climbgrow、自由なロックンロールを鳴らせた理由 新体制から生まれる自然体のエネルギー
昨年7月に新メンバーとして谷川将太朗(Ba)が加入し、新たな体制でスタートを切ったclimbgrow。2020年の1stアルバム『CULTURE』以来3年8カ月ぶりのパッケージリリースとなるミニアルバム『LOVE CROWN』(5月15日発売)は、コロナ禍やメンバーチェンジを乗り越えて新たなゼロ地点に立った彼らの、前向きに燃えるモードが注ぎ込まれた作品だ。これまでにないサウンドを取り入れ、大きく広がった音楽性。より素直に、自らの心情や自分を形作るものを投影した杉野泰誠(Vo/Gt)の歌詞。結成から10年を超え、より自由に、より力強く進み続ける彼らの姿に頼もしさすら感じる。谷川のナイスキャラも含めて、バンドに大きな変化が起きていることは、このインタビューからも感じてもらえると思う。(小川智宏)
谷川将太朗の加入がもたらした大きな変化
――3年8カ月ぶりのリリースですが、バンドとしていろいろな変化もある中で、ここまでどんな気持ちで進んできましたか?
杉野泰誠(以下、杉野):コロナ禍があって、普通にバンドやってたら続けるのもちょっと心が折れてたと思うんですよね。でも、新しく入ってくれたベーシスト(谷川)とは地元が一緒で、サポートでも助けてもらっていたんですけど、ここに最後のピースがいたんだなって。
谷川将太朗(以下、谷川):こんにちは。
杉野:(笑)。「(前のベーシストが脱退してから)次、誰にしようか」みたいな感じで言ってたんですけど、すんなり、いつの間にか入ってましたね。
谷川:勝手に入りました。まだバレてません。
杉野:っていうぐらいのフィーリングがありますね。
――谷川さんは加入して、どういう気持ちでclimbgrowをやってきました?
谷川:僕が入ったのは去年の7月ですが、サポート自体は去年の11月くらいからやってたんです。その時はバンドに入りたいっていうテンションでサポートに入っていたわけではなくて、高校生の時からの友達なので、不思議な気持ちもありつつ、めっちゃ楽しんでましたね。今も楽しいのがずっと続いてる感じです。メンバーになって多少の自覚とか責任感はあるんですけど、それ以外は別にないというか。たまにまだ不思議な気持ちになったりもしますけどね、寝る前とかに(笑)。
――なるほど(笑)。
谷川:みんなで集まって話し合ったとか、そういうのもないんで。ほんまに勝手に入ったぐらいの感じですよ。まあ、打ち上げで他のバンドマンとかに「入る可能性ないの?」って聞かれて、「全然入りたいって言ってるけど、断られてるんですよ」と言って、入りたい意思は示してたんですけど。「ほんまにどうなん?」みたいな話し合いはなかったんで。
――ということは、climbgrowに入りたかったんですね。
谷川:入りたいっていうか、他の誰かが入るのが耐えられへん感じでしたね。当時、僕以外にも誰かしら先輩とか同期とかがサポートしてたんですよ。その時もとんでもない嫉妬に狂ってたんで。気持ち的には、ほんまに彼女を寝取られてるぐらいのテンションになってて。
杉野:重たいなあ。
谷川:「僕以外の誰かが入るのがキツいな」みたいな感じでしたね。だから「どうか入らせてくれ」って感じでした。
――谷川さんみたいなキャラがclimbgrowに入ったというのは大きいんじゃないですか?
杉野:そうですね。みんながより喋るようになりました。
――音源にもそのムードが出ているような感じがしますね。
近藤和嗣(以下、近藤):将太朗が入ってバンドが明るくなったっていうのは今の会話でわかると思うんですけど、泰誠もすごく楽しそうになった。もうちょっとピリピリすることが多かったイメージですけど、将太朗が入ってから毎日ニコニコになってる。
杉野:喋りかけてくるんで。
谷川:こいつ(杉野)っすよ、喋りかけてくるの。俺がしゃあなしに喋ったってる。
杉野:なんかオウムと話してるみたいな感じ。
谷川:何がやねん!
杉野:教えたことを喋ってくれるから。初心に戻れる感じがしますね。
近藤:(笑)……で、今まであまりできなかったようなSNSやったり、グッズとかもいろいろ増えるようになって、僕自身も楽しいし、今売れそうな空気を感じてます。いい感じですね。
谷口宗夢(以下、谷口):本当にずっと楽しくてで。僕は将ちゃん(谷川)と中学から一緒なんですよ。クラスも2年間同じで、その時からずっとクラスの中心というか、みんなを笑わしてくれる存在で、そのままそれがバンドに来たみたいな感じ。自分にとっても今はめっちゃ楽しい。メンバー脱退とかいろいろあったんですけど、変わらずこの4人でずっとやっていきたいと思ってます。
――杉野さんが楽しそうになったという話もありましたけど、それ以前はコロナ禍もあり、その中でもメジャーシーンで戦わないといけない部分で、結構苦しんでいたんですか?
杉野:そうですね。お客さんもしんどそうだったし、自分らももちろんしんどいじゃないですか。制限の中どうやってライブするかを考えるだけで、(脳の)キャパシティがパンパンで、他のことを考える余地すらなかったぐらいでしたね。そしたらまあ、ひょうきん者が入ってきたんで。
谷川:ひょうきん者って!
杉野:楽しくやってますよ、今。
――彼の加入がきっかけの1つになって、トンネルを抜けた感じもあるんですね。
杉野:でも、あんまり褒めすぎると調子乗るんで。
谷川:乗らんタイプ! 意外と乗らんタイプ!
杉野:このインタビューも俺が目立たへんから苦しいよ。
谷川:これから喋れるよ!
――すごい間でツッコんでいきますね。
杉野:そうなんですよ。うるさい。(発言を)ギュッとしてくれたらいいのに。
谷川:違う、ボケすぎやねん!
――(笑)。
“好きなもの”を1つにしたことで振り切れたサウンド
――そんな中、去年の3連続配信リリースを経て今回のミニアルバムに向かっていったわけですけど、この4人になって改めて曲を作って鳴らしていく中で、楽曲的な面での変化は感じますか?
杉野:より一層、自分のいる位置というか……まあ歌詞ですけど、誰かを見上げている状態が多いなと思って。1曲目の「沈まぬ太陽」とかは、今自分がいる位置から見た目線で歌ってますね。
――そういう目線自体はずっとあったと思うんですけど、ここまで素直に曲にすることはあまりなかったと。
杉野:そうですね。まあ歳っすかね。
近藤:渋みが出てきた?
杉野:今年28歳になるんで、なんか伝説残さないとなって。いつ死んでもいいように。
谷川:むっちゃかっこいいやん。最高やん。
――年齢もそうだし、バンドを10年以上やってきた中で感じているものが出ているような気がしますよね。制作の雰囲気はどうでしたか?
近藤:アルバム全曲通したコンセプトがあって作ったわけではなくて、長かった制作期間の中で蓄積されていって、その時々のものが出ているんですけど。その中でも、やっぱり去年3連続リリースした曲とかは将ちゃんが入る前から仕込んでいたもので。でもなんやかんや、(メンバーで音を)合わせられずに眠っていた曲たちだったんですけど、将ちゃんが入って合わせてくれて、最終的にむちゃくちゃしっくりきましたね。ベースの音がシンプルに好きなんで。その好きな音で合わせられて、サウンド的には今までで一番満足がいく形に仕上がってると思います。ちょこちょこ新しい挑戦をしましたし。「27」では(谷川に)ウッドベースを弾いてもらったり、アコースティックギターをフルで使ったり。
――『LOVE CROWN』というタイトルは?
杉野:作るにあたって、自分が一番好きなものは音楽やったり、趣味で乗ってるバイクとかやなと思ったんですけど、そういうものをアルバムの中で1つにしちゃおうということで。ほんまの王冠じゃなくて、“自分が思う好きなもの=王冠”という意味合いで『LOVE CROWN』ってつけて。聴いてくれてる人にもそれを探してほしいなという気持ちですね。
――自分の好きなものもそうだし、やってきたことも、これからやっていきたいことも含めて、正直に向き合ってる感じが歌詞からすごく伝わってきます。より等身大なclimbgrowが見える作品になったと思うんですよね。
杉野:そうですね。明確に何が違うかはわからないですけど、何かが全然違うというか。さっき和嗣も言ってたんですけど、「これ、売れてまうな」って。音楽でよりいいメシ食いたいんで。
谷川:でっかいメシ食いたいからな。
杉野:そう、でっかいメシ食えそう。
谷川:でっかいメシって聞いたことない表現(笑)。
――少なくとも結果として、このアルバムがより開けて、広がり得るものになっているのは間違いないから。でも、売れようと思って作ったらこういうものには絶対ならなかった気もします。
杉野:ああ、そうですね。吹っ切れた感じはある。
――サウンド的にもかなり幅が広がってますし。
近藤:「沈まぬ太陽」「罪ト罰」とかやったら、これまでにないブラス系の音も入れてるんですけど、そういうのも面白そうだからやってみたいなっていう気持ちはあったんです。ロックンロールと合わへんなと思って今まで手を出せなかったけど、泰誠の声とブラスってすごく合うなって。制作期間が長かった分、そういう発見をいろいろ蓄積できてきたというか、やり方がわかってきたんです。いくらでも攻めていいやっていう気持ちにもなりましたし、「罪ト罰」でのミッシェル(THEE MICHELLE GUN ELEPHANT)の「CISCO~想い出のサンフランシスコ (She's gone)」オマージュとかも……ある意味バカになった編曲というか、ちょっと遊び心を持てた。制作ってしんどいものでもあったんですけど、今回はのんびりできたし、ずっと楽かったなっていう感じがします。
――その自由度はすごく感じられるんですよね。時間的、物理的にも、そして精神的にもより伸び伸びといろんなことをやれたんじゃないかなと。
谷口:今回は個人的に好きな曲ばっかり入ってて。泰誠発信で作る曲も和嗣発信で作る曲も、どっちも好きなんですよ。ドラムでも今回、「沈まぬ太陽」の3連のビートとか、変わったビートにも挑戦していたり。そういうのもレコーディングしてて楽しいなと思ってました。
――『CULTURE』もめちゃくちゃかっこいい作品だったと思うんですけど、あの時は「自分たちはこれだ」っていうのをガッチリ固めて打ち出す姿勢だったと思うんです。でも今回は、そうやって自分たちで決めたタガをどんどん外していっていいというような感覚があると。
近藤:そうですね。
――杉野さんの歌も変わりましたよね。
杉野:そうですか?
近藤:でもほんまに大人になったというか、27歳で、やっとこの声に年齢が追いついてきたって感じ。振る舞いとかもそうで。
谷川:なんか、お父さんが話してるみたいやな。
杉野:やっと認められた。ちょっとドキドキしてます(笑)。