽シーンの動向は、まだまだ見逃せない。

Zach Bryan - 28

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