East Of Eden、草野華余子により引き出された真骨頂 個性を爆発させながら強固なバンドへ

コンパクトかつ5人の持ち味を詰め込んだ楽曲構成

――楽曲のテーマや方向性はどのように詰めていったんですか?

Ayasa:ドラマサイドからはわりと“お任せ”という感じで。

草野:ドラマのプロットを拝見してから、改めてEast Of Edenと私でお話しさせていただいたんですけど、そのときに私から「活動してきた中で感じた怒り、悲しみ、悔しかったことについて教えてください」と質問をさせていただいたんです。

湊:ありましたね。

草野:私はご依頼いただいて曲を書くとき、アーティストさんからいくつかキーワードになる言葉を引き出せるように、質問状を送らせていただいていて。その返答からピックアップした単語を必ず歌詞に入れたりするんですけど、今回は女性らしい脆さ、強さとかそういう部分……いくらジェンダーの問題にオープンな社会になってきたとはいえ、やっぱり女として生まれてきたゆえに感じる苦しみとか悔しさ、そういう部分は私も過去に経験してきたことなので、そこを楽曲に落とし込みたくて。なので、そういった質問の中からEast Of Edenのこのおふたりと私の重なる部分を情報として持って帰り、かつドラマでは人に裏切られた女性が、自分の復讐ではなく誰かの代わりに悪とされるものを裁いていくということで、怒りがキーワードなのかなというところで、爆発的な感情は絶対に楽曲のメロディやアレンジに落とし込みたいと思っていました。

――それが、聴いていると感情がたかぶって、気づいたら爆発するような感覚につながっていると。

草野:私もAyasaさんと一緒でクラシック出身なので、押し引きじゃないですけど曲に緩急をつけることはすごく心掛けているので。そう言っていただけて嬉しいです。

East Of Eden / Judgement Syndrome (Music Video)

――サウンドプロデューサー目線で、草野さんがアレンジなどでこだわったポイントは?

草野:私はこのバンドに関して、Ayasaさんのバイオリンはツインボーカルのひとつぐらいに捉えていて。ボーカルの裏メロで必ずバイオリンが歌っているものにしたいと同時に、バイオリンのインストだけ聴いても面白いものにしようというのは、大きなテーマでした。それをアレンジで入ってくれた堀江晶太くんと共有して、私が鼻歌で歌ったバイオリンのメロディを彼に起こしてもらったり、堀江くんがいろいろ作ってくれたりしたものを、レコーディングでAyasaさんにさらに派手に弾いていただきました。

――確かにEast Of Edenの強みって、ボーカルが主メロを歌っている後ろでバイオリンが違ったメロディを奏でて、それが絶妙に絡み合うところですものね。かつ、ほかのメンバーも強烈なソリストばかりで、あれだけ個性の強い人たちが集まって一斉に音を鳴らしているのに、特に今回は調和が取れているといいますか。歌を引き立てるためのバランス感が絶妙だと思いました。

Ayasa:今まではドラムを録ってから、ベース、ギター、歌を録って、最後にバイオリンは録ることが多かったんですけど、今回はメンバーのスケジュール的な問題もあってベースやギターより先に、歌やバイオリンを録ったんです。その音源を聴いて、ざえもんちゃん(わかざえもん/Ba)やYuki(Gt)さんが「じゃあ、ここはこうしようかな」と弾いてでき上がったので、全体の様子を見ながら攻める感じが以前とは違うところなのかもしれません。しかも、楽曲の作りが今までのEast Of Edenとは全然違って、イントロも間奏もアウトロも以前とはアプローチが異なっている。そこはお客さんとしても新鮮に捉えてもらえているんじゃないかなと思います。

――曲構成も面白いなと思っていて。冒頭の掴みに派手なメロディがありますが、このメロディはこの1回しか出てこないじゃないですか。

草野:この冒頭、実は最後につけ足したんですけど、ドラマで始まってパキッと主題歌が入ってきた瞬間に、私が大好きなあかねちゃんが歌い出したら、私がオタクだから盛り上がるなっていう。

湊:(笑)。

草野:本当に純粋なファンの気持ちで、ど頭からガツーンと歌ってほしくて。それと同時にAyasaさんもしっかりバイオリンを弾いていて、ほかの楽器もそれ1本で音像が埋まるぐらいに派手にフレージングしてもらっているので、そこはちょっとドラマありきというのもあります。あと、そこにテーマとなる歌詞を入れようというのも強く意識していて。

――確かに、頭の〈白と黒 天秤は揺れて/軋む刃 審判の時だ〉というフレーズは、この楽曲の軸となる内容ですものね。で、そこからの流れがAメロ、Bメロ、サビ、Aメロ、サビ、Bメロ、サビという独特な構成で。

草野:それこそ「紅蓮華」とかもそうなんですけど、私はあまり2番以降を繰り返すような構成では曲を作らなくて。時にはシンプルであるほうがいい場合もあるんですけど、East Of Edenの場合はプログレッシブなスタイルやメタルの要素などアカデミックな部分が際立っているので、そこを曲の面白さにつなげたいなと思ったんです。例えば、サビ前にわりとオルタナティブなフレーズが入っていたりするところは、これまでのEast Of Edenをちゃんと引き継いでいますし、加えてギターにも見せ場も作りたい、ベースのスラップソロも入れたい、ということをぎゅうぎゅうに詰め込んだらこのような構成になりました(笑)。

――それでいて無駄が一切感じられないんですよ。

草野:特にサブスク中心の時代になってからは4分以上の曲は長くてしんどいという話もよく聞きますけど、そういうときになるべくライト層にも届いて、ドラマが好きな方がカラオケで歌いたくなるように、なるべく3分台で収めたい。もともと2番にもBメロがあったんですけど、曲冒頭に起点となるDメロを持ってきて、そこに一番言いたい歌詞が入ればというところで、なるべく不必要な要素を削ぎ落としていきました。

本能の湊あかね&理性のAyasaによるバランス

――湊さんは歌詞やメロディについて、ご自身の中でどう解釈して向き合いましたか?

湊:歌詞を読んだとき、私の知らない言葉や漢字がたくさん入っていて。

草野:可愛い(笑)!

湊:(笑)。まずはそれを検索するところから始めたんです。で、こういう意味なんだということを徐々に理解して、自分に落とし込んでいって。あとは、レコーディングのときに草野さんにディレクションしていただく中で、楽曲の世界観や歌詞の意味を説明していただきながら歌っていきました。

草野:私もずっとあかねちゃんのことを見てきたから、わかっていたことなんですけど、本当に動物的感性のシンガーだなと。「こういうふうに歌ったらカッコいいかも」って言ったことに対して、私が歌うよりも100倍カッコよく返してくれるんです。でも、文章でちょっとロジカルに伝えると、わからないという反応が返ってくる。「本当に本能で生きている!」と思って、ますます好きになりました(笑)。

湊:実際、ディレクションしていただく中で、草野さんとの距離が縮まったと思っていて。

草野:私はファンだったから最初とても緊張していたけど、途中からは「絶対に頑固でしょ?」とか話せるようになって(笑)。

湊:言ってましたね(笑)。

草野:そういう絶対に曲げないという強さは、ロングトーンだったりピッチ感のよさからすごく感じました。これは技術的な話なんですけど、prediaにはメロディの“音飛び”が激しくて、その飛んだあとにロングトーンがくる曲があるんですね。そういうパートをあかねちゃんが担うことが多かったんですけど、今回も〈"Judge, Hand down."〉っていうところでそれを反映しているんです。あと、ミッドローの響きも素敵なので、Aメロにしっかり取り入れていたり。

――ファンとして湊さんの魅力を熟知しているからこそ、ですね。

湊:自分で歌ってみても、どこを取っても私っぽい感じで作っていただいて、ありがたい限りです。本当に歌っていて気持ちよくて、〈"Judge, Hand down."〉のところも「そう、これこれ!」と自分でも思いましたし。

草野:曲の序盤はあかねちゃんが今まで歌ってきたスタイルよりもちょっと大人なメロディや節回しが多いんですけど、我慢して我慢して〈"Judge, Hand down."〉で一気に爆発するからすごく気持ちいいだろうなって。ボーカルのテイクも私が選別させてもらったんですけど、この音は陰っているから本来のあかねちゃんよりちょっと暗い音がしていてもったいないと思ったら、その言葉の1音だけいいテイクを探し出してハメるっていうやり方をしています。これは海外のトラックメイカーのやり方なんですけど、3本いいテイクを作り切って、最終的にいいところをつないで完璧な1本を作る。ご本人が歌える以上のものを作って、それをライブで超えてもらうみたいなことは、わりと今は世界的に主流なのかな、と。

――アーティストに対する愛情やリスペクトの気持ちが強いからこそ、それだけハードルを高く設定すると。

草野:そうですね。今回に限らず、全アーティストさんと全曲こういう向き合い方をしています。私にとって音楽ってコミュニケーションツールなので、油断したり手を抜くということ自体があり得ないし、そうしないと生きている意味がない。だけど、特に愛情が爆発すると、頼まれていないことをやることもあるんだと今回強く感じました(笑)。

Ayasa:そう言っていただけるのは、本当に光栄です。私と湊さんはレコーディングにおいて、草野さんからディレクションしていただいたんですが、バイオリンのテイクに関してはわりとノイズっぽいアプローチとかもデモの段階で打ち込みで入っていたので、これを生で録ったときにどうしたらよりカッコよくできるかなと考えて、いろいろフレーズや弾き方を試すのはすごく楽しかったです。しかも、普通のバイオリンとは違うアプローチでフレーズを入れていただいていたので、ただ綺麗に弾くだけではなくちょっと荒っぽさも入れつつ、ノイズもカッコいい感じに聴こえるように運指やボウイングについても積極的に考えました。

草野:これまでもバイオリニストさんとご一緒する機会はありましたが、Ayasaさんはクラシックの延長線上でポップスやロックにバイオリンを入れる人じゃなくて、歌の一部として鳴らしていることが素晴らしいなと思います。今おっしゃっていた歪ませるとか、弦鳴りでしゃがれた声みたいなニュアンスをどういう速度で出すかというところにも敏感な方で、すごくロジカルに捉えてくれて。そういう点では、あかねちゃんとは真逆かもしれないですね。本能のあかねちゃんと理性のAyasaさんが、最終的にひとつのところにまとまって帰結する。それを1日のレコーディングで録らせてもらったのですが、全く逆のディレクションになったのが本当に面白かったです。

湊:私のときは「牧場で歌っているみたいに!」とか「縦に伸ばすんじゃなくて、横に広く!」とか「30メートル先の床に叩きつけるみたいな!」とか、そういう説明でしたし。

草野:そう、あかねちゃんはそういう説明ですぐに理解してくれるんですけど、Ayasaさんとの会話は「ここの駆け上がり、ちょっと遅かったですよね」とか、わりとロジカルで。

Ayasa:確かにそうでした。

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