藤井 風、Vaundy、milet……洋楽と邦楽の間をシームレスにするSSW 由薫、WurtSら新星続く?

 次にピックアップするのは、WurtSである。マーケティングを学ぶ現役大学生アーティストとして、自称“研究者×音楽家”として2021年に本格始動。「TikTokの可能性」「オルタナティブロックのリバイバル論」「縦型MVの分析」などをテーマに、研究の一貫として楽曲を発表していくなか、「分かってないよ」(2021年)が、TikTokを中心にバズを起こしヒット。以降、プレイリストの常連アーティストとなった。2022年の年末には「分かってないよ (Sped Up)」(「分かってないよ」の早回しバージョン)をリリース。2023年初頭から楽曲の“倍速使い”がTikTokをはじめとしたショート動画で流行り始めたことを鑑みると、研究に基づいた先見の明を発揮した形である。ハイペースで楽曲制作リリースを続けるなかで、“研究対象”のジャンルも変遷。研究結果は、音楽家 WurtSのコンポーザーとしての実力を底上げした。[Alexandros]やChilli Beans.とのコラボレーション、さらにはコンスタントなライブ活動も音楽家としての自分を確認する要素になったのではなかろうか。SNS(ネット)とフィジカル(ライブ)の両立を目指していると思わせる昨今のWurtSの活動展開は、もしかしたら、ネットとフィジカルのシームレスの域に到達するかもしれない。

WurtS - 分かってないよ (Music Video)

 今年1月にデジタルリリースされた最新曲「SF東京」(テレビ朝日系ドラマ『グレイトギフト』挿入歌)は、自己分析した独自のセオリーを元に、半分勢いで作っていた感のあるフックが、曲調に合わせて考え抜かれて散りばめられているのがわかる。メロディと言葉、ボーカルアプローチと、“複数の要素がハマった”ことでより強烈なフックになっているところも、音楽家WurtSが進化しているポイントと言えるだろう。

WurtS – SF東京 (Official Audio)

 最後に紹介するのは、現在20歳の音田雅則だ。高校在学中の2020年6月からTikTokで「歌ってみた」の投稿を開始しており、ピアノかギターの弾き語りでさまざまなアーティストをカバーしているが、時代を問わずJ-POPのバラードが圧倒的に多い。これは音田が自分で歌いたい曲、あるいは自分で歌ってみて合っていた曲をセレクトしている結果だと思うが、「歌ってみた」動画をコツコツ投稿し続けることで、歌い手としての自分や音楽作りの方向性が見えてきたのではないだろうか。TikTok内でのオリジナル曲の初出しは2021年4月で、「AM5:00頃に聞いてほしい曲」として、夜明けの町の写真を使ったリリック動画を投稿している。音田が注目されたのは、2022年10月にリリースされたバラード曲「ウエディング」だ。自身の音楽活動を応援してくれた姉の結婚式のために書き下ろされた楽曲で、SNSを中心に拡散され、大々的なヒットに繋がった。

『ウエディング』/ 音田雅則

 音田の活動で興味深いところは、オリジナル曲デジタルリリースしてからも頻繁に「歌ってみた」動画を投稿し、今なお継続しているところだ。そのセレクトは、J-POPのラブバラードをディグっているようにさえ感じられる。2024年2月上旬現在、最新の「歌ってみた」投稿は1月20日、藤井 風の「花」をカバーしている。音田の認知度をさらに広めたのが、2023年7月にデジタルリリースされた「fake face dance music」だ。〈洒落た夜に/流れたメロディー〉というワンフレーズで始まるこの曲は、歌詞に〈跳ねたテンポに/重ねるメロディー〉とあるように、洒脱なメロディとリズム感を重視した譜割りが特徴で、アンニュイなムードや〈心をハイジャックされた〉といった言葉のチョイスなども含み、SNS発信のシンガーソングライターであるimaseやなとりが作り出したトレンドのド真ん中に切り込んできている。音田にとってはある意味チャレンジ曲だったと思うが、この曲が「ウエディング」以上のバズを起こした。Spotifyによる躍進を期待する次世代アーティスト「RADAR: Early Noise 2024」にも選ばれた音田雅則。これからどんなシームレスを体現してくれるのか、楽しみである。

『fake face dance music』/ 音田雅則

 最後に今回紹介したシンガーソングライターの共通項を挙げるとすれば、デジタルリリースという形態を効果的に使っているところだろうか。一曲あればシングルとしてリリースできる。リリース頻度が上がることで、アーティスト活動が活発であることを窺わせることができるし、音楽配信サブスクリプションサービスやSNSなどの視聴回数でリスナーの反応もダイレクトにわかる。

 数年前、デジタルシングルリリースばかりで、もしかしたらアルバムという形態がなくなってしまうのでは? と、いち音楽リスナーとしてぼんやり思っていたが、それが杞憂だとわかった。それだけでも音楽好きの冥利につきる。

※1:https://www.billboard-japan.com/d_news/detail/134115/2

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